ハリボテの王子様 その9
王子側の話続いてます。お花畑とご都合胸くそも続行中。
時間軸はアルモニカ休学中です。
(9/8)内容に変更が生じましたので24、25話を一部加筆修正しました。
その後、何度かあの薄気味悪い黒髪の男を呼ぼうとするパルティーを止めたり、結婚式の話をしたりしていたがその楽しい時間は一時間もせずに突如終わりを告げた。
突然豪快にドアを開け放ったルシェルシュ伯爵…騎士団団長が現れるとまっすぐエドガードの下へと歩み思いきり殴り飛ばしたのだ。
いろんなものが落ち、床に叩きつけられ壊れ、壁にのめり込むほど吹き飛ばされたエドガードにパルティーは悲鳴を上げた。
床にドサリと落ちたエドガードは腫れ上がった頬と鼻血、欠けた歯を見せながら白目を剥いて気絶していた。
あまりに大きな音とエドガードの酷い姿にリュシエルは真っ青な顔で粗相をした。
ディルクも体の骨が粉砕骨折したか首が折れて死んでしまったのかと思ったほどだ。
だって目の前でエドガードが消えるように飛んで行ってしまったんだ。これを恐れないわけがない。
僕の周りで一番体が大きいエドガードがあんな虫みたいに簡単に吹き飛ぶなんてあり得ない。皆一様に青白い顔で騎士団団長を呆然と眺めていると彼はエドガードの襟首を掴みそのまま物のように引き摺った。
「ディルク殿下、御前を汚してしまい申し訳ありません。賊が侵入しましたので捕縛しに参りました」
「え、いや、構わない……だが、賊、とは」
お前が手にしているのは己の息子では?と紡ごうとしたが震えてうまく言葉が出ない。団長の殺気だった空気と凍てつく目に吸い込む酸素が凍ってしまったように思えた。
「こやつのことです。この愚か者はある重要人物を逃がす手助けをしました。下賎な賊と見て間違いないでしょう」
「いや、だが、エドガードは……」
「申し訳ありません。任務の途中ですのでこれにて失礼いたします。この賊を牢に入れなくてはなりませんので。……ああそれとコラール男爵令嬢に迎えが来ている。帰り支度をするように」
そう言って騎士団団長はさっさと部屋を出て行ってしまった。
呆然とドアを見ていたがパルティーが短く悲鳴を上げたので急いで振り返った。残っていた女性騎士がパルティーを拘束したのだ。
「や、やめろ!パルティーが怖がっているだろう?!」
離せ!と命令すればずいっと老齢の女性が進み出てきた。その女性にディルク達どころかパルティーもぎょっとした。
彼女は幼少期マナー講師としてお世話になった家庭教師だった。そして教え方が厳しくて有名な人でもあったためパルティーがリタイアした先生でもあった。
「レゼクトゥール夫人……」
本来男爵令嬢が習う必要がない上位貴族のマナーを教えている夫人だったが、教養はあって損はないと縁戚であるコラール男爵夫人の要請でパルティー姉妹にも淑女のノウハウが授けられた。
そんな因縁ある元家庭教師に睨まれたパルティーはビクッと肩を揺らすとディルク達の後ろに隠れようとしたが、女性騎士達に阻まれ隠れられなかった。
「お言葉ではございますがディルク殿下、このパルティー・コラール嬢はご両親から殿下や側近の方々に学園以外で会うこと、淑女として必要以上に異性と仲良くすることを固く禁じられております。その約束を破ったため強制送還されるのは至極当然のことかと」
「そう、なのか?パルティー?」
どういうことだ?と彼女に目を向けるとパルティーは庇護欲そそる顔でポロポロと涙を可憐に零し助けてと訴えていた。
それはとても可愛かったが否定がないことに夫人の言葉が本当だと信じざる得なかった。
「ディルク殿下、他の方々もですがパルティーさんが男爵令嬢だと知っておりますね?彼女は殿方に愛されやすい方ですがその分色々とおざなりにしているところがあります。
このままですとパルティーさんはあなた方と釣り合わない立場どころか、会うことも叶わない身分になってしまいます」
「「え?!」」
ようはパルティーは成績不振で留年の可能性があり最悪自主退学になるかもしれない。
そうなれば学歴が覚束ない落第者と蔑まれ、社交界に出れば笑い者にされ、王子妃など夢のまた夢となる。
遊びなら構わないが、少しでも真面目なお付き合いを考えているならパルティーの現状をちゃんと把握するべきだ、と夫人に諭されランドルとリュシエルが驚いた。
度々パルティーのために勉強会を開いていたが大抵はただのお茶会になり勉強などそっちのけになっていた。
むしろエドガードの方が逼迫していてパルティーが彼に(適当に)教えていた。なのでリュシエル達はパルティーの成績を問題視しなかった。
そうなのか?と彼女を見ると言葉の裏を読み取れなかったパルティーは目を白黒させたがバカにされたのだと曲解して泣きながら怒りだした。
「な、なんでそんなことをディルク達の前で言うの?!アタシは王太子妃になるのよ?!そんな嘘を言ってディルクが信じちゃったらどう責任を取ってくれるのよ!!」
「……わたくしが教えたことすべて忘れてしまったようですね。これは基礎の基礎からやり直すしかありませんわ」
「ヒィっい、嫌よ!ディルク助けて!!この先生はアタシのことを虐待してたから仕事をクビになったの!今度こそ殺されるわ!」
パルティーの言葉にぎょっとした。レゼクトゥール夫人はマナー講師としてとても優秀な方で自分達もお世話になった方だ。なのにそんな方をクビにしただと?
むしろ夫人に指導してもらいたくて予約待ちをしている者も多いと聞くのに殺される??
ディルク達はパルティーの言葉が理解できなくて困惑した。
「男爵令嬢の次女だからとわたくしも甘く見てしまったのですね。反省しますわ。
ヒンディーさんはとても真面目でどこに出しても恥ずかしくない立派な淑女になりましたからここまで差があるとは思っておりませんでした」
「ヒンディーお姉様は関係ないでしょう?!それに子爵程度としか結婚できなかったお姉様と比べてアタシは王太子妃になるのよ!!アタシの方がずっとずっと凄いじゃない!!」
「ディルク殿下はいずれ王太子、国王になられますが今はまだ王子の身。言葉遣いもそうですがそういった細かいところを配慮できない者がディルク殿下に相応しいとは思いませんが……」
チラリとディルクを見てきた夫人の瞳の冷たさにビクッと肩を揺らした。両親とはまた違った怖さに自分はとても悪いことをしてる気分になった。
まるでパルティーと付き合うのはいけないことだと叱られてるみたいだ。
黙り込むディルクにパルティーは真っ青になった。ディルクでは自分を助けてくれないとわかったからだ。
だからランドルやリュシエルに懇願して助けてもらおうとしたが彼らもディルクと同じでレゼクトゥール夫人に言い返さない。
むしろ言い返せないように躾られたみたいに顔を背けられた。
絶望したパルティーが後ずさろうと足をバタつかせたが女性騎士に掴まれていてそれができない。
「え、嘘。まさか、嘘でしょう??」
「ええ、ええ。想像通りですわよ。パルティーさん。わたくしはあなたの家庭教師を言付かりましたの。コラール男爵も育て方を間違ったとやっとお認めになりましたわ。
殿下がお許しになられたとはいえ、未婚の令嬢が高位貴族の令息方に囲まれてお茶をするなど破廉恥極まりないマナー違反です。
そのドレスも本日の用向きには礼儀が欠けていますし、殿方にお会いするにも少々品がありませんわ。
それから所作、言葉遣い、声の大きさ、正しい発音、殿下や令息への態度、すべてを学び直す必要があります」
「それ全部じゃない!!いや、嫌よ!アタシは王太子妃になる」
「ええ、そのためにわたくしがもう一度教育し直しますわ。殿下も楽しみでしょう?」
「は、はい。そうですね」
「ディルク?!だ、騙されないで!このおばさんは悪魔よ!子供を苛めるのが好きな悪魔なの!助けて!!アタシ殺されるわ!」
「あら、王妃におなりになるには高位貴族用の教養は必須ですわよ。わたくしのマナーごときで殺されるなら王妃様なんて夢のまた夢ですわね」
目が笑っていない夫人が笑ったが切羽詰まっているパルティーが気づくことはなく、ディルク達が代わりに震え上がった。
「べ、別にそんなこと習わなくてもアタシはすっごい王太子妃様になれるわ!!王妃様よりももっと素敵で優しい人になれるのよ!!」
だから勉強なんていらない!と叫ぶパルティーにレゼクトゥール夫人は少しばかり眉を寄せた。
「よくもまあ王妃様に向かって〝お義母様〟などと不敬な言葉が言えたものね。あなた、ご自分の立場をわかってらっしゃるの?」
「アタシはディルクに見初められた最愛の人よ!愛の前に親なんて関係ないわ!お義母様と呼んであげてるのはディルクのお母様だからよ!
でも、ディルクと一緒でとっても美人で優しい人かと思って会えるの楽しみにしてたのにガッカリしたわ!ほら見て!ここの頬!お義母様に殴られたのよ!!」
すんごく痛かったんだから!!と見せつける頬はほんのり赤いくらいで痕はよくわからない。むしろパルティーが興奮してるから顔が赤く見えるくらいだ。
「王妃様は国の母なんだから誰にでも優しくするものじゃないの?!アタシだってこの国の子供なんだからお義母様の娘ってことでしょう?
だったらアタシを溺愛して可愛がるべきよ!!それなのに思いきりぶつなんて!!絶対許さないんだから!!」
何をもって男爵令嬢が王妃に対して許さないというのか。
自分理論を叫ぶパルティーにディルク達は困惑顔でまた首を傾げた。
読んでいただきありがとうございます。




