第113話 再訪、サンテネラ
アルたちの村からサンテネラまではロデオの足であっという間に到着する。
顔見知りの門番さんに挨拶をすると、笑顔で街へと迎えてくれた。
「ロデオも疲れてるでしょうから、先に宿に行くわね。」
ルバークが御者台から俺たちに声を掛ける。
「うん、いいよ!ロデオも疲れてるだろうしね!宿のおばさんもルバークさんが来るのをきっと待ってるよ!」
「フフフ、ありがとう。」
そんなやり取りをしているうちに、ロデオは宿の前まで来ていた。
ロデオと馬車を宿の人に預け、宿の扉を開けて中へと入っていく。
「あらー、ルバークちゃんじゃないかい!元気だったかい?今日は泊っていくんだろう?部屋は二部屋あれば足りるかい?」
おばさんは久しぶりのルバークに言葉が止まらない。
「おばちゃん、お久しぶり!会いたかったわ。でも、一旦落ち着いて。部屋は二部屋あると助かるわ。なければ一部屋でもいいの。」
「二部屋空いてるよ。これが、部屋の鍵だよ。とりあえず、荷物を置いておいでよ。後ろの三人も元気そうで安心したよ。」
おばさんは相変わらずに元気に働いていた。
部屋はガンドが一部屋、それ以外で一部屋となった。
部屋に置く荷物というほどの物も無いが、部屋の鍵を開けて中を確認する。
「ルバークさん、布と糸はどうしますか?サンテネラで売りますか?」
「う~ん、そうねぇ。別の街でもいいと思うけど・・・。足元を見られたりしたら嫌だから、売っちゃいましょうか。宿の裏に荷車を用意してもらってくるわね。」
ルバークはそう言い残して部屋を出て行った。
ロゼもついて行こうとするが、手を引っ張って止める。
「何なの、ダイク兄?ボクも手伝いに行きたいんだけど。」
「たぶん、おばさんと話すことがあるんだよ。もう少ししてから俺たちは行こうか。」
あえて先に出て行った理由を考えるが、そのくらいしか思いつかなかった。
俺たちがいて、話せないことなんて無いとは思うが、二人で話したいこともあるんだろう。
変な気を使って、部屋で時間を潰してから階段を下りていった。
「ダイク君、ありがとう。あの扉から出たところに荷車を用意してもらったわ。そこにお願いね。」
ルバークが指差す扉を開けると、荷車と宿の人が待機していた。
「すいません、遅くなりました。」
待たせていたことを謝ると、宿の人は一礼して荷車に背を向けた。
まるで、積み荷を出すところを見ないように。
「ダイク兄、早く載せてご飯食べようよ!」
ロゼに急かされながら、アイテムボックスから布と糸を取り出して荷車に載せていく。
前回の訪問で持ってこなかったこともあり、荷台から零れそうなほどに積みあがった。
積み終わると宿の人に一声かけると、ロープで荷車の商品を縛って持っていってくれる。
「いつもありがとうございます。よろしくお願いします。」
宿の人は荷車を牽きながら一礼して、裏路地へと消えた。
「ほらー、ダイク兄!戻ろうよ!」
ロゼに引っ張られるように宿へと戻ると、すでに夕食の準備が整っていた。
「お帰りなさい。ありがとうね、二人とも。」
ガンドも席に座って待っていてくれた。
「布と糸は宿の人に預けておきました。じゃあ、いただきましょうか。」
俺とロゼも席に着いて、おばさんの料理を腹いっぱい楽しんだ。
「今日はこのまま寝るとして、明後日に出発でもいいかしら?査定をお願いしている布と糸の量も多いし、おばちゃんに料理もお願いしたいの。」
食後のお茶を飲みながら、ルバークが言った。
「わしは構わないぞい。付き合わせている身ではあるが、馬車を作っても長時間の移動は体に堪えるからのう。」
「俺たちも問題ありませんよ。ロゼ、明日はギルドにでも行ってみようか。いい依頼があれば受けてもいいしね。」
「えーっ、いいの!?それならボクも全然いいよ!」
「フフフ、じゃあ決まりね。出発は明後日。明日はそれぞれ好きなことをしましょう。」
この日は部屋に戻って寝ることとなった。
ルバークにガンドのことを伝えていたので、気を使ったのかもしれない。
ガンドがキャサリンと話すことができるように。
翌朝、俺とロゼは久しぶりに薬草採取の依頼を受けて、近くの森へとやってきていた。
目的の薬草はあっさりと見つかり、魔獣にも出くわしたが問題なく処理できた。
「ガンドさん、ちゃんとキャサリンさんとお話しできてるかな?」
「そうだな。ちゃんと出来てるといいな。どうにかなるってことは無いだろうけど、ちゃんとお別れできるといいな。」
魔大陸にある街とサンテネラ。
気軽に移動できる距離ではない。
ガンドがキャサリンのことをどう思ってるかは聞いていないので分からない。
しかし、熱い目で見ていたことは確かだ。
告白をすることは無いだろうが、未練の無い別れをしてほしいと心から思った。
「そろそろ、帰ろっか!報告終わったら、市場に行こうよ、ダイク兄!」
「そうだな。串焼きでもいっぱい買って、旅の間に食べれるようにしようか。」
「いいね、それ!他にも美味しそうなのあったら買おうよ!」
ロゼと手を繋いでサンテネラへと戻った。
「お疲れさまでした。いつも通り、問題なく採取ができてますね。冒険者タグをお願いします。」
冒険者ギルトに戻るが、ガンドの姿は無かった。
タグをキャサリンに渡すと、魔道具の上に載せて依頼の処理をしてくれる。
「ねぇねぇ、キャサリンさん。ガンドさんって来たの?」
「ガンドさんですか?いえ、来ていないと思います。朝からカウンターにおりましたが、見かけてませんよ。ガンドさんがどうかしたんですか?」
「い、いえ・・・、何でもないんです。あと、俺たち魔大陸まで行くことになったんです。ガンドさんのことを送り届けに。」
「なんだ、お前たち。魔大陸に行くのか!?・・・ちょっと、こっちに来い。」
カウンターの後ろにある扉から、ギルドマスターが顔を出していた。
「盗み聞きですか、マスター。お行儀が悪いですよ。」
キャサリンに注意されるが、無視して部屋の奥へと戻っていった。
「毎回毎回、申し訳ありません。少し、付き合ってあげてもらえますか?これは報酬とタグです。お返ししますね。」
キャサリンは深々と頭を下げて、カウンター裏の扉を開けた。
扉を潜ると、ジョセフはすでに奥にある自身の席に座り、俺たちを待ち受ける。
「何か用ですか?ジョセフさん。」
ロゼを引き連れジョセフの席まで歩くと、ジョセフは何かを羊皮紙に書いている。
「ちょっと、座って待っててくれ。すぐに書き終える。」
足で近くにある椅子を引き寄せて、俺たちの方へと器用に持ってくる。
「マスター、早くしてね!ボクたち、これから市場に行かないといけないんだよ!」
頬を膨らませながら、ロゼは不機嫌そうに言う。
「わかってる!あと少しだ!静かに待っててくれ!」
「本当にすいません。これを飲んで少しお待ちください。マスターは早くしてくださいね!」
キャサリンはいつの間にかお茶を持って、俺たちの側まで来ていた。
「ありがとうございます。少しなら待つので、キャサリンさんは戻ってください。俺たちも逃げたりはしませんから。」
そう言うと、キャサリンは笑って戻っていった。
「よーし、書き終わったぞ!それで、お前たち、魔大陸に行くんだったな。・・・その前に一ついいか?ルバークは一緒に来てないのか?」
終わった話をまだ引き摺っているジョセフに、俺は少し引いた。
「来てますよ。ただ、今日は別行動だったってだけです。ギルドをルバークさんは避けてる訳じゃないですからね!その話はこの前に終わったはずですよね!?」
念を押すように、ジョセフに言い聞かせる。
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