第116話 王都へと続く道
すいません。
多忙につき、当面の間は二~三日に一度の更新となります。
ロデオの牽く馬車はゆったりとしたペースで、慎重に峠道を進んでいた。
登るにつれて道幅は狭くなり、馬車の側面には踏み外せば命の保証がない崖が、車輪のすぐ横に控えていた。
ルバークが御者台に座ってロデオを操るが、乗っている俺たちまでハラハラしながら道を進む。
所々に馬車がすれ違えるスペースが用意されているが、その設置されている間隔も長くなっている。
「ダイク兄、見てよ!すごい景色だねぇ~!」
スリルと反比例するように、見える景色は高度を増すにつれて遠くまで見渡せるようになり、綺麗に映った。
「本当に凄いところだな・・・。」
窓から崖の下を覗くが、尖った岩肌しか見えない。
誤って転落でもしたら、命は無いだろう。
「ほとんどは馬か歩きじゃろうからな。馬車や荷車を使うのは商人くらいじゃろう。商人たちには本当に感謝じゃなっとっと。なんじゃっ!?」
ロデオが嘶いて、馬車が急に止まってしまう。
ゆっくり走っていたため、馬車の中は惨事にならずに済んだが、ガンドは床に転がった。
「大丈夫ですか、ガンドさん!」
起き上がらせるのに手を引いていると、ロゼが馬車の扉を開けて飛び出て行った。
「いたた・・・、わしは大丈夫じゃ。何かあったんじゃろう。外に出るんじゃ!」
腕を押さえて痛がるガンドを座席に座らせ、俺は馬車を下りた。
「ダイク兄は前をお願い!ロデオを守ってあげて!」
扉の外はすぐに崖となっており、足の踏み場もない。
馬車の車輪に足をかけ、屋根に上ると狭い道を塞ぐように前後に五人ずつ、馬に乗った男たちが立ちはだかっていた。
ロデオは驚いたのか興奮しており、ルバークが宥めようと必死に撫でていた。
「ルバークさん、これはどういう状況ですか?」
屋根から馬車前方に跳び下りて、ルバークに確認をとる。
「そこの角からこの人たちが飛び出してきたの。落ち着いて、ロデオ。大丈夫よ。」
ルバークは気がついていないのかもしれないが、背後からも詰め寄られている状況を考えると、たまたま起こった事ではない。
男たちの装備はバラバラで、武器も小剣を腰に差しているのみだ。
「俺たちに何か用ですか?用が無いならすれ違える場所まで戻ってもらえますか?」
男たちはニタニタと笑いながら馬を下りて、小剣を抜いた。
「お前がダイクだな?俺たちについてくれば、お仲間の命は助けてやる。暴れたりしたら、痛い目を見るぜぇ!」
金品目当ての盗賊ではないため、すぐに襲ってこなかったみたいだ。
「俺を連れて、どこに行こうって言うんですか?」
「クックック。お前のアイテムボックスを貴族様が所望されてるんだ。さぁ、僕ちゃん。大人しくこっちに来なっ!」
小剣を片手に近づいてく男が突然に転び、小剣は崖の下へと転がり落ちていった。
「全く、何かと思えばそんなことだったのね。ロゼ君、いいわよ!ダイク君もやっちゃいなさい!」
ルバークの魔法で、近づいてきた男の足元に小さな穴ができていた。
変な形で倒れた男は、伸びて意識が無い。
「お、おい、お前ら、やるぞ!」
後方から剣戟の音が響くと、前方の残った四人も小剣を抜いた。
「ロゼ、大丈夫か!?」
四人の男を魔法で縛り上げて動けなくすると、後方へと馬車と岩壁の隙間を縫って確認へ向かう。
「全然、大丈夫だよ!ロデオとルバークさんは無事?」
男たちは当然の如く倒れ、意識は無い。
「大丈夫だよ。シラクモ、そいつらを糸で縛ってもらえるか?」
頭の上で大人しくしていたシラクモが前足をあげて動き出す。
さて、こいつらをどうしたものか・・・。
「こいつらはわたしに任せてちょうだい。それよりも、シラクモ君を連れて、ガンド君のところに行ってくれない?腕が痛いみたいなの。」
「ガンドさんが!?シラクモ、行くぞ!」
シラクモを頭に乗せて、馬車の中へと戻る。
中には脂汗を浮かべて、腕を押さえて座席に横たわるガンドがいた。
「シラクモ、お願い!」
頭の上からガンドの腕の側に下ろすと、シラクモとガンドが淡く光り出す。
骨が折れている様子は無かったが、ぶつけた衝撃でひびが入ったのかもしれない。
タオルで脂汗を拭いながら、治療の様子を見守った。
「おぉ~、痛みが無くなったぞい。助かったぞ、ありがとうのう。」
ガンドはシラクモを撫でながら、押さえていた腕を動かして痛みの確認をとる。
「ありがとう、シラクモ。問題なさそうですか?」
「大丈夫じゃ。痛みが嘘のように消えたぞい。それより、外はどうなったんじゃ?」
「男たちが襲ってきましたが、返り討ちにしました。今は男たちを縛っているところです。ガンドさんは座って休んでてください。俺も手伝いに行ってきますね!」
そう言って、再び馬車後方へと隙間を伝って移動する。
「ガンド君は・・・、その様子じゃ、大丈夫そうね。こっちももう終わったわ。悪いんだけど、ダイク君。歩いて馬たちを牽いて来てもらえるかしら?前の馬はロゼ君に任せるわ。」
男たちは縛られて、それぞれが乗ってきた馬に括り付けられていた。
「わかりました。こっちは任せてください。」
馬たちの手綱を受け取ると、ルバークとロゼは馬車前方へと戻っていった。
「くっ、くそ!何があったんだ・・・。」
意識を取り戻したのか、男は馬の上で諦めたかの様に呟いた。
前の準備が整ったのか、馬車が動き出す。
手綱を牽くと、大人しく馬たちは歩いてくれた。
日が高く昇ると、段々と人通りが増えて道が混みあってくる。
狭かった道も下るにつれて幅に余裕がでてきた。
「ダイク君、ロゼ君。もう少しで峠道も終わりよ!もう少し、頑張ってね!」
ルバークの大きな声が馬車の方から聞こえてくる。
「はい!」「はぁ~い!」
すれ違いのために作られた場所で水分を補給しつつ、道なりにゆっくりとしたペースで下っていく。
馬たちが大人しく従ってくれたため、思ったよりも早く峠道を抜けることができた。
「もうしばらく進めば、王都が見えてくるわ。そいつらのせいで遅くはなったものの、今日中にはたどり着けそうね。ガンド君は痛いところは無くなったのかしら?」
峠道を抜けた先の脇に場所を停めて、俺たちは休憩を取っていた。
昼を取り損ねてここまで歩いてきたが、ロゼのお腹が限界を迎えたために軽く食事も用意した。
襲ってきた男たちは馬に縛られたまま、身動きが取れないようになっている。
「わしはもう大丈夫じゃ!大変な時に役に立たんですまんのう。ここからはわしが馬を牽いていくぞい。ダイクとロゼは中で休んでおれ。」
問題ないという様に、手を動かして見せてくる。
「お願いします。暴れるようなら言ってくださいね。俺が魔法で何とかしますから。」
「ボクも窓からしっかり監視してるから安心してね!」
「フフフ、大丈夫よ。あいつらはもう何にもできないわ。さっさと王都の兵士に突き出しでやりましょう。」
何人かはシラクモの糸でぐるぐる巻きにされており、並大抵の力では抜け出せない。
他の男たちも腕と足をそれぞれ縛られたうえで、馬に括られている。
武器もなく、圧倒的に負けてしまっては抵抗する気にもならないだろう。
休憩を終えると、馬車は再び動き出し、峠道から続く街道を往く。
街道の両脇には森が広がっており、冒険者たちの姿をチラホラと見かける。
ガンドの歩くペースに合わせて、ゆっくりと着実に王都へと近づいている。
ジョセフから貰った招聘状のことなどすっかりと忘れ、王都を純粋に楽しみにしていた。
新たな食材にも出会えるかもしれない。
馬車の中で期待が顔に出ていたのか、ロゼに笑われてしまった。
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