第97話 バルテペス
「痛たた。・・・ルバークさん、ロゼ。大丈夫ですか?」
トレントの口から勢いよく排出され、転がり出た。
手が離れてしまったが、排出された後だったので、取り残されることなく二人の姿が確認できた。
「アハハハ、すごかったね!あ~、楽しかった!」
ロゼは長い滑り台を楽しそうに振り返った。
怪我をしている様子もなく、平然と立ち上がった。
「痛ッ!・・・ひどい通り道だったわね。体のあちこちが痛いわ。」
痛いと言いながらも立ち上がり、腰を撫でながら体に着いた埃を払った。
「シラクモは大丈夫か?」
フードの中にいた、シラクモの確認をするが、元気そうに頭の上に出てきた。
「大丈夫なら、ルバークさんに魔法を使ってくれ。俺とロゼは大丈夫そうだ。」
シラクモはルバークの足元に跳ぶと、体を淡く光らせて魔法を使う。
「あぁ・・・、ありがとう、シラクモ君。痛みがなくなったわ。二人は大丈夫そうね。それにしても、ここはどこかしら?」
薄暗い場所で、それぞれの姿がぼんやりとしか見えない。
「窓を開けるよ~!」
木でできた窓の隙間から、光が漏れていた。
ロゼが窓を開けると、光が入ってきて部屋の全貌が目に入ってくる。
何も物がない部屋の隅にポツンと植木鉢に小さな木が生えていた。
「まさか、これから俺たちは出てきたのか?」
植木鉢を含めて、俺の膝丈までもない小さい木だ。
「そうみたいね・・・。こんなに小さい木にも顔があるわ。この木もトレントなのね。」
ルバークは驚きながら、小さなトレントを観察している。
「ダイク兄、こっちも見てよ!」
窓の外を眺めていたロゼが俺を呼ぶ。
トレントを離れて、ロゼの元へ行って窓の外を見た。
「どこだ、ここは・・・。」
窓の外には小さな街が広がっていた。
白い壁でできた小さな家がいくつも見える。
温度も高く、外壁の向こうは砂漠だろうか・・・。
街も砂に覆われており、少し寂しさを感じさせた。
「ダイク君、トレントが動き出したわよ!」
窓から離れてトレントのところまで戻ると、植木鉢の土から根っこを外そうと動いていた。
クイーンによれば、トレントが道案内をしてくれることになっている。
この小さなトレントがその役目を負っているんだろうか。
モゾモゾと植木鉢から脱出すると、手を口に突っ込んで魔石のようなものを取り出した。
「これって・・・。腕輪に付いていた石かしら?」
拾って腕輪に付けると、ぴったりと嵌った。
「よかったね、ダイク兄!これでいつでも帰れるね!」
「そうだな、ロゼ。ありがとう、トレント。早速案内を頼みたいところだけど、ここはどこかの街みたいなんだ。まさか、街の中に魔獣木があるとは思えないし、ここを出るまで隠れていてもらわないといけないな。」
言葉が通じたのか、トレントは枝を伸ばして俺の腕に絡めた。
枝が縮みだすとトレントの体ごと腕にピタリと張り付いた。
「ダイク君、大丈夫ッ!?」
トレントの俊敏な動きに、ルバークは心配そうな顔をこちらに向けた。
「大丈夫です、ルバークさん。これならローブに隠れるし、街も歩けそうですね。」
トレントはローブの袖を巻き込んで張り付いているが、袖を引っ張ると力を緩めてくれた。
「しばらく、ここで我慢してくれよ。」
トレントを覆う様に袖を下ろすと、ローブにすっかりと納まって違和感なく隠すことができた。
「じゅあ、とりあえずここを出ましょうか。」
部屋の扉を開けると、すぐに階段があった。
向かいにはもう一部屋あったが、人の気配はない。
ロゼが勝手に開けてしまうが、中には何もなかった。
「空き家なのかな?下からも人がいる感じはしないね!」
ロゼは能天気に、そんなことを言いながら階段を下って行った。
「わたしたちも行きましょう!」
ロゼに続くように、俺とルバークも階段を下る。
下の階にはやはり誰もおらず、家の中は砂まみれだった。
「長いこと、誰も住んでないみたいですね。」
家具はいくつか残っているが、きれいに全て砂を薄っすらと被っている。
「ダイク兄、もう開けちゃうよ!」
待ちきれずに、ロゼは玄関と思われる扉を勢いよく開いた。
「暑いとは思っていたけれど、外はもっと暑いのね・・・。」
外に出たルバークがフードを深く被りながら言った。
「そうですね・・・。ロゼもフードを被ったほうがいいよ。日焼けして、後で痛くなっちゃうよ。シラクモ、俺もフードを被るから、頭の上においで。」
シラクモが頭に乗ったのを確認すると、フードを深く被った。
ロゼもフードを被ったところで、街を探索してみることにする。
トレントには悪いが、ここがどこかも分からない。
せっかく、街に来たんだ。
買い物くらいしても、罰は当たらないだろう。
適当に街をぶらぶらと歩いていると、市場が見つかった。
「ダイク君、市場よ!少し、買い物をしていかない?せっかくここまで来たんだしね!」
ルバークも同じことを思ったんだろう。
もちろん、俺も賛成する。
「いいと思います!買い物しながら、ここがどこかを確かめましょうか。」
「えぇ~、急がなくていいの?」
「ロゼ、ここには見たことない武器だってあるかもしれないんだぞ。それに美味しい食材も。ロゼは気にならないのか?魔獣木を処理し終えた後に、ここに戻ってこれるかも分からないんだぞ。」
「・・・そうなの?なら、先に見ておかないとね!」
ロゼの気持ちを乗せたところで、市場の中へと入っていく。
寂し気な街の市場も、どこか活気がない。
店は並んでいるが、あまり商品が並んでいないし、客も疎らだ。
「いらっしゃい!お嬢さんたち、見ていかないかい?」
市場に入ってすぐの店主が呼びこんでくる。
「ここは何を売っているのかしら?」
見たことの無い形状の野菜かフルーツを売っている店だった。
「何だい!?見たことないのかい?ってことは旅人さんだね!大変な時期に来たもんだ!」
店主は大げさな動きで、そう言った。
「大変な時期ってなんのことですか?」
何を売っているのかも気になるが、店主の言葉の方が気になった。
「魔獣だよ!旅人さんたちも大変だったろう、この街まで来るのが。魔獣が増えた影響で、バルテペスに来る行商人が減ってるんだ。」
この街の名前だろうか。
砂漠の街 バルテペスでも魔獣木の影響が出ているようだ。
「そうなのね。わたしたちも大変だったのよ。おじさん、それを一つ貰ってもいい?」
何だか分からないものをルバークは買うと、俺たちを連れて市場を離れた。
「この街はバルテペスって言うみたいね。二人も聞いていたと思うけれど、わたしたちはただの旅人よ。」
「え~、ボクたちって旅人だったの?」
ロゼは大きく口を開けて、驚いてみせる。
「ロゼ、ここがどこかも分からないんだ。ようやく街の名前だって分かったところなんだぞ。余計なことを言わずに、何か聞かれれば旅人ってことにしておけばいいんだ。旅人ってのも、あながち間違いじゃないしね。」
「そっか、わかった!ルバークさんはさっき、何を買ったの?」
ルバークが抱えているものを、ロゼは眺める。
「とっさに買っちゃったわ。これは何かしら?」
俺に差し出して、鑑定しろと圧を掛けてくる。
「デーツっていう果物みたいですね。」
俺の知っているデーツとはかけ離れてでかい。
パイナップルくらいの大きさをしている。
「とにかく、戻って市場を見ながら、情報収集をしましょうか。」
再び、市場へと戻り、店を見て回ることになる。
評価とブックマーク、ありがとうございます!
まだの方は是非、お願いします!
モチベーションになります!