第108話 滝までの道づくり
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「こんにちは、ビクターさん。体調はどうですか?」
元気そうに見えるが、本人にしか分からない問題があるかもしれない。
角の大きさも以前と変わりなく見えるが、確認の意味を込めて質問した。
「おう、ダイク!特にこれと言って、問題ないぜ!今日も魚を捕ってきたんだ!」
ビクターの牽く荷車には二十匹ほどの様々な種類の魚が並んでいる。
「毎日、魚を捕りに行ってくれてるみたいですね。ありがとうございます。」
「ダイクも元気そうで安心したぜ!それで、今日はどうしたんだ?」
「村で作ってる干物を見せてもらいに来たのと、冬の間の魔獣木をどうするかを相談しに来たんです。」
「そうか・・・。魚が痛んじまうから、村の人に魚を預けてからでもいいか?」
「それもそうだな。ビクター、魚はおいらに任せてダイクたちと話をしておいてもらえるか?おいらもすぐに戻るからな。ダイクもそれでいいだろ?」
「はい、問題ありません。」
「すまないな、アル。ありがとう。」
荷車を受け取ったアルは軽快な足取りで村へと戻っていった。
「話は村に戻ってからにせんのか?」
ガンドが聞いてくるが、首を振って答える。
土魔法を使って、その場に椅子とテーブルを作り話し合いができるようにする。
「どうぞ座ってください。お茶を淹れますので。」
アイテムボックスからお茶のセットを取り出して、お茶を煮出す。
「ほら、ヴィドさんも座って!ビクターさんも、ガンドさんもだよ!」
ロゼがみんなを椅子に座らせているうちにお茶もいい具合だ。
お茶を配り終えると、話し合いが始まる。
「ビクターさん、単刀直入にお伝えしますけど、毎日魚を捕りに行くのは止めてください。村の人たちが心配しているそうですよ。」
それを聞いて、ヴィドが目を閉じて深く頷いた。
「なんだ、その話か!俺も分かってはいるんだ。村の人にも言われるからな。でもな、俺は今までずっと冒険者だけをしてきたんだ。まぁ、今も冒険者ではあるんだがな。」
全員の視線がビクターに向いている。
「冒険者っていうのはあんまり感謝されないだろ?依頼人に直接会うことも滅多に無いしな。それがこの村にいて魚を捕ってくると、みんなが感謝してくれるんだ。それを聞くと、気がつけば毎日滝へと行っちまうんだよな。」
「そうでしたか・・・。ビクターさんは村のみなさんといい関係を作れているんですね。」
「でも、心配かけるのは間違ってるとボクは思うよ!」
ロゼの言う通りではある。
だが、ビクターの気持ちもすごく共感できた。
誰かに必要とされると、無駄に頑張れてしまうことがあるのだ。
「そうだね、ロゼ。もしビクターさんが倒れたら、魔獣木の管理が難しくなってしまいます。三日に一回くらいに減らしてもらえませんかね?」
「俺からも頼む。」
そう言って、ヴィドが軽く頭を下げた。
「・・・わかったよ。三日に一回にすればいいんだな。」
うな垂れながらも納得はしてくれたみたいだった。
「ありがとうございます。それで、冬の間の話に移るんですが、ビクターさんはどうしたいですか?」
「どうしたいって、どういうことだ?雪が降れば、家に籠るしかないだろ?」
軽く首を傾け、何を言ってるんだという顔をしている。
「冬の間も魚を捕れるなら、捕りに行ってくれますか?」
「もちろん、雪が降り積もるまでは続けるぜ!ダイクはなにが言いたいんだ?」
意図がうまく伝わらず、ビクターは聞き返してくる。
「簡単に言えば、滝まで繋がる屋根を作りましょうかって話です。雪が降っても魚を捕りに行けるように。」
ビクターのみならず、ヴィドの首も傾いた。
まぁ、口で言っても伝わらないよな。
立ち上がり、魔法を使って柱を四本立てて、三角形の屋根を柱の上にのせた。
「こんな感じのものを滝まで伸ばしますかって話です。雪を防ぐ工夫はもう少し必要ですが、これで冬の間も滝まで行けるようになりますよ。」
「こ、これを本当に滝まで作れるのか?それなら雪が積もっても魚を捕りに・・・、いや、魔獣木の管理ができるな!」
ビクターから本音が零れたが、この様子なら冬の間もお願いできるだろう。
「わしも手伝うぞ!滝まではどのくらいの距離があるんじゃ?なるべくまっすぐに伸びていた方がよいじゃろ?」
「それなら、ボクも手伝うよ!」
「もちろん、俺だって!」
「俺もアルだってきっと手伝うぞ。」
全員が手伝ってくれるなら、今日中にでも作業は終わらせられるかもしれない。
「ありがとうございます。じゃあ、早速作業に入りますか!」
魔法で作った椅子やテーブル、雪除けを崩して村へと向かった。
「ここを作り始めにしていいですか?」
合流したアルと村の裏手で滝の方角を見て話し合う。
「ああ、ここなら誰にも邪魔にならないし、雪が積もっても人力で雪掻きができるからな。」
糸を括りつけた枝を地面に差して、建造物の起点とする。
滝までの道のりをロゼ、ガンド、ヴィドを中継して、終点の滝でビクターが待ってくれている。
それぞれが糸を持って、出来るだけまっすぐ道を作るために協力してくれた。
「ダイク兄ー!もういいよー!」
ロゼからの大声が聞こえてきた。
姿は見えないが、滝までの糸張りが終了した合図だった。
「アルさん、行きますよ。行きは邪魔な木を収納しながら道を均します。帰りに一気に屋根を作ってくる予定です。」
「おう、そうか。・・・なんだかおいらがいないうちに、凄い計画になったんだな。ビクターの説得も助かったぜ。」
「気にしないでください。もともと、面倒を持ち込んだのは俺ですし。三日に一回で納得してもらったので、毎日いかないように村の警護でもお願いしてください。」
アルと話をしながら、屋根の邪魔になりそうな木をアイテムボックスに入れていく。
シラクモも先を行き、邪魔な木に魔法を使ってくれている。
「ありがとう、シラクモ。次はそっちの木を頼むよ!」
シラクモの手伝いもあり、あっという間にロゼの元までたどり着いた。
「ボクは魔獣を警戒しておくね!ダイク兄、頑張ってね!」
クガネと二手に分かれて、道の左右を警戒してくれる。
「おいらもやることが無いから、木の上から警戒しておくぜ!」
アルは身軽な足取りで木に登っていき、周囲を見渡している。
起点からロゼの待っていた場所で、一旦糸を切って枝に括って地面に差す。
切った糸も同じように枝に括り、近くに差しておく。
「ガンドさーん!いいですかー?」
呼びかけるように大声をあげると、ガンドから返事があった。
「いつでもよいぞー!」
ガンドまで続く道を、道幅を確保しながら木を回収していった。
滝に着くまで同様に繰り返すと、かなりの量の木を回収することとなった。
振り返ると、アルたちの村まで一直線の道ができている。
「結構な量の木を回収してきましたが、アルさんたちの村でいくらか使いますか?」
すぐには使えないかもしれないが、二、三年乾かせば薪として使うことができる。
ガンドに物を作ってもらうにしても、とてもじゃないが使いきれる量ではなかった。
「いいのか?それなら村に戻ったら相談させてくれ。」
滝の側でアルと話し合っていると、ロゼが滝の方へと歩き出す。
「ダイク兄、ちょっと魔獣木を見ていこうよ!ビクターさん、いい?」
「ああ、いいぞ!何も変わりは無いが、見ていってくれ。」
ロゼに手を引かれて、滝の中へと入ることになった。
振り返ると、後ろにはガンドもついて来ている。
村に住む三人は手を振って見送っていた。
「ガンドさんも待っていた方がいいと思いますよ。魔獣木には魔熱病という病気が・・・。そういえば、ガンドさんは病気に罹ってないんですね。」
ガンドの額を見ても、角が生えているなんてことは無い。
地下で一年以上もの間、魔獣木の側にいながら、魔熱病に罹っていないのだ。
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