第112話 馬車の乗り心地と干物
「あら、二人ともおはよう!フフフ、まだ眠たそうね。」
朝になると目が覚めたが、俺とロゼもよく眠れなかったためにまだ眠い。
「おはようございます・・・。なんだかソワソワしてよく眠れませんでした。」
「おはよう、ルバークさん。ガンドさんはまだなの?」
下の階にガンドの姿はまだない。
「ガンド君はもう起きてるわよ。裏庭でロデオのお世話と準備をしてくれているわ。二人は顔を洗って、それを食べちゃいなさいね。」
テーブルの上には二人分の朝食が並んでいた。
ルバークとガンドはすでに朝食を終えたようで、出掛ける準備を着々と進めている。
俺たちは洗面所で顔を洗って、急いで朝食をいただいた。
着替えを済ませ、植木鉢のトレントを抱えて裏庭へと向かう。
「「おはようございます。」」
俺とロゼが挨拶をすると、すでに準備は終わっていた。
「おはよう。朝早くからすまんのう。もう準備は終わっておるぞ。」
「二人とも、乗って!今日はわたしが御者をするわ。馬車の中で寝てるといいわ。」
御者台から顔を覗かせて、ルバークが言った。
「お願いします・・・。シラクモ、魔獣が出たらお願いしてもいい?」
声を掛けると、頭から離れて馬車の天井に跳び移って前足をあげる。
「クガネもお願い!シラクモと仲よくしてね!」
クガネがロゼのフードから跳び出して、シラクモと並び立つ。
「それっ、わしらは乗り込むぞ!ルバークさん、出発じゃ!」
俺たちの背中を押して、乗り込んで扉を閉めると、馬車はゆっくりと動き出した。
家から街道に出るまでの道は、ガンドとロゼの手で整備が完了していた。
馬車のサスペンションと車輪のゴムの効果もあってか、ほとんど揺れることなく快適に馬車は進む。
ロゼは俺の膝の上に頭をのせて、すぐに眠ってしまった。
「ダイクも寝ておってよいぞ。何かあれば、わしと鬼蜘蛛たちで何とかするぞい。」
ガンドにそう言われ、目を閉じるとあっという間に意識が遠のいた。
再び目を覚ますと、頭の上に警備をしているはずのシラクモがいた。
馬車の扉は開け放たれたまま、ガンドの姿が見えない。
「・・・何かあったの?ロゼ、起きて!」
頭の上のシラクモは体を横に何度も振った。
「ふわぁ~、どうしたの、ダイク兄。」
大きな欠伸をして、体を伸ばしながらロゼが目を覚ました。
「あら、二人とも、起きたかしら?少し休憩していたの。馬車を出て、体を伸ばすといわよ!」
ルバークに連れられて馬車を下りると、側でガンドはお茶を啜っていた。
体を伸ばしながら、周囲を確認するともう少しで仮設の橋というところまで来ていた。
「馬車ってすごいね!全然揺れないんだよ!」
興奮気味にロゼが馬車の乗り心地をルバークに伝える。
「そうね。御者台にいてもそれは同じよ。ロデオも気持ちよさそうに走ってくれているし、ガンド君に感謝ね。」
「本当にすごいですよ、ガンドさん。ありがとうございます!」
それぞれの感想を聞いたガンドは、はにかみながら頭を掻いた。
「こんなに喜んでもらえたら、作った意味もあるのう。」
軽食とお茶を飲み、体を休めると再び馬車へと乗り込んで旅路を往く。
初めの予定は、アルたちの村へと行くことだ。
干物の状況確認と魚の魔獣がまだあれば補充しておきたかった。
「もう着くわよ!」
御者台側に作られた窓からルバークの声が聞こえてくる。
馬車はアルたちの村へと入っていくが、村人たちは何かと興味深そうに馬車を見ていた。
ロデオとルバークの組み合わせで誰が乗っているのかは分かっているみたいだが、荷車から馬車への余りの変化に戸惑っているようにも見えた。
まぁ、それは俺たちも同じなんだが・・・。
「おーい、ルバーク!こっちだー!」
村の奥の方からビクターがちょうど魚の魔獣を荷車に抱えて戻ってきていた。
馬車はルーナの家の前に停まると、ロゼが勢いよく飛び出してビクターの元へと駆け出した。
「久しぶりだな!それにしても、これどうしたんだ?こんな立派な馬車持ってたのか?」
ロゼが荷車を押すのを手伝いながら、ビクターが近づいてくる。
「お久しぶりです、ビクターさん。これは・・・、冬の間にガンドさんが作ってくれたんです。」
「そうなの。揺れも少なくて快適よ、これ。ビクター君は約束をちゃんと守ってたのかしら?」
「も、もちろんだぜ!アルたちの目もあるしな。ダイクが作ってくれた屋根のお陰で、冬の間も暇することなく滝まで行けたからな。ありがとよ!」
ビクターが頭を下げていると、ルーナの家の扉が開いた。
「お久しぶりです、皆さん!どうぞ、家に入ってください。ビクターさんは魚を早く届けてくださいね!」
ロイを抱いたルーナが顔を見せてそう言った。
家に入ると、アルとヴィドがお茶を飲んで俺たちを待っていた。
「そろそろ来ると思ってたぜ!四人は変わりはないのか?」
アルが立ち上がり、俺たちに席を勧めてくる。
「ありがとう、アル君。わたしたちは変わりないわ。それにしても、ロイ君、大きくなったわね!」
ルーナが抱きかかえていたロイを下ろすと、よとよちと一人で歩いていた。
「そうなんです。冬の間に立てるようになったと思えば、もう歩き始めてますからね。子供の成長は早いですね!お二人も大きくなってますもんね。」
俺とロゼを見ながらルーナが言う。
ルーナの言う通り、俺とロゼは大きくなった。
ルバークの身長はすでに越しており、ガンドとほぼ同じ背の高さになっていた。
「フフフ、そうね。これ、よかったらロイ君につかってあげて。」
マジックバックから小包を取り出してルーナに渡した。
ルーナがお礼を言って包みを開けると、中には小さな服が何枚か入っていた。
「えーっ、いいんですか!?ありがとうございます。」
「ルバークさん、ロイの服も作ってたの?この服もルバークさんが作ってくれたんだよ!」
ロゼは見せびらかす様にローブを脱いで、くるりと回転して全身を見せた。
「そうなんですね。みなさんの服装がいつもと違うとは思ってましたが・・・。本当にありがとうございます。お礼に干物を持って帰ってください。昨日できたばかりなので、まだ日持ちはしますよ!」
台所の上に置かれていた干物を持ってきて、俺たちに差し出す。
「そういえば、販売はどうなりましたか?日持ちの検証結果も聞いておきたいです。」
アルの方を見て聞く。
「とりあえず、十日を期限だな。一応、二十日までは村では問題なく食べらたんだが、売るとなると安全面を考えれば半分の十日で売り出すことに決まったんだ。場所もサンテネラの市場で売ることになってな。最初は干物を焼いたものを売って、慣れてもらったあとに干物を売り出す予定だ。」
「ほぅ、いい案じゃのう。市場を見たが、魚を売っている店は無かったじゃろ。受け入れてもらうために、味を知ってもらうのは良いと思うぞい。」
俺もガンドの意見に賛成だ。
サンテネラ自体、食に困っている街ではない。
選択肢の一つとして魚を受け入れてもらうには、干物を売るだけでは売れないだろう。
「俺もいいと思います。いつから販売は開始されるんですか?」
「十日後から市場の場所を借りているんだ。準備もあるから、十五日後くらいには販売が開始できるといいなと思ってるぞ。」
着々と販売の予定が整い、サンテネラに魚の美味しさが伝わるようだ。
村一丸となって頑張ってくれているのが伝わってくる。
「余っている干物があれば買わせてもらえますか?」
くれると買うの攻防が続いたが、何とか金貨を渡して様々な魚種の干物を手に入れた。
雪除けに作った屋根も見せてもらったが、問題なく使えていた。
日が暮れる前にはサンテネラに向かう予定だったので、アルたちの村はこれで離れることとなった。
次に来るまでには村の名前が決まっているそうだ。
販売にあたって村の名産とすべく、名前があったほうがいいとガンドからアドバイスがあったためだ。
アルたちが村の名前を考えているうちに、俺たちは村を後にした。
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