ハリボテの王子様 その7
王子側の話続いてます。お花畑とご都合胸くそも続行中。
時間軸はアルモニカ休学中です。
ちょっと短いです。
「……その話をする前にご子息を休ませてはいかがでしょうか。このままですと目も当てられない姿を晒すことになりかねません」
子息、と蔑みが混じった言葉をヴァンが吐いたが国王らは嘔吐で口や服を汚し、虚ろな目で宙を見ている王子にぎょっとして言葉が頭に入ることはなかった。
話半分以下に聞いていたディルクは目に見えない圧迫感とストレスに苛まれ、息苦しさと寒さに震えていた。
甘やかされ育った王子がストレスに強いわけもなくかなり大切な話がされていたにも関わらずそのほとんどを右から左へと聞き流していた。
国の威信がかかっている大事な話し合いの場にパルティーを連れてくる浅慮な態度を考えれば、どれだけこの話し合いを甘く見ていたかわかることだったが、次期王として参加したいというディルクを許し続けた国王達も大概だった。
大切な話し合いの場に身を置いても、何一つ気づかず、後悔もせず、謝罪もなく、まともな意見も気概もなく潰れてしまう王子に価値などないと帝国側は見限った。
だがフラフラと一人出て行こうとする王子にヴァンはおもむろに話しかけた。
帝国がここまで内部まで情報を知っているのはヴァンという提供者がいたためだ。扇子を奪われた際に内々に帝国と連絡をとっていた。
オパルール王国の情報統制は杜撰でエクティド王国に向けてのものしか規制していない。なので国内にいた間者の商人とソリッド商会を挟めば簡単に帝国に連絡がついた。
主人のアルモニカには繋がらないように気を付けてはいたが、それでもこれだけわかりやすく姿を晒け出しているのだ気にしたりしないのだろうか。
いち使用人に興味がないのはわかるにしても扇子の件がここまで露見していることはおかしいと思わないのだろうか。
てっきり内通を疑われ責められるのかと、もしそうなったらヴァンがすべての責を負うつもりで構えていたのに王子は青白い顔で睨むくらいしかしてこない。
あの男爵令嬢が花祭りで見かけたことを話し、アルモニカの従者と調べがついているものだとてっきり思っていたのに、まるでヴァンを知らない帝国の者という目で見ている。
現に王子は疲れ果てていて『薄気味悪い黒髪の男に呼び止められた』くらいにしか思っていなかった。
この王子は思った以上に凡庸なのかもしれない。
今日この場で王子や国王を潰すつもりでやってきたが、あまりにもみすぼらしく病人のように具合が悪そうにしている姿に毒気が抜かれ、ヴァンは魔法でディルクが汚した服を綺麗にした。
生活魔法の『クリーン』だ。オパルール王国以外では魔法が扱えれば大抵の者が使っているありふれたものだが勿論そのことをディルクは知らない。
そのため失言も容易にかました。
「う、うむ、ご苦労。魔法をかけるならちゃんとそう言え。生活魔法など聞いたことがないぞ。まったく帝国は枝葉末節に拘るな」
嫌味は単なる無知をひけらかしただけであり、ヴァンは〝やはり助けするべきではなかったな〟と後悔させただけだった。
「ついでに回復魔法でもかけてくれ」
と揶揄する王子に周りは冷たい視線を送り、ヴァンは笑みを作ったまま無視して背を向けた。
一介の魔法使いは回復魔法など使えない。それが使えるのは神官や聖女だ。それは王子は勿論誰もが知っていて当たり前のことだった。
オパルール国内ならただの嫌味だが今の発言は帝国に対して礼を欠いた態度を取っただけではなく、魔法制御をしているアルモニカへの侮辱も含まれた。
「嘘だろう?この国は生活魔法を知らないのか?」
「嘆かわしいことだな。だからミクロフォーヌ侯爵令嬢がわざわざ魔法学校を作ることになったのか」
「だとするとオパルール王国の魔法知識は何年遅れているのだ?十年、二十年ではきかぬであろうな」
「この国に来て四年?五年か?その間魔法について何一つミクロフォーヌ侯爵令嬢に助言を乞わなかったということか。
先王が生きていればそんな愚かなことはさせなかっただろうに」
「皇后様どころか諸外国も認める魔法使いがこんなに近くにいたのにその功績のひとつも本当に知らぬのか。宝の持ち腐れだな」
「無知とは恐ろしいものよな。国民が不憫でならないわ」
失言をかます王子を止めることもできず、帝国の侮蔑を含んだ嫌味に国王は怒りで震えた。なぜ黙って出て行けないのか。恥の上塗りはやめろとディルクを睨んだ。
「オパルールの王妃よ。何処に行かれるのかな?話はまだ終わってないが?」
「わ、わたくしも気分が優れないので退出をいたしますわ。わたくしにはもう話すことなどありま……」
「ご自分のドレスが売り渡されても良いのか?」
王子に続き自分も具合が悪いと立ち上がる王妃を帝国側は引き留めた。彼らは後のことを国王に押し付け逃げようとした王妃を見破っていた。
裏切り者で貴族でも平民でもなくなった義兄を見捨てる気になったことで辺境伯領もどうでもよくなったのだろう。
「このドレスはわたくしのために作られたものですもの。売り渡すつもりなどありませんわ」
と気丈にも言い放った。ここにヴァンがいる時点でそれは嘘だとバレているというのに。
「ベフェルデリング殿。その者を外に出しておいてくれ」
丁度そこへ屈強な男、ベフェルデリングが入ってきた。短く清潔に整えられた髪に歳はオパルールの国王くらいだが彼よりも太く引き締まった筋肉とより大きく見えるオーラがある。
何も知らなければ一国の主にも見えるくらい威風堂々とした風格があった。
そんな男が脇で固まっているディルクに目をやるとひょいっと摘まんでさっさと部屋の外へと放り出した。
王子に対して不敬な態度だったが口を挟む間もなく追い出されてしまった。
「おいっ僕を誰だと心得る!僕はディルク・……おい!」
ドアが閉まる間際、男は真っ直ぐオパルール側……特に王妃を見て目で彼女を座らせていた。
ドアが閉められた後、「そのドレスをどうやって手に入れたのか」、「どれだけ価値があるものなのか話して見せよ」という声が聞こえたが、疲れきっていたディルクにはもう関係ないかとヨロヨロと別室へと向かった。
本当はすぐにでもパルティーの下へ行きたかったが綺麗になったとはいえ嘔吐したこの格好で会うのは憚れた。
着替えと湯浴みの用意をするよう指示し、ディルクはパルティー達がいる部屋とは別の部屋でしばし休むことにした。
その寝ている間に使用人達や騎士達が大騒ぎになったが気力を最大限まで使いきったディルクは気づかず束の間の深い眠りへと落ちた。
それが後で大変なことになるのだが寝ている彼が知る由もない。
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