ハリボテの王子様 その3
王子側の話続いてます。お花畑とご都合胸くそも続行中。
時間軸はアルモニカ休学中です。
本日2話更新予定です(2/2)
そしてジルドレド伯爵の引き渡しの日。
王家の意向で王宮ではなく辺境伯領から程近い侯爵邸で行われた。奇しくもその邸はクエッセル元侯爵の領地だった。
主人がいなくとも命を受けた使用人達が慌ただしく準備を整えていく。参加者は国王と王妃、丞相と重鎮数人と近衛騎士団、そして控えにディルクと側近達も参加していた。
側近達は全員でなくとも良かったのだがジルドレド伯爵が帰ってくるということでこっそりパルティーも呼んでいたため自動的に全員集まってしまった。
しばらくして社交パーティーが行われそうなくらいの馬車が集まり、それをぼんやり眺めていると準備が整った知らせが来たのでみんなで向かった。
広間には大きなテーブルがあり国王達はそれを囲んで話すようだ。護衛や従者達はその周りに立つのでパルティー達には少し離れたソファに固まって座るよう指示をしてテーブル席に着いた。
話し合いとはいえ帝国が何も仕掛けない保証はないからな。しかし席に着くと帝国よりも母親の方が恐ろしく見えた。
王妃はジルドレド伯爵をどうやったら八つ裂……ではなく辺境伯領をどうやって取り戻せるか目を吊り上げて今か今かと待っているようだ。
そこで初めてパルティーを連れてきて大丈夫か?と少し不安に思った。王妃側とパルティー側で空気の温度差を感じなくもない。
そして最近気に入ってよく着回している子供が描いたようなユルい刺繍のドレスがより王妃の顔の恐ろしさを際立たせて怖かった。
ようやく現れたデヴァイス帝国の者達はこぞっていかつく、炭鉱夫のような野暮で融通が利かない堅物そうな者ばかりがテーブルにつき、後ろに立った。
正直どちらが上なのかもわからないような没個性の顔ぶれだ。
パルティーがいる席からは「あれドワーフ?」という声が聞こえ吹き出しそうになった。
空気を壊すなと大人達から睨まれランドル達がパルティーの口を閉じさせたが、すでに空気は微妙な雰囲気を帯びていた。
「では、始めようか」
簡単な挨拶が終わったところで話し合いが始まった。ようはお金が工面できたから辺境伯領を返してくれ、というものだったが、ジルドレド伯爵の名前は一文字も出て来なかった。
王妃としてはどうでもいいのだろう。とにかく辺境伯領を取り戻すために私財を投げ売り、提示された金額以上の価値あるものも差し出したと帝国側にアピールをした。
勿論泣き落としも忘れていない。席に着いているのは王妃以外全員男性だ(パルティーは王妃の視界に入っていない)。
そして王妃は美意識が高く母親になってからも己を磨くことに余念がなかった。絶対に我が領地を取り戻してみせる!と意気込んだ。
しかし。
「足りませんね」
帝国から返ってきた言葉は心無いものだった。彼らは王妃の必死の訴えもろくに聞かず淡々と目録を見ながら帝国同士で話し合った。
特に後ろに控えている褐色の肌の薄気味悪い黒髪の男の話を聞く度にディルクを見てわざとらしく嘆息を吐くので苛立った。そうでなくともパルティーが、
「あ!この前のイケメンじゃない!!ねぇねぇ、こっちでアタシと一緒にお茶をしましょうよ!」
場違いな誘いをその薄気味悪い黒髪の男にするものだから余計に腹が立った。
黒髪の男は自分のことだと思わず無視していたが(それはそれで腹立たしい)、立ち上がり此方に近づこうとするパルティーをランドル達が引き留めてくれた。
そのお陰で緊迫した空気は一気に飛散したために始まって早々に休憩を挟むことになってしまった。
「きゃあ!!」
「「「パルティー!!!」」」
別室に入ったと思ったら王妃はパルティーの髪を掴んで思い切りひっぱたいた。
「ディルク!こんな下賎な娘を連れてきてどういうつもりなの?!あなた、母よりもこんなバカな小娘が大事だとでも言うの?!」
王妃は本気で辺境伯領の返還を望んでいて真剣に取り組んでいた。だから浮わついた気分で邪魔をしてきたパルティーが許せなかったのだ。
一番いけなかったのはこんな重大な場に安易に連れてきた自分だ。もっとちゃんとパルティーに伝えておけば良かったのだと後悔した。
「も、申し訳ありません!ですがパルティーはジルドレド伯爵を心配しているのです!だから早く会わせてあげようと」
「心配?笑わせる話ね。男に囲まれて更に男を侍らそうとしてるこの者に他人を本気で心配できる感情があるなんて驚きだわ」
「ひっ酷い!!」
「酷い?国と家族を守るために奔走しているわたくしと家族が離散の危機に陥っているのになんら動きも働きもせずこんな場所で何もせずただのうのうと身分に不相応な高価なお茶を飲んでいるあなた。どちらが酷いかしらね?」
鼻で笑い部屋を出て行った王妃に騎士達が追いかけていく。パルティーはその場で座り込み号泣した。
「アタシはただみんなと仲良くお茶をしたいと思っただけなのにぃ!!痛い~!なんなのよもぉ!!」
「パルティー……」
みんなで仲良く、にはヴァンも含んでいたがディルクは純粋にパルティーを心配した。
それを冷めた目で見たのは国王だ。
「ディルクよ。もう少し頭を使うべきだったな。無断ではなく儂に許可を得ればもう少しマシな結果だっただろうに」
国王の言葉は今更でしかなかったがその通りだった。再会できればパルティーに喜んでもらえるだろうと思って連れてきたのが仇になった。
「お前のせいでその者が愛妾になれる機会も失ったのだ。よくよく反省するのだぞ」
「そんなっ……わ、わかりました」
申請しても国王や王妃に却下されるとわかっていたからパルティーを内緒で国家間に関わる話し合いの場に気軽に連れてきたのだ。
その自覚のなさを指摘され凡庸な王子は辺境伯領の失態を思い出し仕方なく身を引いた。
まさかデヴァイス帝国がオパルール王国の宝物庫にあったものを手放しで喜ばず、尻尾を振って辺境伯領とジルドレド伯爵を返してくれることもなく、王妃がここまでヒステリックになることも、パルティーが空気を読まずに口出しすることも想定外のことだったのだ。
いや、パルティーの場合は緊張感を解そうと気を遣って無理に話しかけてきただけかもしれないが。
なにせ彼女にはジルドレド伯爵が帰ってくるから会いに行こうとしか言っていない。
引き取った後はまっすぐ牢屋に入れられ事情聴取と裁判が待っている。罪人と知ればパルティーは心を痛めアルモニカよりもジルドレド伯爵を気にしてしまうだろう。
もしかしたら助命の嘆願をしてくるかもしれない。それは正直困るから今のうちに引き合わせておきたかったのだ。
その後はジルドレド伯爵に会わせずこっそり処刑された後に事後連絡するつもりでいたが、そのおざなりな計画が早々に破綻していることにディルクは気づいていない。
悉く悪い結果になってしまい、ディルクは自分の不幸に酔いしれ形ばかりの後悔をした。
ここで母親の態度で正気に返ったりパルティーを家に帰すなり付き合いを見直すなりすればあんなことにはならなかったのに、見張りのように立っている護衛達に冷めた目で見られながらディルク達は構ってほしいだけの泣きじゃくるパルティーを慰めた。
休憩後はパルティー達には別室で待ってもらい、ディルクだけ広間に戻った。王妃は変わらず辺境伯領の返還を求めたがデヴァイス帝国の使者は渡した目録を返してきた。
そこには書き記された道具類の他に金額が書かれているのだが訂正線と一緒に数字が修正されている。
「ここからここまでは贋作、または偽物でした。次のページのここから捲ってここまでも偽物ですので金額を訂正しました。ジルドレド伯爵に確認したところ半分は彼の商会から買ったものだそうですよ。
またこの数点はオパルール王国では不動の価値があるかもしれませんがデヴァイス帝国では価値が違うので修正しました。国宝があればもう少し加算できましたがリストの品ではこの辺が限界でしょう」
確認のためにジルドレド伯爵が目利き?それは普通の対応だったが今の王妃には火種にしかならず、ピクリと怒りでこめかみが動いた。
「そ、そこをなんとか!あそこは王妃の故郷なのだ」
「そう言われましたもね。偽物ばかりを差し出されてどうにかしろと言う方が傲慢なのでは?」
「そんなに大事ならせめて国宝クラスのものがないと話になりませんよ?」
「そんなはずはありませんわ!目録を作った時にはちゃんと本物だったのです!」
王妃がいくら言っても実物を確認したデヴァイス帝国の鑑定士とオパルール王国のジルドレド伯爵がいてはひっくり返しようがない。
むしろオパルールの者は見る目がないか嘘をついて偽物を無理矢理押しつけているように思われてしまう。
切羽詰まりヒステリーを起こす王妃を痛ましく思いながら国王は目で制した。
「そんなことよりも、これはどういうことかな?」
「?これ、とは?」
そんなこと、と王妃を軽んじる言い回しにムッとしたが、怒りを露に差し出された目録に言い返すタイミングを失った。
なんの話だ?とディルクも身を乗り出すとそこに記載されているのは花嫁衣裳一式だった。いち早く反応したのはディルクだ。
「父上!!どういうことですか?!これはパルティーと結婚するために準備していたドレス一式じゃないですか!!これも売ろうとしたんですか?!」
知らぬ間にリストの中に入れられてしまったディルクは立ち上がり国王を責めた。パルティーの名前が出てしまったのは無意識だ。
「僕の結婚式が数ヶ月に迫っているのですよ!?それを売るなんてどういうことですか?!僕に結婚するなとでも言うのですか?!」
「黙れディルク!……ああ、帝国の方々は気にせんでくれ。近々結婚の法律を変えるつもりでの。その衣裳はいらなくなったのだ」
「父上!!!」
「黙れディルク。国王の儂に逆らうつもりか?」
儂が知らぬとでも思ったか?
そこまで言われてやっとドレス類がアルモニカではなくパルティーのために用意していたことがバレていたのだと理解した。
浮気をしても自由にさせてもらっているからついつい忘れがちだがアルモニカとの結婚は絶対で正妃でなくなっても伴侶にすることは揺るがない。
対してパルティーは母である王妃が愛妾以外許さないと二の句を告げさせないほど徹底している。そして先程国王から愛妾にもなれないと告げられた。
愛くるしいパルティーを見れば王妃も絆されると思ったが先程のことで仲良くなるどころか絶壁ができてしまった。
だが先程のあのパルティーの態度は悪かった。王妃は現辺境伯の義兄をとても慕っていた。本当の兄であり親友のように。
『聡明なところはわたくしのお義兄様にそっくりだわ。あなたはきっと立派な王様になれるわよ』
と、いつも嬉しそうに話す王妃の邪魔をしたのだ。
王妃は自分が話してる時に邪魔をされるのも嫌いだし侮られるのも嫌いだ。自分が大切なものを奪われて怒り心頭になっているところに水を差したパルティーを絶対許さないだろう。
それもこれもこんな重要な国同士の話し合いの場にパルティーの笑顔見たさだけで連れてきてしまったディルクの責任だ。
罪悪感と身内の冷たい視線に冷や汗がドッと出たディルクは言い返すこともできず渋々椅子に座った。
さすがのポジティブさをもってしてもこれ以上失態を犯したら愛妾どころかパルティーと一緒にいられなくなると今頃理解した。
読んでいただきありがとうございます。




