第114話 招聘状と誘拐未遂
「わ、分かってる!一応、聞いただけだろ。・・・それで、魔大陸に行くんだよな?ここから向かうとなると、王都を通る訳だよな?」
狼狽えながらも、ジョセフは言う。
「そうだよ!王都は行く予定だよね?ダイク兄!」
「そうですけど、それがどうしたんですか?」
話しぶりから、何だか嫌な予感がした。
本当なら聞かずに立ち去りたいが、魔大陸への安全な行き方を聞きたかったため、我慢する。
「お前たちの報告のお陰で、魔獣木がベルカイム王国のあちこちで見つかってな。王都のギルドから、お前たちへ招聘の打診が雪が降る前にあったんだ。すぐに連絡も取れないから断りの手紙を送ったんだが、王都に行くとなるとギルドにも寄るだろ?」
「ダイク兄、しょうへいって何?」
「招待・・・、来てくださいってお願いされてるんだよ。・・・なんで俺たちを呼ぶんですか?」
魔獣木を回収してくれと依頼でもあるんだろうか。
今はガンドを魔大陸に送り届けることで、手はいっぱいだ。
「さぁな。だが、魔獣木絡みであることは間違いないだろうな。理由は特に書かれていなかった。問い合わせても見たが、返事はまだ来ていない。」
面倒事な気がしてならないが、ジョセフにそんなことを言ったところで何も変わらない。
「そうですか・・・。暇があれば、王都のギルドに寄ってみますね。」
「いや、絶対に行けよ!頼む、なぁ、・・・頼むぜ。」
頭を机に擦るように下げたジョセフを見ていられなかった。
「・・・わかりましたよ。頭をあげてください。」
頭をあげてもらい、渋々王都のギルトを訪ねることを了承する。
「本当か!?助かるぜ!これは招聘を受けて来ましたって書類だ。俺の名前も入っている。持っていって、ギルドに見せればそれなりの待遇を受けられるだろう。持っていってくれ。」
先ほど書き込んでいた羊皮紙を俺に差し出してくる。
「へぇ~、凄いね!ありがとう、マスター!」
俺が受け取るのを躊躇っていると、ロゼが代わりに受け取って俺の手の中へと運ばれる。
「はぁー、ありがとうございます。それで・・・。」
ジョセフに地図を見せて、魔大陸に行く方法を相談した。
おおよその行くルートは決めていたが、ジョセフもほぼ同じ意見だった。
あと、干物の販売が始まることを伝えると、ジョセフは首を傾げた。
ジョセフに話したことなかったんだっけ?
丁寧に説明して、実際に干物を一枚あげておいた。
美味しさを知り、常連となってくれるように。
ジョセフと別れると、次はリンデンに会いに行った。
昨日、倒した魔獣の処理をお願いするためだ。
数匹のウルフはその場であっという間に捌かれて、あっという間に清算が終わった。
シラクモも興味深そうにリンデンの手捌きを覗いていた。
無駄のない動きで豪快に捌く様は、見ていて飽きなかった。
「おいおい、そんなに見ていても楽しくないだろ!?暇があるなら、魔獣の一匹でも持ってきてくれ!見てくれよ、雪が解けたばかりだから俺も暇でしょうがないぜ!」
いつもは魔獣で溢れかえっている解体室も綺麗なものだった。
「ダメだよ、ボクたちはこれから市場に行くんだから!」
「そうだな。俺たち、今日はもう街を出ませんよ。でも、手捌きは感動ものでした。」
そう言うと、リンデンの顔がニンマリと不気味に崩れた。
「じゃ、じゃあ、俺たちは行きますね!ありがとうございました!」
逃げるように解体室を出て、市場へと向かう。
「ダイク兄、これも買おうよ~!あっ、あれも美味しそうだよ!」
雪が解けたばかりだというのに、サンテネラの市場は賑わっていた。
通商が本格化していないため、食材は限られているものの、多くの人で市場が埋め尽くされている。
「この串焼きを五十本とそっちの網焼きを五十枚ください。」
ロゼが欲するものを次々に大量に買い込んでいく。
「ロゼ、一人で先に行かないで。人が多いからはぐれないようにね。」
注意はするものの、美味しそうなものを見つかると、ロゼは人混みをかき分けながら先を行ってしまう。
「はっはっは、お兄ちゃんも大変だね!ほれ、焼けたから弟を追いかけなよ!」
店主に代金を渡して、商品を受け取りロゼを追いかける。
ロゼの後を追いかけるが、人が邪魔でなかなか前に進めない。
謝りながら強引に進むが、人混みを抜けた先にロゼはいなかった。
「キャーーーッ、人攫いよーーー!」
人混みの反対側から女性の叫び声が市場に響いた。
人々は足を止めて、声のした方向を見ようと更に人でごった返した。
もしかしてロゼが・・・と思ったが、心配すべきはロゼよりも攫った人の方だ。
攫われたのがロゼでないことを祈りながら、人を押しのけて叫び声の聞こえた辺りに抜けた。
「あっ、ダイク兄!ちゃんと悪い人を懲らしめておいたよ!」
素手でやりあったのか、ロゼの手には何も持たれておらず、足元には三人の冒険者らしき人物が倒れていた。
気を失っているが、大きな怪我は無さそうで安心する。
「ロゼッ、先に行くなっていっただろ。心配させないでくれ。怪我は無いのか?」
「うん、ボクは大丈夫だよ!この人たちもたぶん大丈夫だよ!」
「ふぅー、そうか。・・・で、何があったの?」
ロゼにも怪我は無く、無事を確認すると気が抜けてしまった。
説明を求めるが、興奮しているのか話の要領を得ない。
「あの・・・、わたし、その子が攫われたところを見てました。」
叫んでた女性だろうか。
背後から声をかけてきて、状況を教えてくれた。
ロゼが一人で屋台を眺めていると、背後から抱えて路地裏に連れ込もうとしたらしい。
しかし、ロゼが暴れて男三人がなすすべなく、のされたという顛末だ。
「もしかして、叫んでくれた方ですか?ありがとうございます。すぐに弟の居場所がわかりました。本当にありがとうございました。」
頭を下げてお礼を伝えると、門から兵士たちが駆け付けてくる。
「誰かと思えばお前らか!?怪我は無いか?少し話を聞かせてもらいたいから門まで来てもらうぞ。」
中に顔見知りの門番さんがいて、俺たちは門まで同行された。
全てを見ていた女性の証言もあって、俺たちはすぐに解放された。
何度も何度もお礼を伝えて、俺たちは宿へと戻ってきた。
「あら、疲れた顔をしてるわね?なにかあったのかしら?」
おばさんとお茶を飲んでカウンターで話をしていたルバークが、俺たちが帰ってくるなりそう言った。
「ルバークさん、聞いてください。・・・」
ギルドでのこと、市場であったことを事細かにルバークに伝える。
「フフフ、本当に二人といると飽きないわね。ロゼ君、怪我は無かったの?」
「うん、ボクは大丈夫だよ!心配かけてゴメンね!」
「ううん、いいのよ。でも、これからは人が多いところではダイク君と一緒に行動するのよ。いい?」
「はーい、わかったよ!」
本当に分かっているのかと思うほどに軽い返事だが、ロゼの顔は真剣だ。
「ほら、二人も座ってお茶でも飲みなさい。疲れたでしょう。」
ルバークは新たに二つのカップを用意して、お茶を淹れだす。
「そういえば、ガンドさんは出掛けてるんですか?例えば・・・、冒険者ギルドとか。まさか、部屋にいたりはしないですよね?」
お茶を俺の前に置いて、ルバークが口を開く。
「ガンド君・・・、ずっと部屋に籠ってるわ。わたしも、もしかしたらキャサリンさんに会いに行くかなぁなんて思ってたけれど、違ったのかしらね?」
本当にそうなんだろうか・・・。
ガンドのキャサリンを見ていた目はそんなものではなかったと思う。
「ガンドさんの部屋に行ってみようよ、ダイク兄!」
ロゼに引っ張られるように、ガンドの部屋を訪ねる。
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