卒業パーティーでの断罪 その8
本日は2話更新です(1/2)
「ま、待ってくれ!こんなのありえない!!王妃はともかくディルクはまだ学生なのだ!
適当なところで許してはくれないか?!四年も連れ添った仲ではないか!」
「それを言うならアルモニカ様も子供でありながら一人オパルール王国にやってきて一人で頑張ってこられました。その評価はないのですか?
ディルク殿下が婚約者を守り大切にするのは子供でもわかる、できて当然のこと。
むしろ国の王子が誰よりも傷つけるために権力を振るってはいけないときつく教えられてきたはずです。
それができなかったのは本人の責任であり、ちゃんと教育してこなかったあなた方の責任ではないでしょうか」
「……それは、その」
「またズーラ帝国やルダンブル王国に慰謝料が支払えたのですから、当然アルモニカ様にも支払っていただけると思います」
魔法学校を後宮に変え、それをまざまざ見せつけハーレムの話もその時初めてアルモニカに伝えた。
しかも第一夫人でも正妃でもないと他国の王女達の前で辱められ最後は砂となって消えた。
それがどれだけの侮辱かわかっているんだろうな?とヴァンが睨み付けると国王は涙目になって何度も頷いた。
「書類には学園内でディルク殿下から婚約破棄を宣言された場所、回数、傍観者のお名前と人数。加勢した貴族達の名前、それによってどれだけアルモニカ様が心的苦痛を受けたかが焦点となっております。
他国からやって来た十代のご令嬢が、味方が誰一人いない土地で慣れない生活と謂われのない謗りを受け続けてきたのです。
これでも金額を抑えましたがもっと支払いたいですか?」
「いや!と、とんでもない!!……だ、だが、……その………ものは相談だがこんな天文学的数字は現実的ではない。……もう少し安くはならぬか?」
あまりにも桁が多すぎて無理だ、と媚を売るような顔の国王にヴァンは『何言ってるんだお前。支払うのは当然の義務だろうが』と侮蔑を含んだ目で見下した。
悲鳴を上げた国王は引き吊った笑みを浮かべながらアルモニカに縋りついた。
「アルモニカ嬢。ずっと言っておるがディルクはお主の前だと少し素直になれずどうしても冷たい言葉を使ってしまうがそれは本心ではない。
なぁディルク。ほら奴も頷いておるではないか」
いえ、まったく上の空な顔ですが。
「だからな、アルモニカ嬢。この慰謝料は高過ぎると思わんか?儂はお主の義父になる王だぞ?
こんなことをすれば我々に遺恨が残ると思わないか?それではお主も過ごし難いだろう?」
だから帰国するって言ってるじゃない。
「このままディルクと結婚すればお主は王妃になれるのだぞ?こんな幸運は二度とないはずだ。
婚約破棄をすれば傷物になりエクティド王国に帰っても結婚できぬのだぞ?
ディルクのような素晴らしい王子を捨てたとなれば、お主は〝聡明な王子を逃した気位が高い我が儘な令嬢〟なのだと噂が回り娶ってくれる者も今後一生現れないないだろうな。うんうん。
そんな不要な醜聞にまみれるよりもディルクと結婚すればすべてが丸く収まるぞ!それで全部帳消しにしようではないか!!」
は?何言ってんのこのおじさん。
王子と結婚なんかしないって言ってるじゃない。というか聡明なって何?素晴らしいってどこが??
瑕疵も悪評も覚悟の上よ。それでもこの国でも誹謗中傷よりマシだと思っているわ。
で、丸く収まるって何?お金を支払いたくないから結婚させるわけ??
ふざけるな。
ズドン!と足を力強く踏み鳴らすと床が割れ至るところから悲鳴が上がった。
中には割れ目に落ちたり天井から落ちてきた壁や絵画、窓ガラスにシャンデリアの装飾な一部が落下してきて逃げられない者達は頭を抱えた。
それを扇子を振って落下物を取り払い、落ちた者達も床に拾い上げた。
同じく裂け目に落ちて無様に引っ掛かっている国王を無言で見下ろしていると彼は鼻水を垂らしながら引き吊った顔で笑みを浮かべた。
「そ、そうかそうか!取り消してくれるか!それでこそ儂の娘だ!!おいっこの書類はすべて焼却処分し婚姻書類を持って来るのだ!
直ちにアルモニカ嬢とディルクの婚姻式を執り行う!……そうそう。結婚披露宴はまた後日で構わんよな?」
(ウェディングドレス一式を辺境伯領を取り戻すために売り払ってしまったし、数年は披露宴も何もできないだろうがどうせ子ができるし急いで作る必要はないだろう。
子ができればエクティド王国から祝い金をたんまり貰えるはずだからそれを使って辺境伯領を買い戻さなくてはな。
国のためと言えばアルモニカも快く許してくれるはずだ。そのためにも年頃の令嬢が喜ぶ話をしてアルモニカを懐柔しなくては)
という下らない考えが顔にすべて出ていました。
一人過剰にはしゃぐ国王に誰もが冷めた目で睨んでいました。
「卒業式に結婚できるなど素晴らしいではないか!この国始まって以来ではないか?儂のサプライズもなかなかだろう?
そうそう。儂と王妃の結婚も素晴らしかったぞ。
純白でありながら豪華絢爛な金刺繍が施されたウェディングドレスを纏い代々受け継がれているティアラをつけた王妃はそれはそれは美しかったのだ」
ああ、王妃が自分専用にカスタムして私物にしたティアラですね。ご自分の棺桶に一緒に入れるそうですよ。
「王妃の指定ですべてを白に染め上げ、我らだけではなくパレードの馬も馬車も騎士達も美しい装飾で着飾った姿はまさに圧巻であった!」
すでに王妃の散財の片鱗が見えますわ。誰も止められなかったのかしら。
わたくしにはサインだけの式しかしないと宣言したその口で豪華なご自分の結婚式を喋りだすの、控えめに言って下種ですわよ。
「きっとアルモニカ嬢もそんな壮大な結婚式ができるはずだ!楽しみだろう?そうだろうそうだろう!うんうん。
とても豪華な式をディルクが計画してくれるはずだ!」
そうやってやる気もない者に押し付けたらい回しにして有耶無耶にされてきた記憶しかないわ。魔法学校がいい例に思うのだけどもう忘れてしまったのかしらね。
「実はな。儂と王妃の結婚の誓いはこの広間で執り行ったのだ。
あの時もアクシデントがあったが、我々の結婚宣言により臣下達は喝采をあげ、全員が歓喜の涙を流し祝福した記念すべき日だった。
目を閉じると今でもその光景を思い出す。皆にとっても生涯の中で特別に素晴らしい良き思い出になったばずだ!」
勝手に一人で感動しないでほしいのだけど。
「それを本気で仰ってるのかな?陛下よ」
折角準備した書類を焼却しようとした上に意見を変え世迷い言を吐く国王にヴァンは浮かす魔法をかけると、国王の首を片手で掴んで割れ目から引き摺り出しました。
そしてそのまま床に叩きつけると遺物にヒビが入ったようです。この蜘蛛の足っぽい遺物は衝撃に弱いようね。
国王が衝撃なのか痛みなのかわからない悲鳴をあげると同時に両開きのドアが開け放たれました。通る渋めの声に誰もが振り返りました。
先頭には品のいい老紳士と従者、そして兵士達が一斉に雪崩れ込みました。
割れた床を見て驚いていましたが、彼らは器用に安全な場所を飛び回りながらずんずんと中に入ってきました。
その自然な動きに皆呆けていましたが兵士が剣を抜いていることに気づくと気を失っていない者達が悲鳴を上げました。
「ナタシオン侯爵……!なぜ王都に?!」
「久しいなフィクスバール卿。こんな時でなければゆっくりと酒でも呑み交わしたいところだが私も忙しくてね」
狼狽える丞相とは逆に笑っていない目で微笑んだナタシオン侯爵は此方を顔を向けるとヴァンを見てそれからアルモニカに向かって最敬礼をした。
「エクティド王国、ミクロフォーヌ侯爵家当主アルモニカ様と存じます。この度はご卒業おめでとうございます」
「お初にお目にかかります。ナタシオン侯爵。お祝いのお言葉ありがとうございます」
「祝いの場に不相応な格好での突然の来訪お許しください。またご無礼を承知でお願いがございます。
その方はオパルール王国の国王、ブルコック陛下をどうか放していただけないでしょうか」
怒りの炎でギラつくナタシオン侯爵に息を吐いたアルモニカはヴァンに目配せをして放させると国王は遺物に拘束されたままのたうち回り咳を繰り返しました。
「よ、よく来てくれたナタシオン侯爵!この不埒者を捕らえよ!この儂を、国王を殺そうとしたのだ!!」
「陛下。それはどちらの話でしょうか。わたくしですか?彼ですか?彼のことを言ってらっしゃるなら主人はわたくしなので、捕まえるならわたくしになりますが?」
「え!いや、そういうわけでは」
「ミクロフォーヌ様。不審者というなら私共のことではないでしょうか。おめでたい席にこんな格好で現れたのですからな」
国王的にはわたくしも捕まえたいでしょうが、自分の発言と行動に周りからどう見られているか見えていないご様子。
直接的な被害を知らない卒業生達ですらショモナイナー公爵令嬢とデヴァイス帝国の名前を聞いて不要な発言は自分の身を滅ぼすと理解しているというのに。
「ん?!ま、待て!ナタシオン侯爵!なぜミクロフォーヌ嬢だけにしか挨拶をせぬ!儂への挨拶がないとはどういうことだ!!」
「……それは挨拶をする価値がないという意味ですが。
もしや陛下は何かお困りなのですかな?見たところ奇抜な装飾を纏っておりますが最近の王都の流行りなのではないのですか?」
「ナタシオン侯爵。陛下は鍵もわからないまま従者に遺物を与えてしまったそうなのです。それであんな姿に。ナタシオン侯爵はあれの解除方法を知っていますか?」
「残念ながら十年以上領地に引きこもっていたので何も。ですが陛下が五、六年前から遺物の発掘に力を注いでいることは聞いておりました。そこで見つかったものなのは確かでしょう。
遺物は厳重管理され使用には念入りな研究と実験、確認を数回以上繰り返す必要があり、何より安全が確認された上で陛下の許可がないと使用できません。
もしやそこの者は陛下の暗殺を目論んだのですかな?」
ギロリと投げつけた従者を睨むと彼は悲鳴を上げ逃げようとしましたがすでに腰が抜けていてあっさり兵士達に拘束されました。
本人は何も知らない。遺物を使ってアルモニカを拘束するつもりだったと白状しました。
制御装置で無力化できたから遺物なら従わせることができるとタカを括ったのでしょう。なんと愚かなことを。
「まさかまさか。解除もわからない遺物を使いエクティド王国の侯爵令嬢であるミクロフォーヌ様を捕らえ、そんな姿にしたのだと知られればこの国はどうなることか!
貴様はこの国とエクティド王国を戦争させたいのか?いいや違う!そんな恐ろしいことを陛下が指示するはずがない!
この嘘つきめ!貴様は死よりも苦痛な拷問にかけた上で本物の犯人を突き止めてやる。覚悟しておけ!!」
そんな!!と泣き出す男は兵士達に連れ出されていきました。
「よ…よくやった!ナタシオン侯爵。では次は儂の拘束を外すのだ。いやその前にアルモニカ嬢が逃げないように拘束を」
バカなことを言わないでほしいわ。
「ナタシオン侯爵。先程の話は本当ですの?国内に遺跡があり、しかも現在も発掘を続けておりますの?」
「ええ、その通りです。ですよね?陛下」
腕輪の件がありましたし調べで少しは知っていましたが、昔発掘し、今は閉鎖されている遺跡もよくあったので深くは掘り下げませんでした。
なにせ遺跡の発掘は歴史観点から見てもとても貴重で、慎重に慎重を重ねて進める数十年単位のプロジェクトなのです。
国庫が火の車のオパルール王国がいくら自国内に遺跡があったとしても手を出すなど自殺行為に等しいことをするはずがないと思い込んでいました。
確かに遺物には価値があり使い方によっては他国を滅ぼすことも、自国を飛躍的に繁栄させることもできるものがあります。
ですがそれは研究者の血と汗と時間という努力の賜物で得られたものなのです。下手に手を出せば国を滅ぼすことにもなりかねません。
遺跡には金品財宝が埋まっていることが多々あるのでそれを求めて掘る者もいますが、罠が張り巡らされていますし磁場のせいで迷路にもなる恐ろしい場所なのです。
迷宮同様、遺跡も安易な気持ちで入っていい場所ではないのです。
王妃の使い込みだけではなかったのね。
呆れて国王を見遣ると彼はあからさまに動揺し、とぼけようとして無理矢理話を変えてきた。
「貴様達こそなぜそんなにも親しげなのだ?!アルモニカ嬢もナタシオン領の発音がなぜそんなにも滑らかに発音できるのだ?!
やはり貴様達は繋がっておったのか?!儂を嵌めて、国を簒奪するつもりか!」
普通に会話していただけなのに何がやはり繋がっていたのか、よ。遺跡の存在を隠したいと思っているのがバレバレじゃない。
読んでいただきありがとうございます。




