卒業パーティーでの断罪 その5
お陰で随分手痛い思いをさせられたわ、と肩を竦めると一人の紳士が前へ進み出ました。
「コラール男爵令嬢。あなたに選択の権利を与えよう。この中で好きな者を選ぶがいい」
「え、いいの?」
「お、お待ちくださいショモナイナー公爵!息子はまだ婚約を結んでいるのですよ?!部外者は口を挟まないでいただきたい!」
次に出てきたのはショモナイナー公爵令嬢のお父様で、狼狽する丞相を冷めた目で睨みました。
「家の恥とわかっていながら、身を引き裂かれる思いで決断した令嬢達の言葉を無下にするおつもりか?
不貞を働いたのはそちらが先。喜んで婚約破棄を受けるべきではないか?」
「それは、その……」
どうやら丞相は男爵令嬢をうまく利用して息子以外のどちらかに押しつけたかったようです。
まあ、婚約者を売っても男爵令嬢が自分の家に来てしまってはいずれ家に厄災が降りかかるというもの。
真実の愛があっても今後の生活が安泰とは限りませんものね。
それに全員が婚約破棄になるなど前代未聞ですし。ですがショモナイナー公爵に指摘され息子同様言い返せず口ごもりました。
「フィクスバール公爵よ。今更嘆いたところでもう遅いのではないかな?
彼女達は我が娘も含めて殿下のハーレムの一員なのですから。あなたも賛成し許可されただろう?」
「「「はああっ?!」」」
あら、ハーレム五十人計画をご存知ないのかしら。王子の基準や国王達の考えを少しでも読み取れれば自分の婚約者も危ういと気づくと思うけど。
政略に相応しい条件が揃っていて見目が整っている方々がハーレムの基準を満たさないわけないでしょうに。
彼らは本気で驚き王子を睨みましたが、王子は弁解せず顔を背けました。
丞相は苦々しいご様子。あの方も愚かなことを考えたものね。
息子が男爵令嬢に傾倒しだした頃から婚約者を王家に売り、且つ後継者は内々に丞相の息子と交わり産ませてた子を王子の子供と欺こうとしていたのだから。
わたくしの影でわかるくらいだから王家は勿論把握してると思うけれど……いえ、危ういかしら。
婚約者は他家の娘だというのに圧力をかけて無理矢理巻き込んだのですもの。きっといつか捕まるはずだわ。多分。
「陛下。王妃様に内々に打診されお受けしましたがはっきりさせないことには後々の火種になりましょう」
「うむ、」
「本来ならコラール男爵家ごと消してしまうのが一番早い手段でしたがそれでは遺恨が残ると娘に言われました。なので陛下から一言賜りたく存じます」
ようは男爵家を潰して王子に逆恨みされたらたまったものじゃない。潰さない代わりに婚約破棄の許しを国王から直々に賜りたい、そういう言い分でした。
ですが今ここで騒いでおかないとコラール男爵家は没落して平民の男爵令嬢と結婚することになるし、貴族として残れても一生ショモナイナー公爵令嬢達から冷たい視線を浴びて過ごすことになりますが。
それでもいいの?と王子達を眺めましたが彼らは周りの殺伐とした空気に臆して黙って聞いていました。
今目の前で起こっていることが彼らのターニングポイントだと思うのですが、なぜか邪魔をせず国王の言葉で婚約破棄が認められ、令嬢達は涙を流しながら抱き合いました。
あの方々はコラール男爵家がどうなってもよいのかしら。
「ではコラール男爵令嬢。次はあなたの番だ。この中から好きな者を選びなさい」
そう言って公爵は側近達の前に男爵令嬢を立たせました。
「しかし選ぶ時は慎重に選びなさい。その者はあなたの夫となる者なのだからね」
優しく丁寧にショモナイナー公爵は言葉を紡ぎましたが目は冷え冷えとしていて側近達は震え上がりました。
男爵令嬢と目が合うと違う奴を選んでくれ!と言わんばかりに首を振りました。
やはり婚約がなくなると廃嫡、もしくは放逐されるのでしょう。だから不敬でも声を上げるべきでしたのに。
丞相を見る限り側近の親達は本気ではなかったのでしょうが、卒業パーティーなどという公式の場でここまでの失態を国王の前で晒してはなかったことにはできません。
たとえなかったことにできたとしても、その家は間違いなく社交界に出入りできなくなるくらい支持を失い、発言力を失うことでしょう。
それを知っていて男爵令嬢側についたのでしょうから彼女の男を誑かす才能は半端ないわね、と感心しそして呆れました。頭がお花畑になるというのも大変ね。
根回しもせずただ目の前のことを楽しんでいた彼らは先送りにしてきたことや見ようとしなかった現実に向き合い、ツケを支払わなくてはなりせん。
男爵令嬢を娶ったところで彼らが考えていた最初の未来はもうないのです。
さっきまでの意気揚々とした無敵の空気はまったくなくなり、公爵令息の二人は処刑台にあげられたような、今にも泣き出しそうな顔で震えていました。
ルシェルシュ令息だけは騎士には変わりないとタカを括っているようですが貴族と平民ではすべてが違うということを理解していないようでした。
「選んでもいいけど、その場合って『第二の夫』みたいな感じ?」
そして現状を理解していない方がもう一人。
オパルール王国筆頭貴族であるショモナイナー公爵への軽率な態度に周りの大人達が悲鳴を上げたり息を飲みこんでいました。
その中にやっと入れたコラール男爵夫妻も居て、隣にいた夫人が泡を吹いて倒れ、男爵も頭を抱え膝をつきました。
要領を得ない話にショモナイナー公爵は一瞬顔をしかめましたがすぐに幼子に話しかけるように聞きました。
「第二の夫、とはどういうことかな?」
「だってアタシの夫はディルクよ!ディルクと結婚してアタシは王太子妃になるの!ハーレム?でもアタシが一番上なのよ!だってアタシが一番愛されてるから!
王太子妃になったらみんなから祝福されて、みんなにキャーキャー言われながら一番高いところからこうやって手を振るんだよ!知ってた?」
今からちゃんと練習してるの!と身振り手振りする男爵令嬢にコラール家の親戚筋らしい方々が限界だと言わんばかりに次々倒れました。
止めたくても爵位と遠さで出来ずにいるのでしょう。御愁傷様です。
傍若無人に振る舞う男爵令嬢を我関せずといった顔で眺めていた国王でしたが、「では夫はディルク殿下でよいのかな?」とショモナイナー公爵が確認すると慌てて口を挟みました。
「こ、公爵!ショモナイナー公爵!大事なことを忘れているぞ!ディルクには婚約者がいる!なあアルモニカ嬢!!
お主はディルクと結婚するのだぞ!こういう時こそちゃんと声を上げぬか!」
会場内で一番地味な格好をされている令嬢を見て国王は仰いましたが、ショモナイナー公爵令嬢が指摘して慌てて此方に向き直りました。
繕ったところで地味=アルモニカと親子揃って見ていたことはわかっているのですよ。
「ゴホン!今日は一段ときらびやかだな。とても似合……いや待て。アルモニカ嬢。なぜ今までその格好をしなかった?
王妃もなぜ年相応の明るい格好をしないのか、いつも嘆いていたのだぞ」
さも慮っていたような口振りの国王にアルモニカを目を細めた。
「『オパルール王国の未婚の女性は地味な格好と地味な髪型で他の殿方の目に入らぬようにすること。黙ってディルク殿下がすることに従い、すべて受け入れ尽くすこと』。
…王妃様と初めてお逢いした時にオパルールでの婚約者のあり方をそう教わりました。
未来の義母である王妃様の言葉は正しいのだと粛々と従ってきましたが、この四年間わたくしがしていたような地味な格好、地味な髪型は一人もいませんでしたわ。
なので本日は令嬢らしい格好をしてきましたの」
煩い王妃様もいないし丁度良かったですわね。
そんな命令をされていたことすら知らない王子は驚き、ショモナイナー様達もありえないとヒソヒソ話されるのが聞こえてきました。
心当たりがあるような顔で目を泳がせた国王はわざとらしく咳払いをするとざわめきが一斉に静かになりました。
「そ、そうか。それは難儀だったな。だがまあきっと王妃の勘違いであろう。そういうこともある」
何が、そういうこともある、よ。
「わたくし、王妃様のご意向に添えるようにわざわざオパルールで一番地味で贅沢に見えないドレスを買い漁りましたのよ。王妃様やディルク殿下に認めてほしかったのです。
ですが学園やパーティーなどでは母国エクティドの恥さらしと蔑まれ、王子妃に相応しくないと散々言われてきました。
そしてその約束をさせた王妃様からも『地味なあなたは王子妃に相応しくない』と何度もお茶会などで叱られましたわ」
「そ、そそそんなはずはない!お、王妃様に無礼だぞ!」
王妃付きの誰かが叫び、その方向に扇子を振るうとその者に花瓶の花や用意されていた軽食などが口の中いっぱいに詰め込められひっくり返りました。
あの者は王妃のお気に入りね。お気に入りの証である不相応な華美なカフスがついているわ。
あの者達はわたくしに不利なよくない噂を王妃の指示で広めていました。
それ以外でも王妃宮で行われた王妃とのお茶会に勝手に同席しては延々と王妃とだけ話しアルモニカをいないものとして扱いました。
恐れながらと話を切り出せば王妃が金切り声を上げ、
『魔法も使えぬ役立たずがわたくしの許可なく喋るでない!わたくしは大切な者達と楽しいお茶会をしているのよ!!不愉快だわ!そこに立って反省なさい!!』
と、何時間も立たされ王妃のお気に入りの者達に嗤われ、押されて転ばされたり、手掴みで食べ物を押し付けられたりしました。
それを思えば窒息するほど食べ物でないものを入れられても文句は言えないわよね。
「なぜでしょうね?わたくしはちゃんと言い付けを守っただけですのに、あのような出自すらわからない見た目だけの慮外者がわたくしを貶し王妃様に誉められているなんて。この国の婚約者とはそういうものなのかしら?」
デヴァイス帝国の皇后様からいただいた扇子を開き扇ぐと「それアタシの扇子じゃない!返しなさいよ!」と喚く男爵令嬢をあえて無視しました。
「そういえばなぜ本日王妃様がご出席なさらないのかしら?ディルク殿下がご卒業……ああ、なさらないからですか?
王妃様にとっては殿下が留年するのだから婚約者も留年しろという意思を込めてご欠席なされたのね」
わたくしが卒業したところでお祝いの言葉すらありませんわよね。としんなりするとショモナイナー公爵が答えてくれました。
「王妃様は不治の病にかかり療養のため離宮に移られました。そうだな、フィクスバール公爵」
「あ、いや……そ、そうだ。王妃様は離宮にいらっしゃるため参加されません。なので卒業生への祝辞を預かっております」
だから祝いの言葉はあるということね。逃げ口上としてはまあまあだわ。だけど参加されません、ではなく参加できませんってことよね。
ここでの離宮は幽閉の意味もあるもの。遅すぎる処置ですがこれで逼迫していた財源が少しだけ緩やかになるでしょう。
「きゃあ!やったわ!あのおばさ……じゃなかった、お義母様今日来ないのね!なら今のうちに婚約しちゃいましょディルク!サインしてしまえばお義母様も諦めてアタシ達を祝福してくれるわ!」
結婚式超楽しみ~!!とはしゃぐ男爵令嬢に周りの温度がどんどん下がっていきました。
なんで許される前提なのかしら。王妃の好みを考えますと男爵令嬢はわたくしよりも危うい立場だと思うのだけど。
「あ、そうだ。アニーさんもネチネチよくわかんないこと喋ってないでさっさとその扇子返してよね!それアタシのなんだから!」
「ちょ、パルティー、待っ」
「あら、それは本当ですの?この扇子はデヴァイス帝国のキャンダス皇后様から友好の証としてわたくしアルモニカ・ミクロフォーヌに下賜されたものなのよ?それをわたくしが奪ったとでも仰るの?」
「はあ?何よくわかんないこと言ってるの?その扇子はディルクとの結婚披露宴で持ち歩いたらすっごくアタシに似合うだろうなぁ~って思ったからディルクに〝欲しいからちょうだい〟って言って貰ったものよ!
アニーさんこそ勘違いしてるんじゃない?その扇子は元々ディルクがアタシのために買ってくれたものよ!!それを間違ってアニーさんに渡しただけだって言ったもの!」
「うわああああああああっ!!!」
とんでもない暴露と事実に周りは騒然となりました。仔細を知っている国王達は顔や頭を覆い、知らなかった側近達は真っ青になりました。
読んでいただきありがとうございます。




