復活の兆し
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バキン、という音と共に右手首を見るとあの趣味の悪い腕輪がなくなり、足下で粉々に砕けていました。
左手首はまだ腕輪が残っていましたが大きなヒビが入っているので壊れるのは時間の問題でしょう。
右手に魔力を込めれば揺らぐオーラがよく見えました。右手なら魔法を使えるようね。
「え?何?どうしたの?アニーさんの腕輪が壊れたわよ?」
「あれってまさか、」
「それがどうした。ただの腕輪だろう?そんなことよりもミクロフォーヌ嬢!自分の罪を認めてパルティーに謝るんだ!!でないと痛い目を見てもらうことになるぞ!」
体躯の大きい令息が勢いよく手を伸ばして来たのでそれをすり抜け扇子を出し彼に向けました。
「『止まれ』」
腕を振り回し掴みかかろうとした体勢で止まった令息はそれでもアルモニカに襲いかかろうと踠きました。しかし指一本動かせず呻き声を上げました。
「痛いめ?どういうことかしら?いくらわたくしに嫌疑がかけられているとしても男性が女性に対して、しかも上位のわたくしに触れ、暴力で捩じ伏せるのは不敬ではなくて?
わたくしの家はミクロフォーヌ侯爵家よ。伯爵程度が触れていい相手ではないわ、ルシェルシュ様。お父様がお嘆きになりますわよ」
「う、るさい!!黙れ!拘束を解け!!」
「無礼ね。不愉快だからその『口を閉じなさい』」
「もがっ」
扇子を振ればルシェルシュ令息は口を閉じ開けなくなりました。そして男爵令嬢達の方を向き直ると、いち早くツインテールが逃げようとしたので『動くな』と命令しました。
「あ、悪魔だ!悪魔の所業だ!!」
「何をバカなことを。魔法が自然魔法だけだなんて昔の話ですわ。ちゃんとお勉強しておりますの?
平民の方々は独学でいろんな魔法を勉強されてますのよ?行動制限くらいで悪魔だのと言われる筋合いはありませんわ」
「うぐ、」
「それにあなた方はわたくしが魔法を使えないことに対して『役立たず』だの、エクティドを『田舎小国』だのと好き勝手に暴言を吐かれましたわよね?
なぜそうさせられているのか少しは考えたことはあって?わたくしからすればあなた方の方がよっぽど悪魔に見えましたわ」
丞相や重鎮の息子達ですし王子の側近でもありますから多少なりわたくしの事情は知っていると思いますが、たとえ本当に使えなくても冤罪をかけられてまで蔑まれる謂れはありません。
そのくせ魔法は自然魔法くらいしかないのだと思い込んでいるようですし。
確かに授業でも自然魔法が中心で、最新魔法教育から五十年くらい遅れていますがそれにしたって無学過ぎますわ。まるで異世界にでも来てしまったみたい。
本来ならわたくしが教鞭を取るべきところを国王達が子供だからそんな資格はないと勝手に決めつけて学ぶ機会を遅らせていたのです。
その結果がこれかと思うと溜め息しか出ません。
ヴァンが居たら苦言を言われてしまいますが、嘆息を吐いたわたくしは逃げようとする側近達の動きを止め、この愚か者達をどうしてくれようかしらと悩みました。
すると丁度、次のテストの時間を告げる鐘の音が鳴り響きました。
「ほ、ほら鐘が鳴ったぞ!あなたはテストを受けなければ卒業できないんだ。
ろくに授業を受けていないから卒業できるか怪しいものだが受けないよりはマシだろう。早く魔法を解除して戻るといい」
「まったく煩い蝿ね。『黙れ』」
鐘の音を気にしたのを好機と捉えたのか丞相令息はニヤリと笑いましたが扇子を振って側近達全員を黙らせました。
「『固くなれ』。『沈め』『沈め』『沈め』」
そして体を石のように固くして石の床に沈めました。三回沈めたのは体躯の大きなルシェルシュ様がいたからです。皆さん肩まですっぽり石の中に埋まりました。
「逃がしてもらえると思ったなら早計でしたわね。わたくし、あなた方のことも嫌いでしたの」
一歩一歩近づきながら声を体に染み込ませるように丁寧に紡ぎました。勿論怒りを込めて。
わたくしの言葉の魔力で彼らは『嫌い』という重みを全身に浴びさせました。これによりどうにかなるということはありませんが、マイナスの言葉は恐怖を煽り命の危険を感じることになります。
その恐ろしさに晒されれば晒されるほどストレスを感じ、耐性が弱いセボンヤード公爵令息が最初に吐きました。
あらやだ。一番強そうなルシュルシュ伯爵令息が泡を吹いているわ。随分と見かけ倒しなのね。
わたくしが晒されたストレスに比べれば他愛のない程度ですのにね。にっこり微笑んでフィクスバール公爵令息と向き合いました。
「あなた方はご自分の婚約者がいながら、そこの男爵令嬢に媚びへつらいベタベタと互いを触り合って見苦しいったらありませんでしたわ。
あなた方こそ殿下の側近としての自覚はあったのかしら?あればそんな『はしたない』ことはしないと思いますよ」
調べればすぐにわかることですが彼らは婚約者がいることをバレてないと思っていたようで驚き目を見開いた後周りの視線に気がつきバツの悪い顔をしました。気づくのが遅すぎましたわね。
「それから、わたくしはそこの彼女を苛めていませんわ。勝手に近づいてきて勝手に転んだところを介抱しただけなのに……此方の言い分を聞かず、一方的に責められるなんてこの国の司法制度はどうなってるのかしら」
「「「……」」」
「間違いだった時、あなた方はエクティド王国とミクロフォーヌ侯爵家当主代理であるわたくしに対してどんな責任をとってくださるの?フィクスバール様」
「そ、それは……」
「名前すら知らない方をどうやって苛めるというのかお聞かせくださる?セボンヤード様」
「えっと……どう思う?ランドル先輩」
「お、俺に聞くな!」
「んーっんーっんーっ」
喋れないようにしたのに騒がしいですわね、あの男爵令嬢は。
「このご令嬢は許可もしていないのに不敬にも話しかけてきて、果ては勝手にあだ名をつけ、馴れ馴れしく話しかけてくるんです。
それを注意せず容認してきたディルク殿下と側近であるあなた方に怒りを覚えているのですよ」
彼らを見下ろすとわたくしの気持ちが通じたのか能無しのフィクスバール公爵令息もやっと恐ろしさに震え顔を真っ青にさせました。
鈍感な方に知らしめるのは骨が折れますわね。
制御装置をつけている時点で王家から脅威に思われていると普通なら気づきそうなものですが、やはり上がダメだと下も愚かになるのでしょうか。
溜め息をつき再度落とされた童話と初級言語の本を手に取ったわたくしは同じく沈んでいる男爵令嬢の頭の上に乗せてあげました。
「んーっんーっんーっ」
「お返ししますわ。名も知らない方。ご自分の国の言葉のお勉強頑張ってくださいね」
ニッコリ微笑めば本の下で男爵令嬢が青白く涙を溜めた悔しそうな顔で睨みあげていました。
今までバカにしていた相手にやり返されて腹立たしいのでしょうけど、その考えが過ちだといつか気づくかしら。わたくしはそれなりにあなたに優しくしてあげたわよ?
「ああ、そうだわ」
テストを受けるべくその場を後にし一旦背を向けましたが、振り返り側近達を見た後ショモナイナー様達に目を向けました。
「わたくしはテストを受けるのでこの場を去りますが魔法は一定時間持続しますのであとはお好きにどうぞ。婚約者同士、積もる話もありましょう」
おかしな話ですが王子のハーレム対象になった令嬢の中に側近達の婚約者がいたのです。
順番で言えば先に側近達が男爵令嬢に現を抜かし、自棄になった令嬢達が王子のハーレムに賛同した、という流れでした。
しかし長年婚約者だった令嬢達は政略以上に愛情を持っていた方もいまして、わたくしが去った後責め立てる言葉と一緒に頬を打つ大きな音が響いてきました。
手を痛めそうな音だったので体を固くする魔法だけ解いておきましたがその後の事はわかりません。
帰り際に見た時は穴だけが残っていました。
読んでいただきありがとうございます。
ちょっと内容が変わったので加筆修正しました(9/8)




