第109話 滝までの道 完成
「これのお陰じゃろうか?」
ガンドは首にかけたネックレスを取り出して言った。
小さな木片に穴があけられ、首にかけられるように紐が通してある。
木片の中央には魔石のようなものが煌めいていた。
「ちょっと、よく見せてもらえますか?」
ガンドに近づいて、手に取り鑑定をしてみると“退魔の首飾り”という品物だった。
「もう、長いこと着けておるからボロボロじゃろ?だが、これを着けておると、風邪をひかないとわしの街では言われておるんじゃ。」
説明には、病気や魔獣を退ける効果のある呪いを込めた逸品と書かれている。
「これってガンドさんの街まで行けば売ってるものですか?」
これがあれば、魔熱病に罹ることが無くなるかもしれない。
ガンドが魔熱病に耐性がある可能性を否定はできないが・・・。
「売っておるのかのう?わしの街のドワーフは生まれた時に貰えるんじゃ。誰が作っておるのかも、わしは聞いたことが無いのう。」
「そうですか・・・。」
「ダイク兄、もう戻ろうよ!別に変ったところも無いみたいだし!」
ガンドとの話に夢中になって、魔獣木の確認を怠ってしまったが、しっかりとロゼが見ていてくれたみたいだ。
「そうだな。ありがとう、ロゼ。ガンドさん、この話はルバークさんを含めてもう一度させてください。」
「そうじゃのう。今はこれから作るものに集中すべきじゃな。」
宙に浮いた状態の魔獣木を吊り上げているロープも、冬の間に朽ちて落ちることは無いだろう。
土も汚染されておらず、空気が以前よりきれいに感じる。
最低限の確認を済ませると、アルたちも元へと戻った。
「なんの問題もなかっただろ?」
滝の側で休憩していたビクターが聞いてくる。
「はい、大丈夫でした。これからも確認をお願いしますね!」
「それで、ダイク。おいらたちは帰り道に何をすればいい?周囲の警戒をしておくか?」
「そうですね・・・。俺の後ろからついて来て、おかしなところがあれば教えてもらえますか?もう少し道幅を広くとか、頑丈さが足りないとか。ロゼとクガネはさっきと同じく左右に分かれて警戒ね。ガンドさんは道の先を警戒してください。」
それぞれに役割を振ると、それぞれの持ち場へと離れていった。
ルバークの作ってくれた滝へと繋がる橋を終点として、起点を目指して屋根をこれから作っていく。
まずは柱を等間隔に建てる。
雪の重みに耐えられるように、地中から太い柱を生やしていく。
「おお、凄いのう!」
少し先を行くガンドの辺りまで一気に柱を立てたので、驚きの声が上がった。
十分に道幅を確保しているし、強度も問題なさそうに見える。
「こんな感じでいいですか?」
後方にいるアルたちに確認をとると、問題ないと返事があった。
柱に接着するように屋根をのせて、先へと進んでいく。
「ダイク、魔力に問題は無いのか?こんなに一気に作れるもんなんだな!」
休みなしで魔法を使って、始点まで屋根を伸ばしてきた。
「俺は大丈夫です。こんな感じでよかったですか?柱の間は雪が吹き込んでくるので、何か対策が必要ですね。」
「それはおいらたちで考えることにするよ。ダイクは休んでてくれ。」
ビクターとアル、ヴィドの三人で話し合いが始まってしまった。
「ダイク兄、そろそろリンデンさんの解体が終わるんじゃない?」
「そうだな。俺たちはサンテネラに戻ろうか。」
「うん!アルさん、ボクたち帰るねー!」
アルは話し合いを止めて、俺たちのそばまでやってくる。
「なんだ、泊っていかないのか?」
「すいません。まだ、サンテネラでやることがあるんです。干物もうまくいってるようですし、冬の間も引き続き魔獣木の管理をお願いしますね。」
「あぁ、任せておけ。」
ヴィドもこちらを向いてそう言った。
「ありがとよ、ダイク!俺が冬の間もしっかりと魚を捕るぜ!」
「三日に一回でお願いしますよ!」
「わかってるって!気を付けて行けよ!ルバークによろしくな!」
三人に手を振って別れ、村にいるロデオの元へと戻る。
三人で協力して荷車を取り付けて、アルたちの村を後にした。
サンテネラに着く頃には、日が落ちかけて空が綺麗な茜色になっていた。
まっすぐに宿へと戻り、ロデオを預けるとギルドへと向かった。
「わしはキャサリンさんのところに行っておるぞ。」
ギルドに入るとそう言って、一人で進んでいってしまう。
ついて行っても邪魔になるかもしれないので、ロゼの手を取ってリンデンのいる解体部屋へと入る。
「こんばんわ。リンデンさん、解体は終わりましたか?」
部屋の奥で解体をしているリンデンに声を掛ける。
「おう、待ってたぞ。」
近づいてきて、カウンターの下から羊皮紙と大きな袋を取り出してどさりと上に置いた。
「ここらで見ない魔獣だったから、多少高値になっているな。詳細は羊皮紙を読んでくれ。」
ほとんどがロゼとルバークで倒した魔獣なので、ロゼに羊皮紙を渡すが興味が無さそうだ。
「ありがとう、リンデンさん!また来るね!」
ガンドのことが気になっているのか、ロゼはすぐに部屋を出て行った。
「なんだ、どうしたんだ?急ぐ用でもあるのか?」
「いえ・・・、そういう訳ではないんです。リンデンさん、ありがとうございました。」
「そうか?まぁ、いい。また来いよ!」
リンデンはそう言って、作業に戻っていく。
「ガンドさん、清算は済みましたか?」
ガンドはカウンター前のテーブル席にロゼと隣り合って座っていた。
「終わったぞ!これを見てくれ!かなりの額じゃろう?」
テーブルの上にある大袋を見せてくる。
「すごい金貨の数ですね。かなりの枚数ですよ、これ。」
魔獣の解体で得た金貨の倍くらいの量が入っている。
「とりあえず、ダイクが持っててくれるかのう?」
大袋を俺の方に押し出すので、アイテムボックスへと収納する。
「キャサリンさんとは話せましたか?明日にでもサンテネラを出るので、今のうちですよ。」
そう言うと、ガンドの顔が真っ赤に染まる。
「何を言うておるのじゃ!?親切にしてもらった。それで十分じゃ!」
顔を隠すように、立ち上がりギルドを出て行ってしまう。
「ボクたちも行こう、ダイク兄!」
ガンドを追って、俺とロゼもギルドを出る。
外は日が落ちて、街灯の魔石が淡く辺りを照らしていた。
宿へと戻り、夕食をとって部屋に戻る。
おばさんにお願いしていた料理は朝までには出来上がるらしい。
今までになく短い滞在となったが、充実した二日間となった。
冬の間の食料も大量に買い込んだし、ガンドの持っていた素材も売ることができた。
あとは家へと戻り、冬籠りをするだけだ。
「ダイク兄、寝ないの?」
窓から街の景色を見ていると、ロゼがベッドの中から声をかけてくる。
「もう寝るよ。」
立ち上がり、ベッドに入ってロゼの隣に横になる。
「おやすみ、ダイク兄。」
「おやすみ、ロゼ。」
こうして、サンテネラの最後の夜が更けていった。
評価とブックマーク、ありがとうございます!
まだの方は是非、お願いします!
モチベーションになります!