卒業パーティーでの断罪 その2
祝いの席に似つかわしくない空気をいち早く察知した国王は王子に詳細を聞きましたがしどろもどろにしか話せず埒が明きませんでした。
それもそのはずで、王子は後宮の件やその後の件で国王からこっぴどく叱られており学園を休学させられていました。まぁ男爵令嬢とはその間も会っていたようですが。
テストは受けなかったのか合格出来なかったのか全員留年が決定していて本来なら卒業パーティーに参加できない方々でした。
そして王子はこの後、ほとぼりが冷めるまで他国への留学が決まっています。
その間に男爵令嬢を身分が釣り合う者と結婚させ王子の目を覚まさせる予定だったそうです。
それを知った男爵令嬢が王子に泣きつき、王子も余計なヒーロー心を出して卒業パーティーでの婚約破棄と男爵令嬢との婚約を一度に終わらせようと強行したのです。
王子の代わりにパーティーでの成り行きを説明したショモナイナー様の言葉を聞いた国王は頭を押さえ「なんと愚かな…」とご自分の息子を睨みました。
実はアルモニカが休学中に男爵令嬢は修道院に入るよう国王から直々に命令されていましたが、自主退学書類を王子が破棄し、修道院行きではない馬車をセボンヤード公爵令息が準備し、御者役をルシェルシュ伯爵令息が力ずくで奪い取り、一時避難所としてセボンヤード公爵令息が別邸を解放し男爵令嬢を囲って修道院行きを抗議したそうです。
その件は王子達の必死な嘆願でなかったことになりましたが、勿論無罪放免ではなく逆に大人達はことを重く見て内々に王子達への罰と男爵令嬢の処分が下るよう慎重に進めていたようです。
ですが何処からか情報が漏れてこうなったのでした。
「王妃は言ったはずだ。『その男爵令嬢を公妾にしろと』と。それは正妃でもなければ結婚も許さぬということだ。儂もそう決めておる。
アルモニカ嬢と婚約を破棄したところでお前達の結婚は認めぬと再三申したはずだ」
「ならなぜパルティーをどこぞとも知れぬ者と結婚させるのですか?!公妾でもないじゃないですか!」
「お前がその男爵令嬢にかまけて何が正しいのか精査せずこんな愚かなことをするとわかっていたからだ。馬鹿者が」
わかっていた、という言葉に王子達は悔しい顔をしました。国王が決めた修道院行きを止めさせられたから今回も大丈夫とでも思ったのでしょう。
「お前には以前、五十人も妻を娶らなければそこの男爵令嬢が手に入れられないと伝えたがその理由をちゃんと考えたのか?」
「それは、僕が次期国王だから……僕が魅力的だからそれだけ妻を抱えてもいいのかなと」
「バカを申すな!!!五十人の妻がいてやっと公妾にしかできない程度の娘ということだ!やはりそのことにも気づかなかったのか、愚か者が。
爵位も低い、教養もない、公用語すら危うい、貴族としての機微も空気も読めない平民以下の男爵令嬢に何が出来る?!
やったことと言えば儂の交渉の邪魔をし、婚約者達が嘆き悲しむほどそこの側近共と不貞な関係を結び、ジルドレド元伯爵に操られてることにも気づかぬまま我々高位貴族を貶めたくらいではないか!」
「ヒィ!!」
「そんな愚かな娘を王族に加えれば諸外国から笑い者にされ、このオパルール王国は数年も持たずに滅んでしまうわ!!」
国王の怒号に王子は文字通り飛び上がり悲鳴を上げました。
そういえばジルドレド伯爵はデヴァイス帝国から戻って来ましたが逃亡した罪で罪状が増え、身分剥奪後平民として強制労働を課せられたと聞きます。いえ、処刑だったかしら。
「え、ディルクどういうこと?五十人って?」
「パルティー、その、な」
しかし男爵令嬢はお世話になっていたはずのジルドレド伯爵よりもハーレムの方が気になるようです。王子が先に教えていたのかしら?
もしかしてジルドレド『元』伯爵の部分は聞こえなかったのかしら?それともジルドレド伯爵などもうどうでもいいということ?だとしたらなんとも薄情な話ね。
わたくしと似たような呆れた顔でショモナイナー公爵令嬢が男爵令嬢に答えました。
「あなたをディルク殿下の妾として召し上げるには五十人もの妻を娶る必要があったのよ」
「は?!嘘でしょ?アニーさんだけ婚約破棄すれば良かったんじゃないの?ていうか妾って何?王太子妃じゃないの?!」
驚く男爵令嬢に王子は顔を背けました。何も言ってなかったのね。呆れて溜め息を吐けばショモナイナー様も溜め息を吐いていました。
こちらは公爵令嬢に対しての態度に呆れているのかもしれませんが。
「そもそもとして何で男爵令嬢のあなたが王家と結婚できるだなんて思うのよ。普通は恐れ多くて辞退するはずよ」
「で、でもディルクがアニーさんよりもアタシの方が好きだから、結婚しようって言ったから……」
アタシの方が優秀で可愛くて何でも叶えたくなるほど愛らしいから自分の方が王太子妃に望まれてると思ったそうです。国王の話は聞いてなかったのかしら。
あらやだ待って。男爵令嬢はあの方がまだ王太子になれていないことを知らないの?
一人息子だから有耶無耶にされてきたけど王太子になるには学園の卒業とアルモニカとの結婚、そして国王と王妃の承認が必要なのです。
恐らく王子も忘れているから婚約破棄などと騒いでいるのでしょうが、普通なら国王が決めた婚約者以外と結婚しようとしている時点で王太子どころか王位継承権を剥奪されてもおかしくありません。
まあ、わたくしを王子と結婚させればハーレムの何番目でも問題ないと考えていた国王も同罪ですけれど。
一夫一妻のエクティド王国が知ればどんなことになるか少しは想像すればよろしいのに。
「それにあなた、高位貴族のマナーどころか男爵令嬢としてのマナーもおざなりじゃない。そんな者が王国の顔だなんて冗談じゃないわ。
あなたよりも教養があり爵位も上のわたくし達が男爵令嬢ごときに跪くなんて思ってるの?絶対にありえないわ」
鼻で嗤うショモナイナー公爵令嬢に周りの貴族も嘲笑いました。
その光景は今までアルモニカに向けられていたものでした。それがすべて男爵令嬢に向かうということでしょう。
わたくしが来た時点でオパルール王国は忠誠心が低く、賄賂や横領が密かに続いていて爵位よりもその場にいる権力者に発言権がありました。
ですので部外者で無知な侯爵令嬢には、王命による王子の婚約者なんて紙よりも軽い権威しかありませんでした。
ショモナイナー公爵令嬢の断言に顔色を悪くしたのは王子でした。
今まで男爵令嬢を持ち上げても親しくしていても誰も何も言わなかったのにいきなり梯子を外された気分にでもなったのでしょう。
こんな高圧的な態度で男爵令嬢に接するところなど見たことがなかったでしょうし、男爵令嬢はみんなに愛されてるから爵位など関係ない、むしろ取られないように厳重に囲わなくてはと王子達は思い込んでいたのでしょうね。
ですが実際は王子達が本気で男爵令嬢をものにしようとしてるなんてありえないと部外者は思っていましたし、過剰な持ち上げで鼻についても後でどんな仕返しが待っているかを恐れ誰もが放置していました。
異性に媚び、爵位をなんとも思っていない男爵令嬢に皆表立って言わなかっただけでアルモニカよりもずっと評価が低かったのです。
ショモナイナー公爵令嬢が本音で話したことで周り方々も隠す必要はないと、軽率ではありますが一斉に手の平を返しました。
学園では身分に囚われない平等精神が謳われていますがそんなものは名ばかりで学生達のピラミッドは最初から完成していました。
その上、他国の侯爵令嬢を貶めて良いと王子自ら体現したことで悪い意味で上下関係が壊れたのです。
そんな状況下で男爵令嬢を持ち上げ、王子妃に添えると決まれば今よりももっと強い反発が起きるでしょう。
本当なら王子の宣言も重視されるはずですが、相手が男爵程度の爵位しかなく国王とショモナイナー公爵令嬢が否と判断したとなれば、王子の意見など通らないし聞く必要もないと皆に判断された瞬間でした。
爵位は貴族にとってとても重要な財産です。それを壊せばいずれ自分にも被害が及ぶと考えるのは至極当然のこと。
蔑ろにし続けたのは王子自身なのです。
約束を守らない方についていく者など皆無、法を無視して意見が通されるなら誰も約束など守らないでしょう。そんな王子を国王に推す者もいません。
今までにない程の疎外感や軽蔑された冷たい視線に王子や側近達は恐怖で後ずさりました。
「あなたが王子妃になれることは朝日が西から昇っても絶対にありえませんが、もし仮に間違ってなれたとしても平穏無事にいれる日はないと思いなさい。
ミクロフォーヌ様以上に陰口を叩かれ全貴族からそっぽを向かれること請け合いよ。
わたくし達はあなたに王子妃になる資格などないと思っているし、絶対に認めないわ」
「な、なによ!自分の方がちょっと高そうなネックレスをつけてるから何を言ってもいいと思ってるわけ?!そんなの間違ってるわ!
アタシは王太子妃になるのよ?!アタシの方が偉いに決まってるじゃない!!アタシが命令すればあんたなんてすぐ牢屋に入れられちゃうんだから!」
公爵家が、臣下が認めないって言ってるのになんとも強気ね。ちゃんと考えてから言葉にしてるのかしら?
読んでいただきありがとうございます。




