卒業パーティーでの断罪 その3
「けれど今のあなたは男爵位の次女だわ。後継者でもないから準貴族…いえ、平民と同等ね。元々の嫁ぎ先は商人だったのでしょう?
そんな者が公爵令嬢のわたくしを牢屋に入れる?
ディルク殿下。あなた様の子飼いのネズミが随分増長しておりますけれど、これはショモナイナー公爵家に対してコラール男爵は敵対行動を取るという意味でしょうか?
でしたらわたくしの安寧とこの国のために『排除』しなければなりませんわね」
「はぁ?だから言ったでしょ!アタシは王太子妃になるって!ネズミじゃないわ!ドブス!!
そういうあんただってまだ家を継げないんだから平民と一緒じゃない!アタシ勉強して知ってるんだから!
それにあんたは王太子妃のアタシよりも身分が低いんだから、アタシに許しを乞わなきゃならないのよ!ちゃんと膝をついて深く謝りなさい!」
「……ディルク殿下。もしかして王家はショモナイナー公爵家を貶めようとなさってるのですか?
先王の妹君である王女様が降嫁した我が家を、王家の血をひくわたくしを、牢に入れるですって?本気で仰ってるの?」
「ご、誤解だミルキーヌ嬢!!パッパルティー!待て!待つんだ!!」
「もうっ止めないでよ!!あの女、アタシのこと侮辱したのよ?!王太子妃になるアタシを!王族のアタシにしがないブスがたてついたの!
ディルクもいつもみたいに大声で叱りつけてあのブスを黙らせてよ!!」
「いや、ちょ、待っ」
公爵令嬢に対して指をさし命令する男爵令嬢にさすがの王子も真っ青な顔で慌てふためき他の令息達と一緒に止めに入りましたが、男爵令嬢は発言を撤回しませんでした。
いくら「公爵家に失礼だ」と言っても、
「だってあの女、平民だってアタシを苛めるのよ?アタシは王太子妃になるのに!悪いのはあっちよ!!あんな女の家なんてなくなっちゃえばいいんだわ!
ねぇディルク!あのショーモナイ家なんてこの国にいらないわ!潰しちゃってよ!
え?こーしゃく?…アニーさんと同じってこと?だったらなんの問題もないじゃない!
こーしゃくなんて低い身分なんだから、アニーさんみたいに自分の立場をわからせてやればいいのよ!
王太子妃になるアタシを侮辱するこーしゃく家なんて潰れちゃえ!!」
「……え?なんでダメなの?王太子妃になるアタシに無礼を働いたんだから痛い目に遭うのは当然じゃない?…なんでわかってくれないの?!
あんな高飛車そうなブスなんてアニーさんみたいにみんなから〝役立たずのダメダメな令嬢〟だって笑われればいいのよ!
ねぇ、なんでアニーさんはよくてあのブスはダメなの?ディルクの婚約者じゃないから?あんなブスいなくなったって誰も困らないわ!そうでしょう?」
「そうだ!アニーさんみたいに公開処刑にすればいいのよ!ディルクもそこまでやればアニーさんも反省して泣いて謝るだろうって言ったじゃない!!
王都の噴水がある大きな広場で磔にされれば恥ずかしくなってすぐ泣いて謝るはずよ!
みんなから〝アニーさん並になーにも役に立たない、パルティー王太子妃様よりもレベルが低~いブス女だぁ!ぷぷ~!〟って嗤われれば、きっとこのショーモナイブスもアタシがどれだけディルクに愛されてて、高貴で、美し~い王太子妃かわかるはずだわ!
ねっそうでしょ、ディルク!」
名案だと嬉々として叫ぶ男爵令嬢に側近の一人が吐きそうな顔で口を手で覆いました。あ、吐いたわね。
国王や他の学生達も信じられないという顔で軽蔑した目を王子達に向けました。
皆さん自分のことは棚上げされてますが誰もがまさかと驚いたでしょう。
自分達は軽く扱っても婚約者の王子はちゃんとアルモニカにケアをしていたとか、ちょっとした犬も食わない喧嘩だとか、誰も王子が悪ふざけを本気でしていると考えなかったのでしょうね。
王子や国王も誰かがなんとかしてくれるだろうと思っている節がありましたが。
自分達がアルモニカを軽視する切っ掛けと継続させた原因が王子だというのに都合のいい記憶ですこと。
どうやら加担しても貶めても罪には問われず、アルモニカは傷つかず、王子との婚約も問題なく勝手に続いていくものだと思い込んでいたようでした。
それを皮肉にも男爵令嬢がアルモニカへの扱いを暴露したことで国王はこれは不味いのではないか?と宰相らと冷や汗を流しながら顔を見合わせました。
政治的な意図も何もないのに国に長年仕えてくれた公爵家を男爵令嬢の癇癪ひとつで潰すことは絶対にありえません。
たとえショモナイナー公爵令嬢の方に瑕疵があったとしても浅く軽い男爵令嬢の言葉など聞く価値もありません。それが公爵家だからです。
逆に男爵令嬢が無礼者と即刻捕らえられるほどの侮辱を重ねていました。
だというのになんで誰も動かないのかしらねぇ。これではショモナイナー公爵令嬢を軽視していると示しているようなものでしょうに。
衆人環視の中わざと辱めようとする行為も侮辱罪に問われるのですが男爵令嬢は言葉の意味を理解していないようでした。
公開処刑は文字通り人を死に至らしめるもの。
男爵令嬢は磔にするだけで命を奪うまでは考えていないようですが(断言はできませんが)、王子達は人前でアルモニカの名誉を傷つけることも処刑は死に至らしめるものということも理解していた上で発言したはずです。
それを察した者達が嫌悪を露に顔を青くしました。
破天荒に過ごし男爵令嬢を堂々と侍らせていた王子に引き換え、学園でのアルモニカは地味で大人しく何をされても言い返さない所謂暗い令嬢だと見られていました。
王子の好みとは真逆なので煙たがれるのは仕方ないにしても不貞を見せつけたり、何度も人前で辱める王子よりは害のない者と認識されていました。
そこへ処刑などと冗談でも使ってはいけない言葉を卒業パーティーで発したのです。
男爵令嬢らと楽しげに計画していたのかと想像し、反吐が出ると口にはしないまでも顔に出す学生達から王子らは距離を取られました。
しかし王子が男爵令嬢に傾倒してから今日まで、王家の権力を使って彼女の願いをなんでも叶えてきました。
欲しいものは奪ってでもすべて与えられ、気に入らないといえば相手を権力で捩じ伏せ排除も厭わなかった。
王子の権力を使えばすべて思い通りになるし、他国の侯爵家など自国への影響もないからまったく怖くない(と思っている)。
本気で排除しようと思えば公爵家だって貶めることができる。
しかもそれを瑕疵もなく、政治もなく、王子の逆鱗に触れたわけでもなく、男爵令嬢一人が気に入らないというだけで国の柱のひとつである公爵家を安易に潰そうと口にしたのです。
誰もが独裁だと畏怖した顔つきになり、冗談ではすまされないぞと王子達に怒りを抱きました。
「………わかりました。ディルク殿下はショモナイナー公爵家と内戦がお望みなのね?」
バキッと持っていた扇子を折ったショモナイナー公爵令嬢に王子は悲鳴混じりに叫びました。
「ま、待ってくれ!!ミルキーヌ嬢!これには深い訳が!パルティーも本気じゃないんだ!これは、怪我のせいで」
「何言ってるのディルク。このショーモナイブスは怪我をして痛ましくか弱い姿のアタシにごめんなさいも慰めもしないで攻撃してきたのよ?
この人誰に楯突いたのかわかってないのよ!ディルク、このブスに次期王様の力を見せつけてやって!」
「煩い!!おいっランドル!リュシエルもちゃんと黙らせろ!!」
青筋を浮かべるショモナイナー公爵令嬢に気を取られていた王子は動揺して男爵令嬢を叱りつけました。勿論男爵令嬢は号泣。
「アニーさんの時はアタシを守ってくれたのに!ディルクはアタシを愛してないの?!」
と叫んで周りを困らせました。
やっと国王も王子達がわたくしにどんなに無礼なことをしてきたのか見えてきたかしら。あなた方はとんでもない爆弾を抱え愚かにも守っていたのよ。
ショモナイナー公爵令嬢が侮辱されるまで気づかないなんてお笑い草でしかありませんが、何もわからないままよりは良いでしょう。
身につまされないとわからない場合もあるでしょうし。
狂気の沙汰にしか見えない男爵令嬢に広場に居る者達はさざ波のように囁き始めました。
王子が告げた冤罪の罪状は本気で、婚約者を、他国の者を、侯爵令嬢を亡き者にするつもりだ。
それを決行するというなら公爵家も危ういぞ。
いや自分達だってどうなるかわからない。
気に食わなければ公爵家ですら侮辱しても許されるのか?
なぜ王子は止めない?本気でショモナイナー公爵家とことを構える気か?
男爵令嬢の機嫌をとらないと我が家も潰されるのか?
そこまで嫌だったのなら婚約を内々に破棄できたはず。王子は何がしたいのだ。
なぜ国王も王子の凶行を諌めもせず放置した?政略結婚ではないのか?
これで破棄なり処刑なりしてみろ。間違いなくエクティド王国から反感を買うぞ。
他国からの不興を買うなどなんの利もないではないか。なぜここまでアルモニカを貶めた?
正直王子には悪意しか感じない。
婚約者に対して冗談でも処刑などと言っていいはずがない。
無知な他国の令嬢に自分の権威を知らしめるにしてもあの男爵令嬢を引き合いに出すのはおざなり過ぎないか?
無知というのもただの噂では?最終成績は断然トップだったと聞いたぞ。
側近の婚約者達が虐げられた姿は見たことがなかったが彼女達があそこまで傷ついているのならアルモニカはもっと傷ついているのでは?
不貞を見せつけられた上に処刑だなんていくらなんでも酷すぎる。
この国は法治国家ではなかったのか?
国王はなぜこの非道を止めなかったのだ?どう考えても王子や男爵令嬢の方が間違っているじゃないか。
そんな声が密かに、けれども王子や国王に届くようにヴァンが魔法をかけすべての声を聞かせました。
動揺してキョロキョロとしていますが誰も目を合わせないので誰の言葉かわからないのでしょう。
国王も後でうまく言い訳をしなくては、という顔で丞相と目配せをしていました。
目の前の光景を異様だと思った方々は青白い顔でアルモニカを見てそしてバツが悪い顔で背けました。
王子に加担してきた行動が間違いだったとわかったのでしょう。中には男爵令嬢のように低い爵位で喧しく噂していた者もいますしね。
そのご令嬢は粗相をされてその場で泣いていますが、わたくしショモナイナー公爵令嬢のように過激な手段は用いませんわよ?
そのような権限はすべて国王に取り上げられていますから。
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