卒業パーティーでの断罪 その7
本日は2話更新です(2/2)
「ま、待ってくれ。一時帰国なのだろう?王妃教育には機密情報もあるのだ……え、王妃が手を回して学ばせなかった??あの女はどこまでも……!!
いや、そうでなくてもだ。まさか、今までのことすべてエクティド王国に報告するわけではないだろう?」
まさかと震える国王にアルモニカはにっこり無言で返した。報告しないわけないじゃない。
「待て!待ってくれ!それは止めてほしい!頼むから!落ちついて話そうじゃないか!
……おい誰か!アルモニカを捕まえろ!!」
そう国王が言うと誰かが何かを投げつけてきた。目を細めたアルモニカは扇子を操り結界を作り、その前に蝶の壁を作った。
そしてその何かが蝶にぶつかると同時に他の蝶達で何かを一斉に包み込み扇子を大きく払う。すると突然風が巻き起こり、蝶を巻き込んでその何かが国王にぶつかった。
「ぎゃあ!!」
「陛下!!」
風が収まり国王を見れば彼は蜘蛛に似た足に体を拘束され完全に身動きができなくなっていた。
何らかの捕縛用の道具でしょうけどこれも遺物でしょうね。こんなものを作れる技術はオパルール王国にありませんもの。
もう一度扇子をふるい、風を起こすと天井を埋め尽くすほどの蝶がすべて巻き込まれ、そしてつむじ風を作って消えました。
さっきまで感じていた痺れはなくなり、貴族達は驚き自分の手や体を擦っていましたが空気の重さは変わらず、床に膝をついたまま怖々とアルモニカを見上げた。
「たすっ助けてくれ!痛い!この格好では腕がねじ曲がって痛いのだ!頼むから外してくれ!」
「ご自分で外したらいかが?鍵をお持ちでしょう?」
片手が背に回りねじ曲げられていてとても痛いようです。芋虫のように這いずり回る国王にアルモニカは助けもせず醜い国王を見下ろしました。
制御装置同様、鍵を知っているのでしょう?と返せば国王も投げた者も何も知らなかった。
アルモニカにつけた腕輪の鍵も恐らくこれだろう程度の認識しかしてなかったらしい。
下手をしたら一生外せないままだったのだと知ったヴァンからは殺気が漏れ出し近くにいた者達が失禁や卒倒をしました。
アルモニカの前にいる者達がいるところまで殺気が突き刺さり気を失いかけましたが、『寝れば死ぬ』というアルモニカの存在感に目をこじ開けているしかありませんでした。
情けない。ちゃんと立てているのはわたくしとヴァンだけじゃない。この程度で気絶してるなんて貧弱もいいところだわ。
せめて魔法教育にメスを入れられれば、魔法学校が建設できればこの無様な姿を半分……いえ四分の一は見せずにすんだでしょうに。
本当、なんで後宮なんて馬鹿げたものに変えたのかしら。なんで作ってしまえばどうとでもなると思えたのかしら。とっても腹立たしいわ。
「陛下。わたくしは、怒って、いるのですよ。ずっと見て見ぬフリをしてきた国王陛下ならわたくしが何に対してどう怒っているのかおわかりいただけますわよね?」
圧力が更にかかり弱い者は昏倒し、恐怖のあまり泣き出す者もいた。丞相の息子なんて無様にもほどがあるくらい大の字になって潰れている。
ちゃんと魔法を学んでいれば強者の魔法に耐える方法も、強者を見抜く能力も開花できたでしょうに。
制御装置などという未知の遺物に依存するなど愚かな行為に手を染めストレス解消だけのためにわたくしを蔑んでいたなんて呆れを通り越して笑えてくるわね。
「陛下、わたくしはなにもあなた方を見捨てて母国に帰ると申したのではありませんのよ。
ディルク殿下は先程こう仰りましたわ。わたくしと婚約破棄をして貴族籍を剥奪し、最終的に処刑なさる…と。ディルク殿下はわたくしの死を望んでいるのです」
思いもよらないまさかの発言だと言わんばかりに丞相達はぎょっと驚き自分の息子達を見ました。
辺境伯領の件をもう忘れたのか?と吐き捨てていましたが、潰されそうな圧力のせいで誰一人まともな会話ができる者はいませんでした。
「いくら不貞で結ばれたご令嬢がいるとはいえ、ディルク王子は立太子もされていません。
冤罪でわたくしを罰することもエクティド王国に籍を置いているわたくしの貴族籍を剥奪することも、ましてや平民同等の扱いで地下牢に押し込み公開処刑をするなどできるはずはありません」
シャラリと扇子を見せつけるように国王に掲げました。
「ですがこの国に来てから今までディルク殿下のすべてに従うよう王妃様から命令されており、ディルク殿下も決めたことは何一つ変えずわたくしの名誉を辱め続けました。
恐らく陛下もディルク殿下のお言葉をお許しになりわたくしを捕まえ悪女にでも仕立てて処刑するおつもりでしょう」
悲しげに目を伏せれば、国王が慌てふためきましたが発した言葉は謝罪ではありませんでした。
「まさか!そんなことするはずがない!!儂が許すはずがない!!」
「ああ、言い訳など仰らないで。わたくしのことを奴隷か下僕と思ってらっしゃる方々の言葉など聞きたくないの。だって使用法もわからない遺物を息子の婚約者につけるような国王だもの。何一つ信用に値しないわ」
冷たく言葉を切り扇子を閉じれば国王は震えながら俯いた。最初から皇后様からいただいた扇子を見せつければよかったのね。こんなにも効果覿面だと思わなかったわ。
「陛下、もしわたくしに少しでも情があるのでしたら、何卒婚約破棄と帰国の許可をいただきたく存じます」
「待て!待つのだ!!もう少し考えても良いではないか。もしかしたらお互いのいいところがわかるかもしれん。
政略結婚は互いの気持ちは二の次だが何も絶対に愛が生まれないわけではないのだ。もう少し、あと少し我慢すればうまくいく切っ掛けができるかも」
なんでもう少し我慢しろだの、うまくいく切っ掛けだの中途半端にムカつく言葉を使ってくるのよ。わたくしはもううんざりだって言ってるの。なんでわからないの?
「陛下はわたくしに死ねと仰るのですか?」
「いや、そうではない。アルモニカ嬢は勘違いしているのだ!儂が言わずともわかるだろう?
これはディルクの悪戯だ!若さ故にちょっとやり過ぎてしまっただけなのだ。アルモニカ嬢だって周りに迷惑をかけているだろう?それと同じだ。
いつもされてることじゃないか!それを今更目くじらを立てなくても」
「悪戯……オパルールでは法を犯していない者に対して公開処刑、国外追放、奴隷落ちなどと人を人とも思わない言葉で詰っても悪戯、ですむのですね。……よい勉強になりましたわ」
会話を成立させるために他よりも圧力を手加減していたけど彼に一番与えるべきよね。わたくしがどれだけ本気かということを。
「その残虐な言葉を真に受けてしまうわたくしにはオパルール王国の王妃になれる資格がないのでしょうね。
この国に不要なわたくしは即刻エクティドに帰り父や国王陛下に相談後然るべき対処をしていただく所存です。
また尚も殿下やあなた方がわたくしの命を脅かそうとすれば、わたくしは全力でもって立ち向かいオパルール王国へ抗議するつもりですわ」
学園だから子供同士だからとちゃんと取り合わなかった国王に改めて突きつけました。制御装置が外れ、魔法学校は白紙。そして婚約破棄となればアルモニカがオパルール王国に残る理由は何もありません。
思い入れもなければ愛情もない。結婚してから?人として見切りをつけた相手にどう仲良くしろと?
散々『僕の方が上だから言うことを聞け』。『何も知らないお前に教育してやるから友人周りにも従え』。『貴様の国はオパルール王国より下なのだから伏して従え』と言われ続けたのよ?知らないでしょうけど。
それで生まれる友情なんて歪なだけだし愛情なんて生まれるはずもないわ。
そして質が悪いことに国王は実子のディルクを次の国王にしたいと思っているし自分が生きている間は政権を譲る気もない、という考えのお人でした。
息子が頼りなく心配だからというよりも自分がより長く王でいたいという老害に近い考えで実権を握っていたいのでしょう。
そんな考えなものだから操作しやすい凡庸で愚かなディルクを放置し、実権を握り続けるためにアルモニカを無力化させ傀儡に貶めようとしているのが透けて見えていました。
今引き留めているのだって今だけの言葉で本心ではないし、本心からの謝罪もする気はないでしょう。
亡き者にするかはわかりませんが王妃のように内々に幽閉するくらいのことはしそうだと感じました。
だからわたくしはデヴァイス帝国の気配を匂わせ、エクティド王国に伝える考えがあると宣言しました。それだけもうオパルール王国に残る理由はないのです。
もうどれだけ悪評を並べられても怖くありませんし、少し心配していた力の差も此方がかなり有利だとわかったので自力で出ていくことも可能です。
手加減も手心も加えませんわ、と侮辱罪に問われるような圧力で国王を平伏せさせると彼はぶるぶると震えなんとか購おうと四苦八苦されていましたか、最後はがくりと肩を落としました。
「……婚約破棄を認めよう」
「陛下?」
どちらが悪いかわかってますよね?
「う、うむ。先程の令嬢達に慰謝料が支払われるのにアルモニカ嬢だけ別というのもおかしな話だったな」
よし、これで言質は取れたわ。
男爵令嬢を苛めたという冤罪も撤回するようお願いすると国王は仕方ないと頷き「当たり前ですわ」とショモナイナー公爵令嬢が証人になってくれました。
一呼吸置いたアルモニカはヴァンを呼び寄せました。
「アルモニカ様、ここに」
スッと歩み寄ったヴァンは上機嫌で感情を爆発させなかったわたくしを褒めてくれました。
我慢できずにピリピリしていたから褒められる場所なんてなかったと思うけど、ヴァンの言葉で少し空気が和みました。
丞相や国王のぎょっとした視線が気にならなくもないですが、用意していた紙の束を取り出し話しやすいように圧力を解除して国王に差し出しました。
「これらはアルモニカ様への慰謝料に関しての書類になります。
休学に関わる医師の診断書五枚、こちらは学園長の休学許可書、ミクロフォーヌ侯爵家から捻出した持参金と魔法学校建設費用、魔法学校建設に伴う計画書三十枚、予想予算額など。
此方は王妃教育の一環で王妃様から先触れ無しに呼びつけられた回数、教育的指導という名の体罰、精神的苦痛を与えた虐待、その診断書が六十八枚にのぼります。
また茶会用にお茶や菓子、ティーセット一式を十八セット、オパルール王国では希少とされているデディバ(青薔薇)を毎回買い付けその支払いをすべてミクロフォーヌ侯爵家に送り付けておりました。
ティーセットはどれも国外ブランドで、現品はすべて王妃様の食器棚の中に陳列しているでしょう。
中には眺めるだけでまだ一度も使用せず、勿論王妃様の私物なのでアルモニカ様がそのティーカップを使われたことはありません。その費用が記された書類が此方です」
紙の束を受け取り、始まった話に国王は目を白黒させました。国が傾くほど王妃が散財されているのに国王はすべてを把握しているようでまったくしていなかったのです。
そのため、アルモニカにも借金していたと知り怒りで赤黒くなっていました。わたくしからすれば今更ですが国王は名だたるブランド名にとんでもない金額なのは理解したのでしょう。
丞相を睨み付け本当か?と目で聞きましたが彼は後ろ暗いため目を背けていました。
「後宮建設費用は外壁類はクエッセル侯爵が悪徳業者と結託して安く建設し魔法学校建設の半額に留めましたが、内装などにふんだんに使い予定の三倍の額になりました。赤字ですね。
そしてそれらはすべて砂になってしまったため取り返すことは不可能。
またクエッセル侯爵はその建設予算を横領していた疑いがあり、侯爵の帳簿で出所不明の大金が確認されたため全額返金を願います。
続けて王妃様も先程のとは別に建設予算をクエッセル侯爵から内々に受け取って豪遊をされていましたので、ミクロフォーヌ侯爵家名義で買ったものすべての売却と足りない分の金額を全額お返し願います」
ヴァンの通る声は魔法をかけたわけでもないのに広間の隅々にまで響き渡り、国王はハクハクと空気を噛み赤から青に顔色が変わっていきました。
読んでいただきありがとうございます。




