ハリボテの王子様 その8
王子側の話続いてます。お花畑とご都合胸くそも続行中。
時間軸はアルモニカ休学中です。
起きて着替えてパルティー達が待つ別室に向かうとパルティーが楽しげにお茶をしていた。
出て行く前は一緒に行きたい、僕と離れるのは寂しいと涙目で訴えられ後ろ髪引かれる想いで泣く泣くランドル達に任せたが元気な姿にホッとした。
自分に向けられない笑顔に多少ムッとしたが席に座ってみると機嫌がいいのはパルティーだけでランドル達は目を泳がせたり引きつった笑みを浮かべていることに気がついた。
「ディルク聞いて聞いて!アタシ達とってもいいことをしたんだよ!!」
嬉々として話すパルティーに驚愕した。なんとパルティーはディルクが寝ている間にランドル達とこっそりジルドレド伯爵に会いに行ったというのだ。
しかも会いに行っただけでなく逃がしてしまったらしい。
凄いでしょ!と胸を張るパルティーにディルクは開いた口が塞がらなかった。確かに辺境伯領と引き換えにジルドレド伯爵は戻ってくるがまだ手続きは終わってなかったはず。
というか王妃的にはジルドレド伯爵はいらないから辺境伯領を返してほしいというスタンスだ。今逃げ出したらオパルール王国やデヴァイス帝国、どちらからも顰蹙を買うんじゃないか?
「なん、なんでそんなことを?!」
「え?だってオパルールに帰ってきたらジルドレドおじ様は裁判にかけられて酷い目に遭わされるんでしょ?死刑なんて可哀想だわ!だからそうなる前に逃がしてあげたの」
「か、可哀想…?」
そう、なのか……?
「そうよ!ジルドレドおじ様はソリッド商会が国外に逃げたからオパルール王国にいれなくなったって聞いたわ。
ねぇディルクなんとかならない?ソリッド商会が戻ってくればおじ様は助かるはずだわ。だってその商会がおじ様が扱ってた商品を偽物に変えたんでしょう?
罰を受けるべきなのはそのソリッド商会だわ!!」
ちょっと待て!ジルドレド伯爵は何をパルティーに吹き込んだんだ?!余計なことを喋るな阿呆め!
というか、ソリッド商会は僕も世話になった商会だぞ。パルティーだって相当世話になってるんじゃないのか?と聞いたらうちはジルドレドおじ様のものしか使ってないわ!と豪語されみんなで顔を見合わせた。
パルティーにはいいものを与えていたのだろうか?
……残念ながらそんなことはなく、目利きができるコラール男爵が似たようなものをソリッド商会から買い付け、品がいいことを見抜き常連となった。
そんな商会ならパルティーも幸せになれるだろうと男爵はいそいそと婚約を結んだがそのパルティーによって壊された。
パルティーにも説明はされたがジルドレド伯爵と一番仲が良く利用されていたので家の似た商品がソリッド商会のものということをちゃんと理解していなかった。
またソリッド商会が貴族の商会ではないということは認識していて、婚約者だったトラッドの商会ということを覚えないままお別れしている。
ディルク達が心移りされたくなくて話していないために国外にも強い商会ということを知らない。
そもそもとして粗悪品を売り捌いたのはソリッド商会ではなくジルドレド伯爵の商会だ。
それなのにソリッド商会になすり付けるなんて!戻ってきてくれるならジルドレド伯爵よりもソリッド商会に戻ってきてほしいくらいだ!
伯爵への訴訟は上から下、身内や友人関係にまで被害が及んでいる。コラール男爵だって家格が上だったから何も言えなかったと苦言を零していたくらいだ。
だが王子である僕や側近達、果てはパルティーが粗悪品販売を加担していたことは誰も知らない。それがバレれば僕達の名前に傷がついてしまう。
ジルドレド伯爵に死刑以外の選択などあるわけないじゃないか!
あいつがまともな商売をしていれば、デヴァイス帝国に亡命しなければ、僕だってアルモニカを使って交換取引をしなかったのだ!
辺境伯領も占領されず両親から怒られ王子教育をいちからやり直しさせられることもなかった!
全部全部、ジルドレド伯爵が悪い!!
パルティーには悪いが王子を犯罪に加担させた挙げ句あれだけ罪を犯し王妃の怒りまで買ったのだ。ジルドレド伯爵のことは諦めてもらおう。
そう言おうとしたところでその前の言葉を思い出した。
あれ?パルティーはジルドレド伯爵を逃がしてあげたと言ってなかったか??
「ど、どうにかしてくれ、ということはジルドレド伯爵をこの部屋に囲っているのか?」
「いいえ!ここにいたらすぐ見つかってしまうから邸の外に逃がしたわ。今はもう庭を越えて門の外に出れたんじゃないかしら!
それでね、なんとかしてほしいのはジルドレドおじ様の冤罪の方よ!ディルクだっておじ様にお世話になったでしょう?」
世話というより迷惑だがな。
「パルティー…。ジルドレド伯爵は冤罪ではなく本当に罪を犯したんだ。被害者だって多い。それに僕達も巻き込まれてて」
「え?でもジルドレドおじ様が支払わなかった慰謝料は支払わなくても良くなったんでしょう?どこが問題なの?」
可愛く小首を傾げるパルティーにディルクはちゃんと教えるべきか迷った。きっと誰もちゃんと説明していないからパルティーはそんな訳のわからないことを言うのだと考えた。
まさか男爵家族がジルドレド伯爵に騙されていたことも逆らえなかったこともパルティーがいいように利用されていたことも、慰謝料はコラール家が支払わなくてはならないということも全部事細かに説明してるのにまったく理解していないとは誰も思っていない。
かくれんぼみたいよね、とウキウキで話すパルティーにディルクは困惑顔でランドル達を伺った。
なんで何も説明しなかったんだ?と目で訴えれば彼らは困った顔で肩を竦めた。
「最初はちょっと話すだけって言ってたんだ。けど牢屋の前に見張りが居ないと知ったら『今なら逃がせるわ』ってパルティーが張り切っちゃって……見張りは俺が金を渡して少しの間席を外させただけだったんだけど」
「そんなことをしなくても伯爵は一応解放されるはずだったんだぞ?」
「そうなんですが……その前はパルティーがディルク殿下の下に行くって聞かなくて。行けばあの帝国の風変わりな男に会えるからお茶に誘わなくちゃって言っていましたし。
そうでなくともあれだけ王妃様を怒らせたのにそっちに行かせるわけにはいかないだろうってことになって……」
は?待て待て。風変わりな男ってあの薄気味悪い黒髪の男のことか?!そんなの却下に決まっている!
パルティーは僕と離れがたくてついていこうとしていたのだろう?あんな薄気味悪い黒髪の男になど興味ないはずだ!
「だぁ~ってこのお邸ってば、全体的に古臭くてセンスがないんだもの。お庭も見るものがなくてつまらなかったわ。
だから市場か仕立て屋に行きたいって言ったんだけどエドガードのお義父様がダメって言うし。そしたらもうやることなんてないじゃない?
でも、あのイケメンならきっといいお店を知ってると思うの!お茶の淹れ方もなんか格好よかったし!アタシとデートしたいって目で見てたのよあの人!うふふっうふふ!
ねぇねぇディルク~っあのイケメンを呼んでお茶しましょうよ~!絶対楽しいはずよ!」
「いや、だがパルティー。奴は帝国の人間で、今日ここに来たのは」
ジルドレド伯爵の身柄を受け取ることと辺境伯領を買い取れるかどうかの話し合いであって、遊びに来たわけではないのだが。
そこで認識の違いがあったがパルティーにとって辺境伯領の占領は何一つ知らないし、剣呑とした空気があっても自分に関わりないことだから勘繰りもしなかった。
それよりもあのヴァンとお近づきになるにはどうしたらいいか考え、もうどうでもよくなったジルドレド伯爵がいなくなればどうでもいい話し合いも早く終わって、晴れてヴァンとお茶ができるんじゃない?とさえ思っていた。
そんなパルティーの思考も理解せず勝手な思い込みで連れてきたのはディルクだ。
ディルクはディルクで王子妃としてパルティーが自覚を持って自分に配慮してくれるものだとこれまた勝手な思い込みをしていた。
だがさっきからパルティーの言葉の意図が読めず困惑するばかりだ。
自分にベタ惚れで聡明で優しいパルティー像に違和感を感じたディルクは動揺を露に奔放なパルティーを見た。
もしかしてパルティーはジルドレド伯爵も辺境伯領もどうでもよくてただ遊びに来ただけなのではないのか?と正解を導き出していた。
「ジルドレドおじ様を迎えに来たんでしょう?まったく、おじ様もおじ様よね!いくらアニーさんに言われたからって慰謝料を支払わずに出て行くなんて!
あの慰謝料はアニーさんかおじ様が支払わなきゃならなかったのに!ディルクのお陰で帳消しにしてもらえたことを教えてあげたら泣いて喜んでいたわ!」
きっとこれからは毎晩ディルクに感謝してから眠るはずよ!とウインクするパルティーにポッと頬が染まった。なんだ。わかってるじゃないか。
「でもお義父様達はまだジルドレドおじ様を罰しようとしてるんでしょう?アタシのために怒ってくれるのは嬉しいけど死刑はやっぱりやりすぎだと思うの!」
正しい情報がないパルティーの脳内ではジルドレドに向けられた怒りはすべてパルティーを不憫に想ってのことであり、すべてパルティーのために、パルティーを愛するが故に死刑宣告という過剰な罰を与えようとしているのだと思い込んでいた。
「ディルクも死刑なんてやり過ぎだって思うでしょう?ディルクのお嫁さんになるアタシが望んでないって言えばお義父様達もきっと許してくれるよね?」
「??パルティー。ジルドレド伯爵を逃がしたら許すも許さないもないと思うが」
「そんなことないわ!だって逃がさなかったらおじ様は死刑でしょう?逃げちゃえば死刑にできないじゃない!」
それはまあ、そうだな??
「それでお義父様達が諦めたところで白旗を振って『反省してます!許してください!!』て出てくれば『そんなに死刑が嫌なら許してやろう』って許してくれると思うの!
というか、逆に逃げきれる腕を買われて侯爵になれるかもしれないわ!!」
「「「???」」」
そうなればアニーさんも偉そうに言わなくなるわね!と物真似しながら喜ぶパルティーにディルク達は半分も理解できず首を傾げた。
多分ジルドレド伯爵が見つかったら余計な手間をかけさせた罪もふっかけられて拷問を受ける可能性の方が高い気がする。
爵位だって上がるどころか剥奪されると思うんだが…と三人は目で会話したが上機嫌のパルティーとエドガードが話してるのを見て慌ててパルティーに同意した。
なにせエドガードは、
「父上の書斎でこっそり警備の配置とどこに監禁されてるかわかっていたのでそれなら逃走ルートも容易に見つけられるだろうってみんなで協力して逃がしたんです」
無表情ながら自信満々に言ってのけた恐れ知らずだ。騎士団団長のルシェルシュ伯爵はオパルール王国で一番強く、一番屈強で恐ろしい人物だ。
堅物で融通がきかないことでも有名だからそんなことがバレたらエドガードはただではすまない。もしかしたら僕達もとんでもない目に遇うかもしれない。
それでもパルティーのために一肌脱いだ男だ。決して真似したくないがエドガードがある意味凄い奴なのはわかる。
「ディルクも褒めてあげて!」
とパルティーが満面の笑みで言ってきたがディルクは引きつった笑みでエドガード達を褒めた。
お前達、わかってるのか?ジルドレド伯爵が捕まれば僕達が加担していたことがバレてしまうんだぞ?!
「だ、大丈夫ですよ殿下。危険を冒してジルドレド伯爵を救ったのですからきっと私達に感謝するでしょう。恩を売っておけば余計なことは言わずに隠し通してくれると思います」
こっそり耳打ちされた言葉にリュシエルを見るとランドルも頷き大丈夫だと太鼓判を押した。
先程の目録のことでディルクの信頼を失っていたが命の恩人なら薄情なジルドレド伯爵も僕達のことを隠してくれるだろうか。
可愛いパルティーのためにも黙ってくれると信じるしかない。
パルティーは王妃になるのだし、僕は王子…いや国王になるのだから不興を買えばどうなるかさすがにわかるだろう。
「おじ様今どの辺にいるかしら?」
天真爛漫に微笑むパルティーに僕達は一抹の不安はあったものの彼女の笑みに癒されクエッセル元侯爵家でお茶を楽しむことにした。
読んでいただきありがとうございます。




