使用人を守るのは主の役目です
上げれたと思ってました。すみません。
誤字報告ありがとうございます。
王宮から帰った後はいつもストレスで疲弊して、いつもならなんてことはない馬車に酔い邸で二日ほど寝込むこともよくありましたが付き添ってもらうだけでこんなにも変わるとは思いもしませんでした。
服装を少し変えるだけで気分も結果も変わるものなのか、と驚愕したくらい。
別の意味で物凄く疲れましたが、食事をしてお風呂に入り、落ち着くお茶を飲んでからベッドに入ったらあっという間に眠りに落ちて次の日にはスッキリした気持ちで起きることができました。
そのことに感動して侍女達に話したら、夜遅くに使用人達が『アルモニカ様が王宮に行かずにすむにはどうしたら良いか』という話を本気で会議していました。
「やはり王家はすべて燃やすべきでは?」
「あなたは何でもかんでも燃やそうとしないで!!」
聞こえてしまった会議の話でほぼ『燃やしましょう』しか言わないヴァンが心配になって、次の日それとなく危険なことをしないようにと注意したのですが連れていったあの日で完全に王家を敵視してしまったみたいです。
恐らくショモナイナー公爵令嬢も恐怖対象になったでしょう。
調べたらあの方は見目が良い、珍しい者達を集めては侍らせたり教育という名のイジメをされているとか。
高位貴族はその地位であることと引き換えに性格がねじ曲がる方もいらっしゃいます。ストレス過多で逆に壊れてしまう方も。
ショモナイナー公爵令嬢は〝おいた〟をしてストレス発散をしているようで相手も喜んでいると思い込む節があるようです。
さすがにエクティド王国と敵対してまでヴァンを欲しがるとは思いませんが違法な手口で誘拐されないとも限りません。
元々使用人達には魔法制御装置をつけさせてはいませんでしたが後雇いのヴァンにもつけていませんでした。
魔法を不当に使わせないオパルールへの意趣返しのつもりでレプリカをつけて、表向きは制御していると申請報告しておきましたがその制御装置の出費すらアルモニカの家から出させてる王家には心底呆れていました。
そして今回、公爵家の羽振りを鑑みてヴァンや他の使用人達に追跡タグをつけることにしました。何かあった時のためです。勿論簡易的な迎撃もできます。
わたくし、伊達に神童と謳われていた訳ではないのです。大切な家族を守るために夜鍋をして制御装置に模したお守りを作りました。
「此方がその〝お守り〟よ」
そんなつもりはなかったのだけどたまたま二人きりに―――いえ侍女がいるわね―――なって、たまたま直に渡せたから渡しただけなのだけど。
先日の馬車の一件からヴァンを見ると急にソワソワして落ち着かなくなるのよね。多分また褒め殺しされたらどうしようって動揺しているのだと思うけど。
あれは本当に恥ずかしくて立ってられなかったわ。ヴァンとはまた数年の付き合いしかないけれど、わたくしが倒れるまでほとんど話したことはなかったもの。
面接をした際に話したくらいでその後はほとんど印象に残ってなかったくらい。
こんなにも見目が整っていて存在感があるのに印象に残らないってある意味凄いんじゃないかしら。
いえ、それはいいとして。
話すようになってそれほど経ってないのに、王宮で初対面の青年と本人を目の前にして褒めちぎるのってどう考えてもおかしな光景よね?普通しないわよね??
だってわたくしオパルールに来て外で一度も褒められたことなんてなかったし、エクティドの侯爵令嬢とは知っていてもいい意味で気を遣われたこともなかったわ。大体四面楚歌で詰んでたもの。
褒められるのは嬉しいけど人前で大袈裟に言われるのはどうしても怖い。大丈夫かしら?後で叱られないかしら?嫌味を言われないかしらって考えてしまう。
オパルールに来たのが多感な十四歳だったのもあり、アルモニカは衆人環視の中王子に晒し者にされたり、王妃に笑い者にされたり、貴族達に蔑まされ続けたために深く傷つき、過剰に人の目を気にするようになってしまっていた。
お守りを受け取り、確認しているヴァンを信じたいような、あんなことを言って嘘だったらどうしようとか、大人達に苛められたり目をつけられたりしないかとか、何であんなことを言ったりしたりしたんだろうとか、混乱していた。
「さすがですね。軽く見ただけではわかりませんよ」
「…すぐにわかってしまっては意味がないでしょう?」
「そうですね。………ですがアルモニカ様がつけている制御装置とやらは控えめに言っても少々下品ですね。正装でも悪目立ちしそうだ」
「しそう、というかしてるわ。合わせられるドレスなんてないもの」
「アルモニカ様はいつもつけてらっしゃいますもんね。しかも王妃様の命令で地味色のシンプルドレスしか許されませんでしたし。確かにそれでは悪目立ちしかしないでしょう」
あれは若い女性に着せる服装ではなかった、王妃は何を考えているんだとヴァンや侍女達は内心怒りを募らせていました。
「宝石を減らせばこの細工も活きるでしょうに。先人の方ってこうもつけるのがお好きだったのかしら」
「これを作った意匠の趣味では?もしくはこの配置が制御する陣になっているとか」
「ありえるわね。腕輪のひとつひとつが違うのはつけている宝石の種類が別だから。
硬度や色に合わせて細工も変えてあるのでしょう。そう考えるととても高度なものかもしれないわね」
昔の遺物ってところね。と重くごてごてした腕輪を掲げればヴァンはボソリと呟きました。
「かもしれませんが、魔法と切っても切れない生活をしているのにそれを制御する装置だなんて……どんなに豪華な作りでも手枷にしか見えませんよ」
世の中には生活魔法というものがあるのに。
それすらさせないとなれば確かに手枷なのだろう。それはまるで家のために結婚する貴族そのものにも見えました。
◇◇◇
ほどなくして王妃を伝手にヴァンをショモナイナー公爵家に献上せよという王命に等しい形で書面を寄越しました。
懲りない人ね、と呆れたアルモニカはショモナイナー公爵にエクティド王国のミクロフォーヌ侯爵家当主として堅苦しく正式な抗議文を送りました。
ようはうちの者に手を出したら容赦しないぞ、というもので公爵はすぐに謝罪文を送ってくれたが娘の方は諦めが悪く、ヴァンを拐おうとしたり冤罪を吹っ掛けようとしたりしてきたので、
『ショモナイナー公爵令嬢を使って王妃がまた毒殺を図っているのではないか?もしそうならば公表して身を守らなければならない』
と公爵に訴えたのです。
実は現国王の婚約者は別にいました。その婚約者はショモナイナー公爵の縁戚で仲も良かったのです。その方が毒殺され、その犯人は現王妃の義姉ということになっています。
その話も国内での秘密とされ箝口令が敷かれ本来なら他国のアルモニカが知るはずもない。
その話を知られていることがオパルール王国にとってどれだけ恐ろしいことか。
オパルール王国の王家をひっくり返す程のスキャンダルだということにショモナイナー公爵は慌てたそうです。
そして国王が好いた相手とはいえ犯罪者の義妹を娶るなど常軌を逸していると考えていたショモナイナー公爵はアルモニカの手紙で考えを改め娘の横暴を諌めました。
公爵令嬢が納得してくれたかは定かではありませんがヴァンや使用人達の危機は去ったのです。
ですがそれだけでは王妃様から来たほぼ王命の書面を覆せません。
ショモナイナー公爵に尻拭いをさせても良かったのですがわたくしは王妃様が愛してやまない大好きなルドミスィルの刺繍が施されたコブウェブのドレスを贈ることにしました。
王妃様はとてもお喜びになり最速で手直しをさせていろんな場所で見せびらかしているそうです。
そしてショモナイナー公爵にはドレスはどこの誰からの贈り物で、贈り先が誰かということ贈られた理由、ドレスの価値と値段。
それらをショモナイナー公爵令嬢の戯言ひとつで差し出す羽目になったこと、その責任をどう取ってくれるのかとネチネチと使用人達が文章を作りアルモニカが清書して送りつけました。
返事でショモナイナー公爵がいつかドレスを取り戻すことを約束してくれましたが二度と元の形には戻らないでしょう。その分の賠償請求も考えなくてはなりません。
いやだって、普通『母にとって思い出深いドレスなので』と書いていたのにそれを此方に一度も確認もせず鋏を入れるなんてありえない話だと思うのよ。
あのドレスは王妃様に献上したものだけどそれは名目で、ほぼ王命を出させたショモナイナー公爵令嬢が王妃に支払うべき賠償金の意味も込めて贈ったもの。
ショモナイナー公爵家への罰の意味があったのです。
だからあのドレスを勝手に着てもいいという話ではなかったのですが、王妃様には何も通じていませんでした。
もしかしたらあのほぼ王命も彼女からすれば大した意図もなかったのかもしれません。
子が子なら親も親ということがわかりましたが、母になんて言い訳をすればいいのかアルモニカは頭を抱えた。
読んでいただきありがとうございます。