ハリボテの王子様 その6
王子側の話続いてます。お花畑とご都合胸くそも続行中。
時間軸はアルモニカ休学中です。
国を守るために画策している国王らを嘲るように帝国側からこんな話が飛び出してきた。
「だが安心するがいい。その慰謝料は前クロリーク辺境伯が全財産を差し出してでもミクロフォーヌ侯爵令嬢の代わりに支払うそうだ」
「な、なんですって?!」
逃げるように視線を泳がせていたはずの王妃が顔を上げ叫んだ。国王と目が合えば動揺したようにビクついたが帝国側になんでそんなことになったのかと詰め寄った。
「お義父様は引退されてそんな余力はありませんわ!!そんな老父になんて無体なことをするの?!」
「ならば自分の懐を痛めず、まだ家族でもない己の子供と同じ年齢の令嬢に負債を背負わせる自分はおかしいと思わないのか?」
「そ、そんなことはありませんわ!わたくしとてディルクのために身を切りました!これ以上どうしろというの?!」
「その身なり、つけている貴金属、王妃宮に隠し持っている財産、現辺境伯から貢がれた品々、丞相ら昔の情夫から融通されているもの全てを差し出せば優に辺境伯領は手元に戻るはずだが?」
「?!ドレスは!着飾ることは王妃として必要なことですわ!!」
「元のドレス一着で辺境伯領を買い戻せるほどの価値があってもか?」
「……………え?」
国王らもぎょっとして王妃を見た。元のドレスは理解できなかったが常々王妃が、
『王妃が着飾ることで国の裕福度がわかるのです。他国から見くびられないためにもわたくしは生活水準を下げたりしませんわ』
と豪語していた。だからオパルール王国のためと融通をきかせていたが丞相を見、そして王妃を睨んだ。まさかと思ったことが繋がった気がした。
「王妃っ貴様、まだあの義兄と関係を持っていたのか?!」
「ち、違います!お義兄様とはもうなんの関係もありません!あんな、あんな阿婆擦れと関係を持つ裏切り者と復縁など!貢ぎ物ももう貰ってはいません!」
「だが貢ぎ物があるのは本当なのだろう?!なぜそれを出さなかった?!」
「そ、それはわたくしを着飾る上で必要なもので!ティーセットだってベッドだってわたくしの生活になくてはならないものですわ!売る必要なんてありません!」
儂やディルクには財産を差し出させ、自分は売る必要がないだと?!ふざけるな!頭に血が上った国王は余計なことを口走った。
「それにだ!それに現辺境伯は結婚もしていないのに子がいる!しかも貴様によく似た子供だ!」
「だからあれはわたくしの母の子だと言ったではありませんか!元娼婦の母がわたくしのお義兄様を寝取ったのです!」
後妻で入ったはずの王妃の母が義父ではなく義兄との子を産んでいた。
誰もがぎょっとする話だが国王も王妃も血がのぼってそれどころではなかった。
「あなたにわたくしの気持ちがわかりますか?子供はディルクと同い年……!母はわたくしに隠れてずっとお義兄様と関係を!わたくしを裏切ってきたのよ?!
お義兄様だってわたくしを愛していると囁きながら幼気な乙女を凌辱したその手でわたくしの母と懇ろになっていたのですわ!なんて…なんて汚らわしい!!」
過剰なストレスで王妃は言わなくてもいいことを叫び自分を抱き締めながら髪を振り乱した。
聞いていた国王は呆然とした。
悲観した素振りはまるで義兄の方を愛していたような口振りに聞こえて動揺を隠せない。お前は儂を慕っていたのではないのか?というか、どちらの関係が先だ??
元婚約者が毒殺され、その犯人が王妃の義姉だったがそれがわかった時には現国王は現王妃と関係を持ち妊娠していた。
さすがの国王も世間体が悪いと思い、離れようとしたら王妃に、
『ずっと想いを秘めていました。諦めようと思っていましたができなかったのです。子供が出来たことが天の思し召しでしょう』
だから見捨てないでくれと懇願され、それを渋々承諾した。
先王には罵倒されたが子が自分しかいなかったのもあり最後は許してもらえた。
貴族であり王族の自分にはできないと諦めていた愛のある結婚に先王よりも素晴らしい国王になれるのではと浮かれた。
ディルクの父である国王もまた学生時分に不貞を働いていたが彼の場合はあくまでも遊びは遊び、愛はなくとも元婚約者と結婚をするつもりでいた。期間限定だからとディルクとは違った意味で悪びれもしなかった。
元婚約者を守るための言葉もケアもディルク同様何一つしなかったために悲劇が起こったのだが、それを未だに理解していない。
むしろ王妃の義姉が国王に恋慕し元婚約者に手を掛けたという話を鵜呑みにしていた。義姉の顔などろくに覚えていなかったのにだ。
愛する婚約者の命を奪った悪女としてハリボテの正義を振りかざした国王は元クロリーク辺境伯令嬢を断罪した。
そして国王はクロリーク家の次女を王妃とし、クロリーク家は長女以外お咎め無しとなっている。
その件を境に王家の権威に陰りが増すのだが、国王は元婚約者よりも美しく愛嬌がある王妃を守ることで自分は他の男達よりも価値があるのだと浮かれ、早くも後継者を授かったことで国王として自分は完璧になれたのだと驕った。
遊びでも心から愛していた者が伴侶になるという快感を知ったことで、愛のない婚約を不満に思うディルクを不憫に思い、甘やかす事態になったのだが国王はまだ気づいていない。
自分が婚約者を慮りケアをするということをしなかったのだから子供に言い聞かせることなどできはしなかった。
だが結婚後徐々に王妃が本性を現し、過去の男の数の多さにもしやと国王は薄々気づいていたが知るのが怖くて放置していた。
それもあり帝国から突きつけられた現実に国王はショックを隠せなかった。
「貴様は、儂を裏切っていたのか?!まさか、まさかまさかディルクもあやつの子では」
「なっ何を仰ってるの?!裏切っていたのはお義兄様ですわ!!ディルクはわたくしの子です!!」
「……もういいだろうか?痴話喧嘩は後にしてくれたまえ」
「痴話喧嘩ではないわ!!これは大切な話……あ、」
金切り声で叫んだがここがどこか思い出したのか王妃は昂っていた感情を一気に萎ませた。帝国側は冷めた顔でわざとらしく嘆息を吐きオパルール側を見遣った。
「我々が言いたいのは未婚であるミクロフォーヌ侯爵令嬢に貴様達がしでかした負債を背負う義務も義理もないということだ。
そしてクロリーク前辺境伯は現辺境伯を更迭、貴族籍を剥奪後強制労働をさせるためにあなたの義兄殿は奴隷落ちとなった。
愛する義妹のために働けると喜んで身を差し出したそうだぞ」
「……え?」
奴隷落ち?と聞いて王妃の顔が強張った。
「辺境伯から其方の王妃に要請があっただろう?にもかかわらず慰謝料を支払わないのだから仕方あるまい。
後妻と離縁し、家格を男爵まで落として家族全員働いて返すことになっている。ああ、前辺境伯は管理者だから少しはマシか?」
「だが一代限りの男爵だからたいして有り難みもなかろう」
「後妻や子供らが働いて返せなければ男爵も奴隷落ちだからな。義娘のために身を粉にして働いてくれるだろう」
「自分の実の娘を屠った連れ子のためにどこまで働けるか見物だがな」
「だが少なくとも王妃殿は拍手喝采なのではないか?阿婆擦れと揶揄る自分の母親と子が平民以下として強制労働させられるのだ。
夫よりも不倫相手の方に心を向けているようだし心も痛まなかろう?」
「見物といえば監視役で同じく政争で葬り去られたご令嬢の家がいち早く名乗りを上げていたな。
もっとも過酷な強制労働の地を用意したのもそこの侯爵であろう?裏切られた国のためにそこまで尽くすなど殊勝な心掛けではないか」
失笑する帝国側の会話に丞相が真っ青な顔で叫んだ。
「ま、まさか、その侯爵とはナタシオン侯爵ですか?!」
ナタシオン侯爵家は毒殺された現国王の元婚約者の家だ。当時丞相の勢力と拮抗していて結婚した暁には貴族筆頭になるはずだった。
現在は中央の仕事をすべて辞職し領地に引き籠っているはずだが動きも噂も何もない。まさかと叫ぶ丞相に帝国側は素知らぬ顔で見合わせた。
「さぁ、誰だったかな?」
「まあ、我々の国の者ではないとだけ言っておこうか」
「なんということだ。まさか、ナタシオン侯爵がオパルール王国を裏切」
「そんなことよりもオパルールの王妃よ。どうする?貴様の持つもの全てを投げ売れば愛しいお義兄様も弟妹達も助かるぞ」
蒼白になる丞相の言葉を切って帝国は王妃に向き直った。帝国からすればナタシオン侯爵の裏切りなど火を見るよりも明らかだが丞相にとっては青天の霹靂だったらしい。
情報を意図的に隠されていたのだから当然だろうが普通は警戒し続けるものでは?と帝国は思っていた。
ナタシオン侯爵もまたデヴァイス帝国を敵視していたが長年刷り込まれた敵よりも娘を奪われたことの方が重く、侯爵を動かした。
その事実を知り丞相は恐れをなしたが、王妃はそこには反応しなかった。
本来なら王妃にとっても動揺する重大な問題のはずだったがそれよりも別の言葉が引っ掛かった。
「…は?弟妹?お母様は、いえ、あの阿婆擦れは息子だけに飽き足らず、他にもお義兄様の子を作っていたというの?!
わたくしはディルクしか産めなかったというのに?!」
目を剥き怒りを露にした王妃は「信じられない!!そんな穢れた血が高貴なわたくしと家族なはずがないわ!!」と拒絶した。
そこに義父との子供という考えはなかったし、むしろ自分だけが辺境伯家の血が混じっていないという事実も忘れていた。
それ故家族ではないという言葉はいい得て妙ではあったが『高貴なわたくし』を指摘する者は誰もいなかった。
「そうか。ならばこの話は終わりにしよう。後程ジルドレドなる者を受け取り帰られるがよい」
「ま、待ってくだされ!!領地を!辺境伯領を返してくださらぬのか?!」
「先程其方の王妃が拒否されたではないか。そして目録のものはほとんどが模造品ばかり。そんなものと国境の要である辺境伯領が釣り合うとでも思っているのか?」
「で、でしたら王妃のドレスを!その落書……いえ、独特な刺繍のドレスが領地と引き換えにできるほどの価値があるのだろう?!
だったらそれを差し出す!それで手を打ってくれ!」
「何を言っているの?!これはわたくしか苦労して手に入れ手直ししたドレスよ?!これはわたくしのためのドレス!売るはずないでしょう?!」
「煩い煩い!!これは王の命令だ!!辺境伯領がオパルール王国にとってどれだけ価値あるものかわからぬ貴様の意見など聞く価値もないわ!!」
辺境伯領がなくなれば他国の間者の出入りが把握できなくなり、なにより国が狭まり威厳が保てなくなる。
クエッセル侯爵が治めていたこの領地もまだ代替わりできていない。そこを突かれて帝国に侵攻されればオパルール王国が崩壊する恐れがある。
先程の話でナタシオン侯爵が不穏な動きをしていることに丞相は危機感を募らせていた。
辺境伯領を守ることが本当に良いことなのか疑問に思っていることも知らず、国王はなんとしてでも交渉しようとどこでそんな大金に化けるドレスを手に入れたのかを王妃に確認せずに打ち出した。
これには帝国も心底呆れ、ヴァンは殺意が増し、国王を軽蔑した目で眺めた。
読んでいただきありがとうございます。
補足
実はオパルール王国、ナタシオン侯爵とクロリーク辺境伯という名前が別の作品にいます。
サイドストーリーにしようとして後味か悪いということで独立して別の世界線の物語になりました。
此方の過去話と多少重なっております。
『ストーカー精霊様がまるっと全部見ていたようです。言い逃れはできないですよ。』




