第107話 村の干物
「ダイクとロゼじゃないか!待っていたぞ!」
翌朝、早くにサンテネラを出て、アルたちの村へと向かった。
村に着くと、アルとヴィドに見つかり声が掛かった。
「おはようございます。アルさん、ヴィドさん。」
「おはよう!アルさん、ヴィドさん!ロイは元気にしてる?」
「おう、元気だぞ!ロデオを繋いだら、見に行ってやってくれ!」
ロデオから荷車を外して家の側の柵にロデオを繋ぐと、ロゼはルーナの家に走っていってしまう。
「ハハハ、そんなにロイに会いたかったのか?ダイク、ルバークはどうしたんだ?」
「ルバークさんは森で留守番してます。魔道具に夢中になっちゃって・・・。こちらはガンドさんです。色々あって、今は俺たちと森で暮らしてます。」
俺の後ろにいたガンドを二人に紹介する。
「ガンドじゃ。よろしく頼む。」
アルとヴィドも軽く自己紹介をして、ルーナの家に入る。
「お久しぶりです、ルーナさん。ロイ。」
「いらっしゃい、ダイクさん。ヴィド、ロイをお願いね。」
ルーナはロイをヴィドに託し、調理場でお湯を沸かし始める。
「なぁ、ダイク。体調はどうだ?表情は戻ってきてるみたいだが、味も戻ったのか?」
アルが真剣な表情で聞いてくる。
「もう、ほとんど戻ったと思います。表情は自分ではわかりませんが、味は問題なく分かります。ご心配をお掛けしました。」
「はぁ~、そうか。よかったな。村のみんなも心配してたんだ。なぁ、ヴィド。」
「あぁ、元気な姿を見せてやるといい。」
「そうでしたか・・・。」
魚の試食会のときに表情が少し戻って、ルバークとロゼが大騒ぎしたことがあった。
あの時、アルたちは村の人たちに理由を聞かれたんだろうなと思った。
「そうですね。以前と変わりなく柔らかい表情に戻ったと思います。ルバークさんも安心したでしょうね。」
ルーナがそれぞれにお茶を配りながら言う。
「そうなんだよ!もう心配する必要が無いからなのか、魔道具に夢中なんだ!」
ロゼがそう言うと、笑いが起こった。
「早速ですまないが、ダイクたちは干物の件で来てくれたんだろ?」
アルがお茶を啜りながら言う。
「そうです。あと、村の裏にある雑木林をガンドさんに見せてもらえますか?ガンドさんは木工職人で、木材が欲しいんです。冬の間に色々と作ってほしいものがあって・・・。」
「いいぞ。」
理由を説明しようとすると、ヴィドが許可をくれた。
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、お茶を一気に飲み干してガンドが立ち上がった。
「話がついたところで、早速見せて貰ってもいいじゃろうか?」
それを聞いたヴィドも立ち上がり、ロイをルーナに預けてガンドと家を出て行った。
「大丈夫かな!?ボクも行こうか?ダイク兄。」
「そうだね。ロゼ、お願いできるかな?」
「わかった!行ってくるね!」
二人の後を追って、ロゼも家を出て行った。
「バタバタとすいません。そういえば、ビクターさんはどうしてますか?」
村の外にビクターの姿を確認できなかった。
「そのことなんだが・・・。あいつ、毎日魚を捕りに行ってくれてるんだ。村としては助かるが、魔熱病のこともあるし、無理しないで欲しいんだけどな。」
アルがそう言うと、隣でルーナも深く頷いた。
「そうだったんですね・・・。今日はもう滝に行っちゃったんですかね?」
「たぶんな。おいらが知る限り、朝に出かけて昼過ぎに帰ってくるんだ。まぁ、もう少しすれば雪が積もって、行きたくても行けなくなるんだろうがな。」
二人がビクターのことを心配していることがひしひしと伝わってくる。
「冬の間、魔獣木はどうしましょうか。回収しちゃいますか?」
「回収するって、またダイクに悪影響があるんじゃないのか?それはルバークが許さないと思うが。」
「そうですね・・・。ビクターさんが戻ってきたら、相談してみますね。それで、干物はどうなりましたか?」
ようやく本題に入ることとなった。
「ダイクたちがいなくなってから、村のみんなで試行錯誤してみたんだ。これを見てくれ。」
アルが調理場からいくつかの干物を持ってきた。
「これが塩漬けにして干したもの。こっちが塩漬けにして表面を洗ってから干したものだ。他にもいろいろと試してはいるんだが、うまくできたのはこの二つだな。」
「味はどうでした?食べれそうですか?」
「待ってろ、今焼いてやるよ。味見してみてくれよ。」
アルが立ち上がり、調理場の窯に火をつけ始めた。
手に取って干物を見てみるが、一夜干しと塩漬けの魚が出来上がっていた。
「今はどのくらい日持ちするかを調べてるんだ。今から焼くのは昨日干しあがったばっかのやつだから安心してくれ!」
「大丈夫です。そんな心配はしてませんよ。冬の間に売れるようになりそうで吃驚しました。」
「そうだろ?お前たちの恩に報いろうと、村一丸となって頑張ったんだ。」
その言葉を聞いて、少しジーンときてしまった。
バレないように目元を拭っていると、アルが焼いた干物を持ってきた。
「いい匂いですね。美味しそうです。いただきます!」
一夜干しを口にすると、旨味が凝縮されていて美味しい。
塩漬けの方は、しょっぱいがパンやスープと一緒に食べればちょうどいいかもしれない。
「どうだ?」
アルとルーナが不安そうな顔でこちらを見ている。
「すごく美味しいです。これ、絶対売れますよ!」
二人の顔に笑顔が戻る。
「だろっ!?美味しいよな?あ~、安心したぜ。なぁ、ルーナ。」
「そうね。村のみんなにもいい報告ができます。安心しました。」
ルーナの目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
俺が何となく言って始まった干物作りを、村総出で頑張ってくれたことが嬉しかった。
「じゃあ、俺は雑木林に行ってきますね。木材を回収しないといけませんからね。」
ルーナの涙につられそうになったので、急いで立ち上がる。
「おいらも行くぜ!もうそろそろ、ビクターが戻ってくるだろうしな。」
ルーナの家を後にして、アルと並んで雑木林へと向かう。
「ダイク!こっちじゃ!」
雑木林に入ると、ガンドに見つかり呼ばれた。
「ガンドさん、いい木はありましたか?」
ガンドの元に向かうと、いくつかの木にロープが巻かれていた。
「この林はいろいろな木が揃っておってのう。目印を付けておるから回収してもらってもいいじゃろうか?」
ヴィドをみると、黙ってうなずいている。
「ダイク兄、こっちだよ!このロープを巻いた木を持って帰るんだって!」
ロゼの案内で、ロープの巻かれた木を回収していく。
魔獣木のお陰で、木の根元の土を魔法で解すのには慣れていた。
「これで全部ですか?」
十本ほどアイテムボックスに木を入れると、印の付いている木は無くなった。
「そうじゃぞ!アイテムボックスもすごいが、ダイクは魔法をうまく使うのう!切り株すら残さんとは、やるのう!」
「そうだよ、ダイク兄は凄いんだよ!」
二人に褒められて、何だか照れてしまう。
「終わったかー?ビクターが戻って来たぞー!」
雑木林の入り口で、ビクターを待っていたアルが大声で俺たちを呼んだ。
「ビクターさん!?久しぶりに会えるね!元気にしてるかなぁ?」
ロゼは走ってアルの元へと行ってしまう。
「ロゼは元気じゃのう。ほれ、わしらも行くとするか。」
ガンドは俺とヴィドの背中を軽く叩いて歩き出す。
「ヴィドさん、ガンドさんの案内、ありがとうございました。」
歩きながら、ヴィドにお礼を伝える。
「気にするな。」
ヴィドはそう呟いて、少し口角が上がった気がする。
雑木林を抜けると、リヤカーのような荷車を引いたビクターが立っていた。
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