第117話 王都ベルカイム
ゆったりと進んで、王都へと辿り着く頃には日が暮れ始めていた。
「ふぅー。やっと着いたわね・・・。遅くならないで助かったわ。みんな、お疲れ様。」
ルバークは御者台で体を伸ばしながら言う。
野盗紛いの男たちのせいで、予定よりだいぶ遅い到着となっていた。
「わぁ~、凄いねぇ!見て見て、川が流れてるよ!」
王都は堅牢な要塞の様で、サンテネラやフィリムとも違う雰囲気だった。
街の外壁の外側にはお堀が整備されており、門には跳ね橋が設置されている。
「威圧感が凄いですね・・・。外壁もサンテネラよりも高い・・・。」
高い街壁に圧倒されながらも、何とか声を絞り出す。
王都ベルカイムへと続く門には、すでに長蛇の列ができていた。
列の最後尾に並び着くと、馬車を出てガンドに声を掛ける。
「ガンドさん、そろそろ変わりますよ。中で休んでてください。」
「おぉ、すまんのう。助かるぞい。」
馬たちの手綱を受け取り、馬車と並ぶように列に並ぶ。
すると、前方に並ぶ人たちから変な目で見られることに気がついた。
何かを言われる訳では無いが、何となく気まずい感じだ。
周りの目を気にしないように、前だけを向いて耐える。
しばらく並んでいると、門の方から兵士が駆け付けてくるのが見える。
これまでに通ってきた街の門番たちとは違い、装備が統一されており、威圧感すらある。
「はぁ、はぁ。お、お前たち、そいつらは一体どうしたんだ?」
「王都へ来る途中の峠で襲われたんです。捕まえることができたので、連れてきました。」
「はぁ、そうか・・・。詳しい話を聞かせてもらいたい。私についてきなさい。」
「この馬車も一緒でいいですか?ルバークさん、聞いてましたよね?」
御者台に座る、ルバークに問いかける。
「ええ、聞いてたわ。わたしたちも一緒に行きますね。案内、お願いしますね。」
「あぁ、わかった。こっちだ。ついてきなさい。」
兵士は馬の手綱を半分引き受けて、俺たちを先導するように門へと向かう。
俺たちは門の脇にある兵士の詰所へと案内され、捕らえた男たちは馬ごと別の兵士に連行されていった。
「そこに並んで座ってくれ。」
詰所の中には剣や槍が無造作に壁に並べられ、部屋の中央にはイスとテーブルがあった。
指示された通り席に着くと、向かいの席に俺たちを連れてきた兵士が座った。
「お前たちはどこから来たんだ?王都へ来た理由も合わせて教えてくれ。」
口ぶりは軽いが、どこか尋問の様な雰囲気がある。
向かいの兵士はリーダー格なのか、部屋にいる兵士たちは気を付けの姿勢で壁際に並んでいる。
「わたしたちはサンテンネラの近くの集落から来たのよ。王都へは、この子たちが冒険者ギルドから招聘状を受け取ったの。ダイク君、見せてあげてもらえる?」
言われた通り、鞄からジョセフの用意した羊皮紙を兵士に渡す。
「どれどれ、見せてもらうぞ。」
兵士は紐を解き、羊皮紙を広げて中身を読む。
「確認をとるため、少し預かるぞ。お前、これを冒険者ギルドのマスターに見せて、本物か確認して来てくれ。」
後ろに控えていた兵士に渡すと、兵士は急いで詰所を出て行った。
向かいの兵士に峠であった出来事を説明していると、出て行った兵士が戻ってくる。
「そちらのお二方が鬼蜘蛛兄弟です。間違いありません!招聘状は本物でした!」
・・・鬼蜘蛛兄弟?
シラクモとクガネを連れているからかな?
というか、いつの間に二つ名のようなものがついたんだ・・・。
「そうか・・・。お前たちが噂の。すまんが、鬼蜘蛛を見せてもらえるか?いるんだろう?」
「シラクモ、出ておいで。」「クガネも出ておいで!」
それぞれに呼びかけると、シラクモは俺の頭の上に。
クガネはロゼの肩の上に跳び出てくる。
向かいの兵士は鬼蜘蛛たちを見ると、頭を下げて涙声でお礼を言った。
「ありがとう。君たちのお陰で・・・。すまん、この方々を冒険者ギルドへお連れしろ!」
顔をあげた兵士は目じりから涙を流し、拭いながら戻ってきた兵士に命令を下した。
「はっ!こちらへどうぞ!」
何故お礼を言われたのか、何故向かいの兵士が泣いたのかも分からないまま、俺たちは詰所を後にする。
「みなさんは馬車にお乗りください。冒険者ギルドまでの先導はわたしがします。」
俺たちが馬車に乗り込むと、兵士はロデオの手綱を握って前へと進む。
「何だったのかしら?よく分からないけれど、早く済んでよかったわね。それにしても、二人は鬼蜘蛛兄弟って呼ばれてるの?」
「ボクは初めて聞いたよ!ダイク兄は?」
「俺だって初めて聞きましたよ。街中ではシラクモたちをあまり見せないようにしてたのに・・・。」
「まぁ、いいじゃろ!二人が街に認められたってことじゃ。胸を張らんかい!」
そんな話をしていると、馬車は止まって兵士が馬車の扉を開けた。
「お待たせしました!こちらが冒険者ギルドです!こちらはお返しします!わたしは馬車を見てますので、みなさんどうぞ中にお入りください!」
兵士は羊皮紙を俺に返し、ロデオの元へと戻っていった。
「これって、そんなに凄いものなんですかね・・・。なんだか、嫌な予感がしますね。」
封をされていたため、中身は読んでいない。
今なら読めるが、読んだところで引き返せる状況でもない。
「諦めるんじゃな。ほれっ、行くぞい!」
ガンドは俺の背中を押す様に、馬車の外へと押し出してくる。
「わかりましたよ。ロゼも行くよ!」
ロゼに手を伸ばすと、繋いでギュッと握ってくれる。
「うん、行こうか~!」
馬車は冒険者ギルドの真ん前に停められており、周りにいた冒険者たちは何かと俺たちのことを見ていた。
「中に入りましょう。あんまりここにいては、みんなの邪魔になるわよ!」
ルバークはフードを被り、周りを気にすることなくギルドへと入っていく。
「ほらっ、ダイク兄も行くよ!」
ロゼに引っ張られながら、ガンドに背中を押されて冒険者ギルドに足を踏み入れた。
「おう、待っていたぞ!」
王都の冒険者ギルドの内部を見渡していると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「えっ!?なんでいるの~?ここ、サンテネラじゃないよ!?」
入って右手にある掲示板の側に、タンクトップを着たリンデンが立っていた。
「あまりに暇だったからよ、王都の解体部屋の手伝いついでにマスターからの知らせを持ってきたんだ。お前たちが王都に来るぞっていう知らせをな。」
俺とロゼの頭をワシワシと乱暴に撫でながら教えてくれる。
「い、痛いですよ。そうだったんですね。でも、俺たちの方が先に着いちゃう可能性もありましたよね?俺たちの方が先に出た訳ですし。」
「まぁ、そん時は解体を手伝って、帰るだけよ!それにしても、盗賊崩れを捕まえてきたんだろ?お手柄じゃねぇか!」
「たまたま・・・よ、リンデン君。悪いんだけど、この街でまだ宿をとれてないの。いい所があったら教えてくれるかしら?」
ルバークはリンデンの手を俺たちの頭から剥がして言う。
「それなら心配する必要は無いぜ!ここのグランドマスターに会えば、案内してくれるはずだ。俺もついて行くからよ。こっちだぜ!」
リンデンはそう言って、カウンターの脇にある階段を上がっていく。
「ほれ、わしらも行くぞい!」
ガンドは顔を見合わせて首を傾げていた俺とルバークの背を押して、階段へと向かう。
「そうだよ!置いて行かれてるよ!ダイク兄、早く~!」
ロゼは俺の手を引っ張り、階段へと向かう。
階段を上がりきると、リンデンが突き当りの部屋の前で腕を組んで待っていた。
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