第99話 オアシス
「あ゛~、暑いわね~。」
トレントの指し示す方向に砂漠を歩くが、なかなか魔獣木までたどり着かない。
砂に足をとられて進むペースが遅いのもあるが、何よりも日差しがきつい。
砂漠では日陰に隠れることもできず、直射日光を浴びていた。
「ロゼ、少し休憩にしよう!ルバークさんも、ロゼのところまで頑張ってください。」
だいぶ先を歩くロゼの足を止め、ルバークにはもう少し頑張ってもらう。
「頑張れ~!ルバークさ~ん!」
暑さなど問題ではないかのように、ロゼは元気だった。
土魔法でパラソルを作り、日陰を作り出す。
「はぁ~、ありがとう、ダイク君。」
コップに水を入れて渡すと、ルバークは一気に飲み干した。
「ありがとう、ダイク兄!」
ロゼものどを鳴らして美味しそうに水を飲む。
アイテムボックスから軽食を取り出すと、ロゼの手が伸びる。
「ルバークさんも食べてくださいね。食べないとこの先、体力が持ちませんよ。」
ルバークはラップサンドを手に取るが、一口齧っただけで止まってしまう。
「それにしても、魔獣がいませんね。助かりますけど、なんか不気味ですね。」
バルテペスの警備兵が言っていた魔獣も、ギルドで聞いた魔獣もまだ見かけてすらいない。
「いいのよ。この暑さで、魔獣なんか相手にしてられないわ。」
顔に大粒の汗を流しながらルバークは言った。
休憩を取り終えると、再び歩き出す。
植物も一切生えていない、砂だけの大地が見渡す限り広がっている。
「トレント、一体どこに魔獣木があるんだ・・・。」
トレントはずっと同じ方向に枝を向けている。
暑さもそうだが、代り映えのしない景色に心が折れそうになってくる。
「ダイク兄!水があるよ!」
砂丘の上で、ロゼがこちらに叫ぶ。
「ルバークさん、あの丘を越えれば水辺があるみたいですよ!もう少しです。頑張ってください!」
すっかり下を向いて歩いているルバークに声をかける。
「本当なの!?そこで休憩にしましょう!」
ルバークの手を取って、一気に砂丘を駆け上がると、そこにはオアシスがあった。
「本当に魔獣がいないね!」
ようやく見つけた水場にも魔獣の姿はない。
水を飲みに来ていてもおかしくは無いはずだが、一匹もいなかった。
「はぁ~、気持ちいいわよ!ダイク君も入りなさいよ!」
ロゼとルバークは足を水辺に入れて、涼を取っていた。
俺も靴を脱いで、水の中に入っていく。
「ルバークさん、まだトレントは砂漠の先を指してます。行けそうですか?」
「ここまで来たら、行くしかないわよね。もう街まで戻れる気もしないわ。魔獣木を回収して、さっさと帰りましょう。」
「そうだね!もう少し歩いたらあるといいね!」
水分を十分に取って、休憩すると再び歩き始める。
オアシスを迂回するが、トレントの枝はオアシスを向いている。
「どういうことでしょう?トレントはここを枝で指していたみたいですね。」
魔獣も魔獣木も見当たらない。
「水の中にあるのかしら?・・・わたし、泳げないわよ。」
ロゼも隣で不安そうな顔をしていた。
「大丈夫です。俺が泳いで見てきますね。二人はここで待っていてください。」
服を脱ぎ捨てると、シラクモが頭にしがみ付いた。
「シラクモ、無理しないでいいんだぞ。潜ることになるかもしれないし、待っててもいいぞ。」
そう言っても、シラクモは頭から離れない。
「じゃ、行ってきます!」
シラクモを頭に乗せたまま、水の中へと入っていく。
オアシスの水は透き通っていて、中の様子がよく見える。
泳ぎながら、水中を確認していくと、ちょうど中央の辺りに底の見えない大穴が開いていた。
「ルバークさん、底の方に穴が開いています!ちょっと、見てきますね!」
水中から顔を出して、潜るってくることを報告する。
「ダイク君、無理しちゃダメよ!何かあったら、すぐに戻ってきなさいね!」
「ダイク兄!頑張ってね~!」
頷き返して、大きく息を吸って大穴へと潜って入る。
トレントは水中でも問題ないようで、枝を大穴の方へと差している。
大穴を潜って進むと、膜のようなものが張っていた。
なんだろうと思い触ってみると、膜に引きずられるように落ちた。
「痛っ!」
中は真っ暗で受け身をとることもできずに、腰から砂の地面に叩きつけられる。
「いたた、シラクモ、トレント。大丈夫か?」
光の玉を浮かべると、シラクモは頭から離れて俺の側にいた。
怪我は無さそうで、前足をあげている。
「ここは、なんなんだ?上にあった膜みたいなのは結界か何かだったのかな?」
上空にある膜からは一滴の水も落ちてこない。
さっきまで水に浸かっていたのに、髪の毛も体も完全に乾いている。
日差しが入らないため、ここは温度が低く体が冷えてくる。
アイテムボックスから脱いだ服を取り出して、着ていく。
服を着たことで落ち着くことができ、改めて周りを見る余裕ができた。
俺たちが落ちたのは、小さな円形の洞窟のようなところだった。
暗くて良く見えないが、出口や通り道は見当たらない。
トレントの枝はまだ下の方を差している。
ここよりもまだ下に、魔獣木はあるのか。
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