第10話 人がいた
ガサガサと音を立てて何かがこちらに近づいてくる。
ロゼを後ろ手に庇いながら距離を取るように後退した。
「なんだ、君たちか!」
ローブを頭から被った人が草むらから顔を出した。
背丈は俺よりも少し大きいくらいだろうか。
「君たちかってどういう意味ですか?」
警戒しながら答える。ロゼはすっかり俺の後ろに隠れてしまっている。
シラクモはロゼの頭の上で動かない。
「あぁ、そうかそうか。会ったことはなかったのよね。初めまして、わたしはルバーク。」
そう言って、フードを外した。
ヘアバンドをした、少し年上くらいの可愛らしい女の子だった。
「初めまして。俺はダイクです。後ろに隠れてるのはロゼです。俺たちのことを知ってるんですか?」
「そんなに警戒しないでよ。別に危害を加えたりしないわよ。ん~、長くなるから良かったらわたしの家に来ない?そろそろご飯にしようと思ってたの。食べながら・・・ね!?久しぶりに人に会ったのよ、わたしに付き合ってよ。」
ルバークから目を離さずに考え込んでいると、シラクモが俺の頭に飛んで、ルバークの頭の上に飛び移った。
両前足をあげて、こっちに来いとでもいうかのように動かしていた。
「大丈夫よ。わたしはこの蜘蛛たちとも仲がいいの。ついてらっしゃい!」
シラクモを乗せたまま草むらの向こうに消えていった。
「ダイク兄、シラクモが行っちゃうよ・・・」
悲しげな表情で、ポツリとつぶやいた。
ロゼの手を握りしめ、ついていくことにした。
一定の距離を保ちつつ、後ろをロゼとついていく。
進むほどに段々と木々の間隔が狭くなり、木の根や岩で道の起伏も激しくなってきた。
「長いこと歩かせて悪いわね。もうすぐよ!ほら見えてきた!!」
木々を抜けると開けた空間に大きな湖が広がっていた。
ルバークが指差す先には白い壁と窓と扉があった。
丘に飲み込まれるように建っていて大きさはわからないが、すごくファンタジーな家だった。
「さぁ、遠慮しないで入って。」
扉を開け、ローブを脱いで壁掛けに仕舞いながら言う。
恐る恐る足を踏み入れる。
「そこの椅子に座って寛いでね。あっ、その前に」
そう言って、俺たちの目の前まで近づいた。
「浄化」
頭の上から足のつま先まで洗われるような感覚があった。
よく見ると服もきれいになっていた。
後ろに隠れているロゼの方を見ると、金色の髪につやがでて天使の輪ができていた。
「ありがとうございます。ちょうど川で水浴びしようかと思ってたんです。ルバークさんは魔法が使えるんですか?」
「この寒いのに水浴び?風邪をひいちゃうよ。魔法は・・・そうねぇ。ある程度使えるわよ。教えてあげましょうか?」
「・・・教わりたいとは思うんですが、もう少しお互いのことを知ってからでもいいですか?」
「フフフ、そうよねぇ。ごめんね。まずはご飯にしましょう!そこの席について!」
腰に着けていた巾着のようなものを取り出しながら言う。
その巾着に手を入れて、中から皿に盛りつけられた料理をテーブルに並べていた。
ルバークの向かいにロゼを座らせながらその様子を見ていた。
「これ?これはマジックバックって言って、いろいろと入れておける魔道具の一種よ。初めて見たかしら?」
「はい。火をつける魔石くらいしか見たことないです。」
「それと比べると珍しいものではあるんだけどね。さぁ、まずは食べましょう。沢山あるからお腹いっぱい食べてね!」
一応、鑑定してみたが毒なんかはないみたいだ。
「ロゼ、せっかくだし、いただこうか。」
手を握りながら聞いてみる。
「うん、わかった。」
もじもじと小さな声が返ってくる。
「「いただきます。」」
「なにかしら、それ?」
「食べる前の挨拶みたいなものです。」
「そうなの。沢山食べてね。。。」
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