第100話 オアシスの地下
ついに100話目になります。
ここまで読んでくれたことに感謝です。
洞窟内を隅々まで探ってみるが、下りる手段は見当たらない。
地面を掘るしか無さそうだ。
「シラクモ、離れるか俺の頭の上に戻ってくれ。地面を魔法で掘っていくぞ。」
シラクモは前足をあげて、俺の頭へと跳んで戻ってくる。
地面の砂を押し固めて、らせん状に階段を作るイメージで魔法を発動させていく。
砂は形を変えていき、どんどんと地下へと続く階段ができていく。
「よし、シラクモ、行くぞ。ルバークさんたちが心配してるだろうから早く戻らないと。」
オアシスに残してきたルバークとロゼのことが頭を過った。
いや、今は魔獣木を回収して一刻も早く戻ることを考えよう。
階段に足を踏み入れると、重みで砂がホロホロと崩れる。
踏み抜けるようなことは無いだろうが、急いで階段を下る。
砂の層は思ったよりも浅いところで終わっていた。
様々な地層を見ながら階段を下りきった。
階段は俺たちを地下遺跡まで連れてきた。
広い空間に崩れかけた像と柱が立ち並び、壁には一面に文字や絵が刻まれている。
どことなく鬼蜘蛛の森の近くにあった遺跡で見かけた文字に似ている気がする。
同じ時期に作られた文明の跡なのかもしれない。
トレントの枝は下を指すのを止めて、ある方向を指していた。
遺跡をじっくりと観察している暇はない。
トレントの指示に従って歩を進める。
「すごく広い空間だな・・・。」
歩いても歩いても遺跡の同じような空間が続いている。
しばらく歩くと、先の方で鈴の音が聞こえてくる。
「シラクモ、もう少しだぞ!」
音のした方へと身体強化を使って走る。
トレントも間違いなく、音のする方を指し示していた。
シラクモが警戒した動きを見せないことから、一気に魔獣木との距離を縮める。
「誰じゃ、それ以上近づくな!」
暗闇から突然、声が聞こえてきた。
驚きの余り、足が止まって前のめりに転んでしまう。
「いたたた、最近こんなのばっかだな。」
光の玉をもう一つ浮かべて先に飛ばすと、小さな人影が浮かぶ。
「おぬし、こんなところで何しておるんじゃ?見たところ、子供のようじゃが・・・。魔獣が化けておるんか?」
立派な髭を蓄えたずんぐりむっくりした小さな人間は、手に持った槌を構えてそう言った。
「は、初めまして。俺はダイクと言います。魔獣じゃありません。ちゃんと人間です。」
両手をあげて、戦う気が無いことをアピールする。
「本当か!?じゃが、頭の上の魔獣はなんじゃ?そんな禍々しい魔獣はそうそうおらんぞ!」
槌をギュッと握り直したのが見えた。
「ま、待ってください!この子は俺の従魔です。俺たちはそこの木を採りに来たんです!」
小さな人間の後ろにある、魔獣木を指差して弁明する。
「採るったって、こいつは頑丈で壊れもせんぞ!実を砕くのでわしには精一杯だったんだぞ。おぬしのような子供に何ができるって言うんじゃ!」
そう言えば、魔獣の実が見当たらない。
このドワーフらしき人が壊してくれていたのか。
そう考えていると、魔獣木は実を落として遺跡に鈴の音が響く。
ドワーフらしき人は俺を警戒しつつも、槌を高く掲げて鋭く振り落とす。
魔獣の実に直撃し、実は音もなく砕け散った。
「あ、あの。また実を落とすと厄介なので、先に回収させてくれませんか?」
そう言って、俺が一歩近づくと、ドワーフらしき人も一歩下がる。
攻撃をしてくる訳じゃないので、魔獣木に一気に近づいた。
魔獣木は床に綺麗に敷き詰められたレンガを押しのけ生えていた。
周りのレンガを手で除けて、土魔法で根っこを解してアイテムボックスに収納する。
「な・・・、なんじゃと!?」
余程驚いたのか、槌を落として近づいて、魔獣木の生えていた場所を確認している。
「これで俺の用は済みました。すいませんが、ここから出られる方法を知っていたら教えてもらえますか?あと、名前を教えてもらえると助かります。」
ドワーフらしき人は魔獣木の跡地の側で、膝を折って肩を震わせていた。
「わしはガンドじゃ!助かったわい。わしにもここが何処か分からんのじゃ。おぬしの来た道でわしも連れて帰ってくれ!頼む!」
ガンドはここに住んでいるわけではないのか。
「わかりました。話は後にして、ここを出ることにしましょう。荷物はあの槌だけですか?」
「いや、こっちに来てくれ。おぬしのアイテムボックスなら持っていけるじゃろう。」
ガンドは立ち上がり、槌を持つと近くにあった壁を叩いた。
叩かれた壁は手前にぱたんと倒れ、ガンドが通れるくらいの穴が開いた。
「こっちじゃ!」
ガンドを追って壁の穴に入ると小さな部屋があった。
ハンモックが吊るされて、奥には小さな川というか用水路のようなものがある。
「持ってくるものをアイテムボックスに入れてもらってもよいか?」
コクリと頷くと、ガンドは機敏な動きで部屋を漁り出した。
持ってくるのは魔獣の皮や骨、素材として高く売れそうなものばかりだ。
「これ、どうしたんですか?」
手を休めずに、アイテムボックスに収納しながら聞いてみる。
「元々、ここにおった魔獣どもじゃ。これで最後じゃ。詳しくはここを出てからじゃ。ほれ、行くぞ!」
部屋はほぼ空っぽになった。
「も、もう少しゆっくりでもいいんじゃないか?」
俺の背中に乗って、ガンドはそう言った。
「すいません。俺を心配して待っている人がいるんです。我慢してください。」
身体強化を使って、全速力で遺跡を走る。
トレントは枝を伸ばすのを止めて、ただ腕にくっついていた。
帰り道はシラクモが頭の上から案内してくれている。
ほぼ一直線に遺跡を来たので、俺の作った階段はすぐに見つかった。
「なんじゃ、あれは!?あんなものは無かったはずじゃぞ!」
「俺が作ってここまで下りてきたんです。ガンドさんはそのまま乗っててくださいね!」
そう声をかけて階段を一気に駆け上る。
「おい!!だんだんと階段が崩れておるぞ!」
二人分の重みに砂の階段が耐え切れずに、登るたびに崩れていった。
「大丈夫です、分かってます!舌を噛まないように口を閉じていてください!」
何も大丈夫ではないが、足を動かし続けるしかない。
走るのとは違い、階段を上がり続けるのはきつかった。
太ももに乳酸が溜まり、足の動きを鈍らせる。
「まずい、まずいぞ!このままじゃ崩落に巻き込まれるぞ!」
分かってはいるが、息が上がり、足も上がらなくなってくる。
すると、体が淡く光り疲れが吹き飛ぶようだった。
「シラクモ、ありがとう。もう少し頑張れそうだ。」
ペースを上げて、何とか階段を登りきることができた。
「よくやったぞ、少年!それで、ここはどこじゃ?」
ガンドは小さな洞窟内の壁に作った足場を興味深そうに見ている。
洞窟の地面にあった砂は、階段の崩落と共にすべて遺跡に落ちていき、地面は無くなり大穴となっていた。
「はぁ、はぁ。すいません。少し休憩させてください。」
足場に倒れこむように寝転びながら、息を整える。
シラクモが心配そうに顔を覗いてくる。
「ありがとう、シラクモ。お前のお陰で頑張れたよ。」
背中を撫でながら、シラクモを褒めてやる。
「よし!もう少しだ、頑張ろうか!」
自分に喝を入れ、立ち上がり服を脱ぐ。
「少年、何を脱いでおるんじゃ!?」
ガンドがギョッとした目でこちらを見てくる。
「ガンドさんも溺れたくなければ服を脱いだ方がいいですよ!上の結界みたいなの、見えますか?あれを潜ると水の中に出ます。問題なく泳げるならそのままでも構いませんが。」
そういうと、ガンドも服を脱ぎ始める。
「じゃあ、行きましょうか。」
結界までの足場を作り出し、登り始めた。
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