卒業パーティーでの断罪 その6
本日は2話更新です(1/2)
畏怖し内心気に食わないと蔑んだところでデヴァイス帝国に敵う力はありません。
その元宗主国を後ろ盾にした上、友好の証として特注でも何年かかるかわからない装飾が細やかな扇子を持つアルモニカに誰もがとてつもない恐怖を感じました。
堂々と謝罪したショモナイナー公爵令嬢ですらカタカタ震え足下をふらつかせました。
エクティド王国よりも身近で恐怖を感じる相手を知ったことで自分達がどれだけ愚かしく取り返しのつかないことをしたのかやっと想像と現実が噛み合ったのでしょう。
謝っても許されないことをしてきた者ばかりですからね。本来ならば国王や王子が務める役割をデヴァイス帝国が担っているというところかしら。
他国に面倒を見てもらわないと成り立たない国なんて国である必要はないわね。
その価値のない王子は男爵令嬢の明け透けな爆弾発言に奇声を発しました。
けれど時既に遅く、勘違い甚だしい王子の傲慢な発言は広間の端にいる者達にも届き彼らは呆れと恐怖、そして怒りを込めて王子を睨みました。
彼だけではありませんが学園で立場が悪化した原因は王子なので仕方ないでしょう。
「違っ違うんだ!これはちょっとした勘違いで!誰だって間違いがあるだろう?!それをさも大きな間違いを起こしたみたいに僕を責めるなんて酷いじゃないか!!」
いえ、大きな間違いですわ。
「お返事にデヴァイス帝国の名は出しませんでしたが『友好の証として下賜されたものであってディルク殿下がお買い上げになったものではない』とお伝えしたはずです。
それをディルク殿下は王命を使って所望してきたので、仕方なくお貸ししたのですよ」
それを後押しするように国王が声を荒げました。
「ディルク!!貴様も儂の許可なく王命を使ったのか?!王命がどれ程の価値があり重いものかわかっての狼藉か?!」
「ひぃいいっ!!だ、だって、アルモニカが蛮族のものだって言わなかったから……」
「それ以前の話だこの馬鹿者がぁ!!今すぐにその無礼な言葉を撤回し謝罪しろ!!貴様は死にたいのか?!」
大声を出して叱ったから満足、みたいな顔をされても困るのよね。せめて此方を見て謝ってくれないと。
ほら次は?と茶番劇をする親子を眺めていると男爵令嬢がなぜか国王の袖を引っ張りました。あらあら、後ろで無関係な方々が倒れた音が聞こえますわ。
「お義父様!ディルクを叱らないで!アタシの扇子を返さないアニーさんが悪いんだから!」
「はあ?!誰がお義父様だ!お主も何を言っておる?!…いや待て、アニーさん?………アルモニカ嬢のことか?!なんと無礼な!相手は侯爵令嬢だぞ?!立場を弁えぬか!」
「またその話ぃ?なんでみんな呼びやすいあだ名で呼んだだけで大騒ぎするの?
ディルクは『田舎小国の侯爵なんて貴族であってないようなものだ。だから敬う必要なんてない。王子がどれ程偉いのかわからせなくてはならないからパルティーも手伝ってくれ』って言ったのよ?
……ちょっともうディルク大声出さないで!怖いわ」
国王に叱られて泣きそうなのに真実の愛で結ばれた相手に学園内で鼻高々に息巻いて喋っていた言葉をそのまま暴露され、王子は男爵令嬢を凝視しながらパクパクと空気を噛んでいました。
泣かせてでも口を塞いで止めればよろしいのに。お優しいのやら愚かなのやら。
「学園のみんなもアニーさんのこと呼び捨てにしてたし陰口だってたくさん言ってたわ。
田舎小国の芋女なんかに妃なんて務まらないのだからさっさと死ねばいいのにって学園のみんなに言われていたのよ?
不細工で芋っぽいのは仕方ないけど酷くない?だからアタシは可哀想だなって思ってあだ名をつけてあげたの。
アニーって名前なら無愛想で不細工な顔も少しはマシに見えるでしょう?」
さもいいことをしたかのように胸を張る男爵令嬢に皆怖々と彼女を見ました。
一番無礼で一番心無いことを声高に王子と一緒になってアルモニカを貶めていたのは男爵令嬢だというのに、自分は味方だと国王の前で言うものだからある意味王妃然とした何かが見えましたが、大半の人には危険すぎる爆弾に見えました。
彼女が歴史が深い公爵令嬢でもあれば違和感もなく様になっていたでしょうが、商人としての血が濃く、もっと遡ればオパルールの民でもなかったコラール男爵家では男爵令嬢の行動は忠義と血を重んじる貴族にとって傲慢な暴挙にしか見えませんでした。
告げ口された中には陰口を言っていた令嬢が「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣き出したり取り乱して自殺をはかろうとするものまで現れ阿鼻叫喚になりました。
自分のせいで家族に迷惑がかかると思ったのでしょう。
デヴァイス帝国に告げ口をしてどうこうするつもりはなかったアルモニカは男爵令嬢の悪意のない暴露などどうでもよかったのですが、このままだと謝罪してくれた令息令嬢達の気持ちを無下にしてしまうなと考え魔法で男爵令嬢を黙らせました。
「もが!」
何度も簡単にかかるなんて素人過ぎないかしら。何で魔法反射や魔法防御のアイテムをつけてないのよ。学習能力ないの?
お陰でずっと初級魔法しか使えないじゃない。逆にストレスが溜まるわ。
「アルモニカ嬢。もしやと思ったがお主……まさか、」
ついでに体を動かないように固まらせると国王は目を瞪りアルモニカを見た。
「ええ。陛下からの最初で最後のプレゼント、『魔力制御装置』のお陰で随分と有意義な時間を過ごさせていただきました。
魔法が使えるからとわたくしに古代遺物の魔法制御装置をふたつもつけてくださって本当にありがとうございました。お陰で今頃壊れましたわ」
「そんな、それは鍵がなければ絶対に壊せないはずでは……」
「残念ながら遺物は遺物。完璧ではありません。わたくしの魔力を制御し続けることはとても難しいことなのですよ」
魔法で男爵令嬢の言動を封じたことに驚き動揺する国王達を見て薄く微笑みました。よく知りもしない遺物にどんな信頼を寄せていたのかしらね。
「結婚すればいずれ鍵を開けてくださると仰った陛下の言葉を信じてきましたが、我慢できなくて自力で壊してしまいましたわ」
二年調べて三年目で解除する細工を施しましたが内側から壊すのが一番手っ取り早かったわね。
カツン、とヒールの音が響きました。それと同時に何処からともなく蝶が現れ触れられた者達が次々に悲鳴を上げました。
魔法をかけようとした者、剣を抜こうとした者、今もわたくしを蔑もうと隙を伺う者、王妃の下僕……勿論王子達にも蝶が取りつき、魔法解除、鱗粉による利き手の痺れ、喧しい口や手足を蝶や鱗粉で封じました。
「陛下、わたくしは怒っているのです」
微笑んだと同時に左手首にあった腕輪が壊れ、ゴトンと落ちたと同時にぶわりと体から熱気が立ちのぼりました。
「ショモナイナー様や学園の生徒達よりもずっと、もっと、あなた方王家に怒りを感じているのです」
うっすらだったり少し多いくらいの魔法で作り上げた蝶がアルモニカの魔力で視覚化し、魔力がない者にもはっきり見えるようになりました。
天井を埋め尽くすほどの大量の蝶とむせ返るほど舞う鱗粉にたまらず気絶する者、声にならない悲鳴を上げて逃げようとする者、腰が抜けて茫然自失になる者が続出しました。
後ろ盾にデヴァイス帝国がいるとわかった時よりも被害が大きいかしら。
長く抑えつけられてきたせいで制御の仕方を忘れてしまったみたいですわ。
蝶で国王の手足を拘束するとアルモニカは冷えた目を携え微笑みながらゆっくり近づいた。
「魔法制御はわたくしの魔力量に理解が及ばないのだろう、ということで受け入れました。
ですが王妃様の嘘の約束事、常態化したわたくしへの差別、ディルク殿下からの嫌がらせ、婚約者としての役割の放棄……これらを一切放置したのはなぜかしら?
あなた方は母国エクティドからの援助が欲しかったのよね?やってることがあべこべだと思わなかったのですか?」
「お、王妃の件は知らなかったのだ!それは本当だ!あのドレスのことも知らなかった!
ディルクはなんというか、思春期のせいで素直に言えないだけであやつはずっとアルモニカ嬢を一途に思っていたはずだ!
プレゼントだって毎年、いや毎回贈られていただろう?そのドレスでパーティーに出ていたはずだ!」
「………陛下が知る情報とわたくしの事実はかなり齟齬があるみたいですね」
扇子を振って丞相を国王の前にスライディングさせ這いつくばらせれば、彼は顎を真っ赤にしながら管理していた王子妃の予算を王妃が下僕を使って名義を書き換え、アルモニカに使われたことは一度もなくすべて王妃に使われていたことを吐いた。
また王子も婚約者に使うべき交遊費やプレゼントなどの収支を詳しく調べたら王妃が片付けた下品で真っ赤なドレス以外アルモニカに渡ったものはないとされ、何処に大枚が使われたかと問われた丞相は言い難そうにすべて男爵令嬢に贈っていたと白状した。
オロオロとした国王はまた知らなかった、王妃め!ディルクめ!と怒ったがまったく心に響かず丞相をぞんざいに魔法で壁まで投げ捨てた。
この国王ってどこまでいっても口だけなのよね。その事実を本当に知らないとしたら自分は凡暗だと言っているようなものよ?
「そういえば陛下はわたくしの代わりにエクティド王国に手紙を書かれているとか。
手紙の中のわたくしは随分自由奔放に暮らしていて、陛下達や貴族に愛されたとても幸せ者らしいですわね。
ディルク殿下とも仲睦まじく結婚してもなんの問題もなくやっていけるだろうとのことでしたが………それは誰のお話かしら?わたくしのことではありませんよね?」
時には代筆をしてわたくしになりすまし、両親に嘘を書き連ねて送っていました。わたくしからの手紙は検閲をかけそのほとんどを握り潰していたのです。
たまに届く両親からの噛み合わない手紙に何度憤ったことか。
国同士の約束事をなぜ普通に守れないのかとぶわりと熱が膨らみ強く重い圧力に国王はたたらを踏んで尻餅をつきました。
「それは……、そう!丞相がそうしようと言い出したのだ!儂は反対したのだが、オパルール王国のためだと言いくるめられて仕方なく…」
「へ、陛下?!」
「国のため?エクティド王国の国王陛下がわたくしを選んでくださったのですよ?
そのわたくしを蔑ろにし、それを隠蔽することが国のためになるとでも?」
「そ、そうは言っておらぬ。ただちょっと……」
「……ただちょっとオパルール王国が必須条件として上げていた『魔力量が多い未婚の令嬢』であるわたくしを使い物にならなくしたかったのですか?
そうすれば魔法学校がご破算になったこともわたくしのせいにできますし、契約不履行を理由にエクティドに援助金のつり上げもできますものね?」
ずん、と重くなった空気に立ち上がろうとした国王は床に両膝をつかされた。
「ア、アルモニカ嬢!一旦この話は置こう!こんなハレの日にこんな無粋な話はよくない!
別室でもう少し平和的によく話し合わないか?そうだ、そうしよう!!おい、今すぐ別室の準備を!」
「陛下、そのおめでたいパーティー気分はもうとっくになくなっておりますわ。
ディルク殿下の婚約破棄宣言に始まり、側近の方々の婚約破棄、そして真実の愛で結ばれた未来の王妃様の暴言の数々。
わたくしでなくとも皆さんガッカリされていると思いますが」
手を頬にあて溜め息を吐けば国王は言葉に詰まりました。
国王が早々に場を収めてくだされば王子達もあんな愚かな三文芝居をしなくてすんだのです。
男爵令嬢なんて……いえ彼女の自業自得もありますが、不要な発言を止めなかったのはショモナイナー公爵令嬢に目をつけられるように仕向けたようにも見えてしまいます。
そのくせ徹底した罰を与える気がないのだから質が悪くてなりません。
未だに王子の発言の撤回もせず謝罪もないまま婚約を続けさせる性根の腐った発言、ほとほと呆れ果てましたわ。
「残念ですが陛下。わたくしは学園卒業後すぐオパルールを立ちエクティドに帰国しますの。ですから、次も、またも、ありませんわ」
「え…な、何を言うか!これからディルクとの結婚式の話や王妃教育が残っているだろう?休んでいた分を取り返して気持ち良くディルクと結婚すれば良いではないか!」
だから嫌だって言ってるでしょうが。あなたの息子が婚約破棄宣言したって言ったのもう忘れたの??
まず息子の謝罪からでしょうが。と空気を更に重くしながら笑みを作れば国王の顔が崩れた。
読んでいただきありがとうございます。




