下らない者達
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後宮の消失は王室で大騒ぎとなりました。
ズーラ帝国、ルダンブル王国からそれぞれ抗議の手紙が届いたのです。
王女達を危険に晒したディルク王子とクエッセル侯爵への制裁を求める書面に王妃が卒倒し、国王は体裁合わせにクエッセル侯爵を更迭。爵位を二つ落とされました。
しかしそれを不服としたのはズーラ帝国のマルティーナ様で彼女は命の危険を感じたと訴え、侯爵にも同じ恐怖を罰として与えなくてはならない!とズーラ帝国へ身柄の引き渡しを要求しました。実質処刑と同等で重鎮達は猛抗議しました。
かといって王子を差し出せと言われても無理な話ですし、他の者を身代わりにするのにも代償が大きいためクエッセル元侯爵を守ることはできませんでした。
とどめに王子が今回後宮がなくなったのも自分が辱しめられたのもすべてクエッセル侯爵のせいだと責任を押し付けたためすべての罪を被り、クエッセル元侯爵はズーラ帝国に引き渡されることになりました。
問題はこれだけではありませんでした。今回の件で心身共に傷ついたご令嬢達の慰謝料と彼女達が持ってきた家財道具一式の賠償金も支払わなくてはならなくなったのです。
どうやら砂から取り出せたのは半分ほどで、小さい貴金属は見つからないのだそうです。それからドレスも傷んでしまい相当な額に上っているのだとか。
それについてなぜか王妃様から連絡が来て『未来の夫の危機をあなたが救いなさい』と全額援助するよう書いてありました。
どう考えてもおかしな話なので王妃様のご実家にその手紙を送りました。
ついでに王妃様の過去の話をショモナイナー公爵に伝えたことと、各国の新聞記者に伝える術を整えてある旨も添えておきました。
脅しじゃないか?いいえ。お母様からいただいたあのドレスを勝手に切り刻んだ上に結婚する気もない相手の尻拭いをしろと言うのですもの。当然の反応ですわ。
由緒正しい辺境伯家なのと王妃様の甥にあたる方もエクティドに留学しているので少しは話が通じるでしょう。
後日、王妃様のご実家……ではなくとある貴族から元辺境伯の謝罪の手紙を渡され、慰謝料と賠償金は王妃様のご実家から捻出される旨を教えていただきました。
◇◇◇
テストを受けるため久しぶりに学園に行くと、まるで幽霊でも見たような顔で見られまた変な噂が飛び交っているのでは?と不安になりました。
テスト自体は問題なくクリアしましたが突き刺さる視線がどうにも居心地が悪く早くテストが終わってほしいと考えていました。
だというのに。
「どういうことか説明していただけるかしらミクロフォーヌ様!」
胸には王妃様からいただいたブローチをつけたショモナイナー公爵令嬢が他の候補者や取り巻きの方達と一緒になってわたくしを取り囲みました。
呼び出しの内容は『夫人の順位について』。どうでもよ過ぎて溜め息が出そう。
「ディルク殿下の第一夫人はわたくしのはずよ!!なんで他の令嬢が後宮に先に入っているのよ!!」
「しかもその方々は一番いい部屋を貰ったというじゃない!それは第一夫人であるミルキーヌ様のお部屋のはずよ!!」
それをわたくしに言ってどうしろと仰るのかしら。しかも後宮はなくなったというのに。
そろそろ次のテストの時間になるわ。
騒がしいショモナイナー様達にうんざりしていますと後ろからバタバタと品のない足音が近づいてきたのでわざとらしく振り返りました。
うわー。予想通りあなたでしたか。
「アニーさーーん!きゃあ!」
子供のように足音を立てていたのはツインテールの男爵令嬢で、短い階段を上りながら躓いたと同時に胸に抱えていた物を放り出した。
いえ、放り出したというには速度があるから投げつけたに等しいかしら。その物体はそのままアルモニカにまっすぐ向かってきたので、さっと避けました。
そのせいで他の方々の足やスカートに当たり転んでしまいましたが落ちた本を見て一瞬固まりました。
童話に初級言語の本、ですか。
「いたたた~っ☆んもう!何で誰も立たせてくれないの?!ディルクならすぐに助けに来てくれるのにぃ!!」
男爵令嬢は気にせずメソメソしながらゆっくり立ち上がりました。
「ちょっとあなた!どういうつもりなの?!わたくし達に本をぶつけておいて謝りもしないなんて不敬よ!」
「きゃっアニーさん助けてぇ!この人達怖い!アタシを苛めるのぉ!!」
「………そう。それは大変ね」
半べそで縋ってくる男爵令嬢に『うわ』と引いたけれど、手を差し伸べないのもどうかと思いハンカチを渡しました。この方を助ける義理などないのですけどね。どうしたものかしら。
「涙をお拭きなさい。そして落ち着いたら医務室に行かれると良いでしょう。怪我をしていたら問題ですからね」
「うええ~ん!アニーさん優しい~っありがと~っ」
「そんなことよりもわたくし達に謝りなさいよ!!この方は足を捻って怪我をしたのよ!」
そうよ、そうよ!と迫ってくるショモナイナー様達に男爵令嬢はわたくしの後ろに隠れました。この方は誰かに助けて貰うのが得意なんでしょうか。
「お退きなさいミクロフォーヌ様!わたくしはそこのネズミに話があるのです!」
「アタシはネズミじゃないわ!!王妃になる高貴な女なのよ!」
「何をヌケヌケと!男爵令嬢ごときが王子妃になれるわけないじゃない!!」
「なれるわよ!ディルクがそう言ってくれたもん!!」
「こんの……!あなた、わたくしが誰に向かって暴言を吐いているのか理解してますの?!」
「知らないわよ!ディルクに愛されない取り巻きの一人でしょう?残念でした~!ディルクはアタシ一筋なんです~!ねー?アニーさん!
アニーさんはディルクがアタシのことをどれだけ好きなのか知ってるよね?」
あいつらに言ってあげてよ!と命令してきたことにカチンときて掴まれていた腕を振り払えば驚いた顔で男爵令嬢が此方を見ました。
「皺になるから力強く握らないでくださる?」
そう冷たく言い放つと男爵令嬢は目に涙をいっぱいに溜めてから子供のように大声で泣き出しました。
その声は甲高く耳を塞ぎたくなるほど騒がしく他の方々も何事かと寄ってきました。
「どうした?!パルティー!」
人をかき分け号泣する男爵令嬢を抱き締めたのは王子の側近達でした。
彼らを見た男爵令嬢は更に泣いて抱き締め返しました。それがいけなかったのでしょう。ブローチをつけた伯爵令嬢が短く悲鳴をあげたのが聞こえました。
肩越しに確認すれば今にも叫びだしそうな顔で二人を睨んでいます。他の方々も同じ方向、令息達を睨み付けていました。
前を向くとそこに王子の姿はありませんでした。後宮がなくなった件以降謹慎させられているのは本当のようです。
だから彼らも堂々とあの男爵令嬢とベタベタできるのでしょうけど……ここぞとばかりに触り合っていて見苦しいわね。
「アニーさんがね。アニーさんがアタシを苛めるのぉ~!」
は?苛めてませんけど?
「アタシが助けてって言ったのにアニーさんが見下すような目で〝触るな〟って!それにそれに、アタシの荷物を投げ捨てたのに拾ってくれないの~!」
うええ~ん、とわざとらしく泣く男爵令嬢を側近達は労るように同情して、それからねめつけるようにわたくしを睨み付けました。
「これはどういうことか説明してもらおうか!ミクロフォーヌ嬢!」
「まさかまた爵位を盾にパルティーを苛めたんじゃないだろうな?こんなに可愛いパルティーを苛めるなどただの嫉妬じゃないか見苦しい!」
「田舎小国のくせに我が国の爵位と同格だと思い違い甚だしい!我が愛しき聖女パルティーは貴様の小国よりも尊い存在なんだぞ!」
「パルティーの持ち物を投げ捨てるとは言語道断!それでも貴族か!」
その愛しき聖女の持ち物は童話に初級言語の本ですけどね。拾って渡してあげれば、彼は奪い取るように受け取りましたがタイトルを見て驚いた顔になりました。
それはそうでしょう。どちらも学園の生徒が読むにはつまらなく稚拙なものですから。
「ち、違うの!これは、その……っどうしてアニーさん!!アタシが持ってた本はこれじゃないわ!アタシの私物をどこに隠したの?!」
「やはりそうか!パルティーがこんな本を持ってるなんておかしいと思ったんだ!
さてはミクロフォーヌ嬢、あなたの本じゃないのか?初級言語なんて他国のあなたしか読まない本だからな!!」
せめて孤児院に寄付するものだったとか言えばすむ話ですのに、何でこうもことを荒立てたいのかしら。
「そう!そうなの!!アニーさんってばまだオパルールの言葉がわからないダメダメさんなのね!!うふふっ
だからそれを隠すために威張ってディルクに愛されてるアタシを苛めるんだわ!絶対そう!!」
令息達が勘違いしたお陰で調子に乗った男爵令嬢は愚かにも彼らの後ろで増長し、「酷いことをするアニーさんをやっつけちゃって!」と令息達を囃し立てました。
自分が男爵位ということを忘れ侯爵位のわたくしに意見することがどれ程不敬なことか理解してないのよね。
する気もないのでしょうけど、何で目の前の方々はそれを指摘せず擁護してるのかしらね。丞相の息子ですよね?あなた。
「ミクロフォーヌ嬢!今日こそパルティーに謝ってもらうぞ!!」
「殿下からパルティーを守るためならあなたを糾弾してもいいと許可を貰っているんだ!殿下の名ばかりな婚約者とはいえ容赦はしないぞ!!」
「パルティーから貴様の悪行は聞いている!逃げられると思うな!」
「……その言葉、そっくりそのままお返ししますわ」
はあ。頭お花畑の愚か者ばかりね。
読んでいただきありがとうございます。




