卒業パーティーでの断罪 その11
お花畑再臨します
誤字修正のご連絡ありがとうございます。
わたくしの執事が裏で何かしているのはわかっていたけれどまさか五星院老会が関わっていたなんて。
噂程度しか知りませんが、国を飛び越えたかなりの有力者が名を連ねていると聞きます。
ですが諸国の上層部にはあまり好かれていないとも、各国の有権者の中に紛れているとも聞きます。
知られた名前の方々はその国の王ですら頭が上がらないと言われる方々ばかり。その方達の手足が見るものはすべて報告され、彼らが話す言葉は方々の言葉と同等となる。
国々からは畏怖された存在ですが、その五星院老会にひと度認められれば一生安泰の人生を送れると聞きます。後ろ楯についてもらえただけで名声もお金も思いのままになるのだとか。
五星院老会が遺跡に目を付けたとなれば国王達が考えていた以上に価値があるということになります。ですがそれと同じくらい危険なのでしょう。
わたくしでもなんとかなる遺跡なのか、手におえない恐ろしい魔窟なのか判断はつきませんが、魔術研究には少しばかり抜きん出ているはずなのでそこを買われたのかもしれません。
目をギラつかせている国王達にはもう少し頭を使ってほしいところです。
「な、なんとかならぬか?これからはアルモニカ嬢を大事にする!遺跡発掘を一緒に頑張ろうではないか!!だからチャンスをくれないか?」
「なんとかも何も既に裁決はくだされた。貴様が婚約破棄に許可をしたのだ。それに国民も貴様達のような身勝手な者の国になどいたくないそうだぞ」
「な、なんだと?!」
ヴァンがナタシオン侯爵を見遣りました。
侯爵が調べたところによるとソリッド商会が撤退した後、王子や王家の悪い噂が出回り嫌気がさした国民が逃げ出しているのだそうです。
流通はその後ジルドレド伯爵の商会が幅を利かせたのもあり信頼を一気になくしたとか。
その暴落した信頼が他の無関係な商会にも飛び火して王都の市場はかなり危険なのだそうです。
遺跡の方も事故多発による人手不足と過重労働で暴動が起こっていて王家への不満がかなり増しているようです。
決め手は辺境伯領の占領で近いうちに戦争になり王都も戦場になるという噂が真しやかに広まって夜逃げや犯罪件数も増えているのだそうです。
「民なくして国は成り立たない。信頼も然りだ。それを忘れた貴様らに王と名乗る権利はない」
婚約の打診があった時、お父様達家族は最後まで抗議して嫌がっていましたけど五星院老会の話は一度も出ませんでした。
だからわたくしも遠くの国に行くから心配しているのだろう、とくらいにしか思わなかったのですが。
エクティドの国王陛下と話した時も『いつでも戻ってきていいよ』と軽い感じで言われたくらいで、遺跡発掘の話なんて聞いてませんでした。
とんでもない話になりましたわ。
重大過ぎて頭がついていけない、と思考停止しかけた時、空気を読まない男爵令嬢が口を開きました。
「え?じゃあ、ディルク王子じゃなくなるの?うっそ!じゃあアタシディルクと結婚するのやめる!」
まさかの発言に皆がぎょっと男爵令嬢を見ました。
しまったわ。あまりにも王子が気持ち悪くて他の方達の魔法を解いてしまっていたのね。
「はぁ?!パルティー?どうして、僕と愛を誓っただろう?僕のことを愛しているだろう??」
は?待って。さっきわたくしと結婚したいと言ったはずよねこの人。なのに舌の根が乾かぬうちに、すぐ近くにわたくしがいるのに男爵令嬢にも粉をかける気なの?
どういう神経をしているの?とドン引きした顔で二人を眺めました。
「えー?でもディルク言ったじゃん。僕と結婚すればたくさん贅沢できるよって。けど王子じゃなくなったら贅沢できないじゃん。
だから結婚するなら公爵のランドルにするわ!」
「はああ?!」
「っい、いや!私よりもリュシエルの方がいいよ!彼は誠実だ!」
「何でこっちに振ってくるんだよ!ぼ、僕よりもエドガードがいいよ!彼ならいつでもきみを守ってくれる!」
「パルティー。俺が幸せに」
「エドガードと結婚するのは構わないが、そやつの籍を抜いたから平民に落ちるぞ」
王子の絶叫と共に気絶していた側近達が目を覚ましました。さっきまで王子を蹴落としてでも男爵令嬢を手に入れようと考えていたでしょうに、なんとも現金な方々ね。
たらい回しにされた男爵令嬢はルシェルシュ令息で決まるかと思われましたが、父親であるルシェルシュ伯爵が一言添えると彼の手を取ろうとした男爵令嬢は手を引っ込めました。
「うっそ。平民なんて嫌よ!平民臭い匂いがつくからこっち来ないで!」
「パ、パルティー?!」
ショックを受けるルシュルシェ伯爵令息を尻目に男爵令嬢は満面の笑みで此方に向き直りました。
「あ、じゃああなた!変わった肌してるけどすっごく綺麗な目をしてるわ!きっとすんごいお金持ちなんでしょ?アタシと結婚しましょ?」
こんな女のどこがいいのかしら?と考えていたら男爵令嬢はヴァンに言い寄ってきたので戦慄しました。
コテン、と小首を傾げる様はまあまあ可愛らしいものでしたがその前の行動が酷すぎて閉口するほどでした。
男爵令嬢くらいでヴァンは落とされないでしょうけど、今までが今までです。不安しかありません。
まさかヴァンも王子達のように男爵令嬢に骨抜きにされるのでは?と固唾を飲み込みました。だ、大丈夫よね……?
「申し訳ありません。私はアルモニカ様の執事ですので」
わたくしの執事、と聞こえた途端ホッとしました。信じてはいますが言葉があるのとないのとでは違います。
そこまで考え、どこかむず痒い気持ちになりました。
わたくしってば何でこんな一喜一憂しているのかしら。ヴァンはわたくしの執事。いえ、そうでなくとも彼が誰を好いたとしても関係ないはず……。
「ええー?!そんな格好いいのに執事なの?!いいなぁ~アタシもあなたみたいな執事欲しいなぁ。ね!名前なんて言うの?教えて!」
「お答えしかねます」
しかしめげずに話しかける男爵令嬢に、少しばかりイラついた気持ちと焦る気持ちに苛まれました。
もう、そんな答え方じゃなくてもっとはっきり断りなさいよ!それくらいじゃその方は諦めないわ!
そう考えていたら予想通り、男爵令嬢はわたくしと目を合わせてきました。ほとほと不敬な人ね。
「ねえ、アニーさん!!この人の名前教えて!それからアタシこの人と結婚するから!
アニーさんの執事ってことは侯爵家の執事よね?侯爵家で一番権力があって偉い人!うん!アタシにぴったりだわ」
可愛くおねだりしてきたけれど内容の破壊力が半端ないですわね。
言葉に詰まるわたくしの代わりに見届けるために気力を振り絞って正気を保っていたショモナイナー公爵令嬢が『権力があっても使用人は使用人。主人であるアルモニカ様やミクロフォーヌ侯爵の方が上なのよ』と教えましたが、
「貴族は貴族でしょ?アタシとダーリンとおまけでアニーさん!三人仲良く暮らせばいいじゃない!アハッアタシってば天才じゃない?!」
と朗らかに一蹴してショモナイナー様が目眩を起こしていました。わたくしも気絶したい。というか使用人は貴族じゃないことも多いのに。
けれどここで逃げ出せば間違いなく男爵令嬢が追ってきます。男爵令嬢との繋がりを断たなくてはいけません。アルモニカは自分を奮い立たせた。
「あなたはディルク殿下と真実の愛で結ばれていたのではなくて?だからわたくしとの婚約を破棄させたかったのではないの?」
「そうよ!アタシとディルクはアニーさんにはない真実の愛で結ばれてるの!ランドルやリュシエル達ともそうよ!だってみんなアタシのことを可愛い、素敵!聖女みたいって大切にしてくれるもの。
でぇも~アタシ、結婚相手はお金持ちって決めてるのよね。お父様はアタシのこと愛してくれるけど男爵家って貧乏なんだもの。一生貧乏とか本当無理!
ディルクなら毎日贅沢してもいろんなドレス作ってパーティーに出ても怒らないしお金もたくさんあるでしょ?だから結婚したかったの。
だけど王子じゃなくなるならいらないわ。愛はあってもお腹は膨れないもの。だからアニーさんにあげる。代わりにその執事ちょうだい!!」
あぁ、目眩がするわ。怒りで暴発しそう。なんなのこの人。
今まで全部許して男爵令嬢を増長させた張本人になんとかしろ、と目で訴えましたが王子はいらないと言われたことにショックを受けて放心していました。情けない。
「使用人は物ではないわ。それにあなた『侯爵家の執事』のお給料を支払えるの?」
「え?なんでアタシがそんなの払わなきゃなんないの?お金を出すのはアニーさんでしょ?アタシはダーリンのお嫁さんになるの。
だからアニーさんはアタシにもお給料?を払わなきゃならないのよ」
話聞いてた?と自分本意な男爵令嬢にステンドグラスが割れました。いけない、抑えないと。
「やだ何?驚いた。いきなり割れたわよ?……まぁいいか。
アニーさんってランドルよりは低いけどエドガードよりはお金持ちなんでしょう?だったらなんの問題もないじゃない!」
だからあなたを養えというの??ふざけてるの?
「あ、そうだ。ディルクにも話してたんだけどアタシが卒業したら結婚式をするの!ダーリンとね!いいでしょう!ウフフ!
王都で一番大きいあそこの教会にしようねって約束してたの。ダーリンも楽しみでしょう?!
ウェディングドレスと指輪はディルクがくれるから~あっランドルとリュシエルはティアラとネックレスにイヤリングよろしくね!すっごいキラキラしてて大きな宝石がいいな!
色は絶対ダーリンの瞳と同じにしてよ!アタシの色の宝石は~アニーさんが買ってダーリンに渡してね!安物もコピー商品もダメよ。
格好いいアタシの旦那様は本物しかつけちゃダメなの!ジルドレドおじ様も安物はダメって言っていたわ!」
ティアラは王妃になる者しかオパルール王国では身に着けることが許されていませんが。
それからコピー商品を売っていたのがジルドレド伯爵ですが。知らないのかしら。
人に買わせようとしてるのになんでこんなにも自信満々に胸を張って言えるのか理解できないわ。
「それからアニーさんはみんなに招待状を出しておいてね!たくさんの人にお祝いしてもらいたいから!式場の手続きもよ!親友なんだからできるでしょ?
あ、子爵夫人だけど忘れずにアタシのお姉様にもちゃんと出しといてよ!子爵夫人だけどププッ」
なんでわたくしがあなたの式の準備や招待状を出さなくてはならないの?あなたの結婚式なのでしょう?子爵夫人だけど、って何?あなたの姉でしょう??
とりあえず招待状は結婚をする者が出すものと聞いていますわよ。
「そうそう!お祭りにしたいからパレードもしないと!!平民のお店を全部お休みにすればみんなもアタシとダーリンの姿を見に来れるよね?
式が終わったら屋根のない馬車(アスコット・ランドー馬車)に乗って王都をぐるりと回るの。素敵なアタシをみんなにも見せてあげなきゃいけないもの!
みんなアタシを見るために押し寄せてきて、美しいアタシを見て感動しちゃうんだわ!
それでおめでとうって大歓声を浴びるの!はぁ~♡人生で最高の日になること間違いなしよ!!」
パレードって。中途半端に王妃の話を聞いていたのかしら。結婚式ひとつとっても大きな予算を使うというのに。
それに他国の執事と男爵令嬢が結婚式でパレードなんてしたら顰蹙ものじゃない。店を休みにしてその日の生活費を誰が払うのよ。わたくし?冗談じゃないわ。
「使用人と結婚するということはあなたもわたくしの使用人になるということは理解しているの?使用人になれば毎日の贅沢もパーティー三昧もできませんわよ」
そもそもとして使用人が、男爵令嬢が王家クラスの結婚式を挙げられるなんて思うのよ。なんで誰も訂正も指導もしてこなかったの??
「???ダーリンは執事よね?執事は使用人じゃないでしょ?一番偉いんだから」
「……執事も使用人よ。使用人の役割のひとつに執事という仕事があるの」
的確にというよりも当たり前で少し辛辣に返すと男爵令嬢はショックを受けた顔になり、それから瞳いっぱいに涙を溜めて両手を胸の前で組みながら悲痛な顔で叫んだ。
「なんでそんな酷いことを平気な顔で言えるの?アタシはアニーさんの親友でしょう?
親友を使用人としてこき使おうだなんてジョークにしても笑えないわ。ほら、みんなだってアニーさんがおかしいって顔してる!
ダーリンと結婚したら一緒にいてあげるけど親友は使用人じゃないのよ?
親友は友達よりも上の存在なの。家族くらい……ううん。家族よりも大切な存在なのが親友なのよ!」
可哀想なアニーさん。そんなこともわからないなんて。と同情してるようでバカにしている男爵令嬢に頭痛が酷くなるばかりでした。
会話ができるのに話が通じない……。この人が話しているのはオパルール王国の公用語なのよね?わたくしマスターしたわよね??
読んでいただきありがとうございます。




