うちの執事は主人が好きすぎる
誤字報告ありがとうございます。
気分よく去って行く王妃様に結局何の用事で呼び出されたのか、ただ意地悪したくて呼ばれたのかわからないまま見送りました。
わたくしの格好の意図も後で気づかれるかしら?そんなことを考えているとショモナイナー公爵令嬢達も動き出しました。
お帰りかしら、と思いましたがどうやら違うよう。
「あら、ミクロフォーヌ様はつけてらっしゃらないの?」
何をですか?と聞くまでもありませんが一応礼儀として返しました。そしたら皆さん並んで素敵なブローチを見せてくれました。
「これは王妃様からいただいた、今王都で『超!』有名な飾り職人が作ったブローチですの!
宝石は勿論最高級の品質でディルク様の瞳と同じ色ですのよ!この色の宝石はとても貴重でなかなか手に入りませんの!!」
「田舎小……んん゛、遠い遠~いエクティドではこんな素晴らしいブローチはなかなか見られないでしょうけどね!
よく見たいのでしたらどうぞ?記念に見ていかれて?フフフ」
超、と強く押してきましたね。
とてもいいデザインですし品もあって素晴らしいブローチなのは確かですけど……くどくてエクティドでは流行りませんわね!
新興国オパルールは権力を示すためにいろんなものを盛っていくのがここ数年の主流ですけど、エクティドや周りの大国はどんどん削いでいくシンプル志向になっていました。
国を出る頃ですら『盛り髪ダサい』みたいな風潮でどんどん嵩が減っているのにオパルールは年々増えていますからねぇ。
ドアをくぐるのに髪もドレスも気にしながら歩くのは正直面倒ですわ。
そういう意味でもオパルールには住み続けられませんわね、としみじみ思いました。
あら、逸れてしまいましたわね。
「ええ。皆さんとてもお似合いですわ」
(何処もかしこもギラギラしててブローチの良さを殺し…いえ埋もれてしまってますけどね)
「あら!あなた(田舎者)にもこの良さがわかるのね」
「本当ですわね。あ、でも、わからなくても王妃様からいただいたと聞けば、褒めるしかないんじゃなくて?」
「それもそうね」
フフフっと皆さんが顔を見合わせて笑われましたが王家御用達の飾り職人を知らない方がおかしいのではないかしら。
皆さん贈り物をする時どういう基準で相手と物を選んでいるのかしらね。
「ならこれもおわかりになる?これはディルク殿下の妻として認められた証なんですのよ!!」
「あら!ミクロフォーヌ様はブローチがないわ!!まあまあまあ!!忘れてしまったの?!」
ハーレムの一員になるとそのブローチをつける義務が課せられるのかしら?良かったわ。対象じゃなくて。
嬉しそうに騒ぐショモナイナー公爵令嬢達を微笑ましく眺めていましたが、いつまで王宮に居座るつもりなのかしら?と不安になりました。
あまり長居してると怖い近衛兵達が早く帰りなさいと迫って来ますわ。
「ショモナイナー様方。わたくしはこの辺で失礼いたしますわ」
「だからミクロフォーヌ様は大事な王妃教育から逃げてらっしゃるの?」
ん?話が見えませんわ。いつの間にそんな話になりましたの?確かに休んでますがそれとブローチは関係ないのではないかしら。
「学園を休んでいるのも成績がガタ落ちして教師に見放されたからと聞きましたわ。退学間近なのだとか!」
「やはり田舎小……んん゛、に住む方には荷が重いのでしょうね。
仮病……いえ病気になるほど王妃教育が嫌になってしまわれたんですもの。きっと相当難しい内容なんでしょう、クスクス」
ちゃんと規定通り進めていればあと二、三ヶ月で修了する内容でしたがね。半年かけても終わるかどうかわからない薄っぺらい進行になっていますわ。
王妃様達ももうわたくしを王太子妃にするつもりがないのでしょう。お互い時間の無駄になってしまいましたが、わたくしはホッとしていました。
「あなた本当に大丈夫?王太子妃になる覚悟がないのなら婚約者をやめて国に帰られた方がよろしいんじゃなくて?」
「ディルク様のこともいい加減解放してくださらないとミクロフォーヌ様もお辛いですわよ。どんなに縋りついても振り向いてはもらえないのですから」
「ううっ可哀想なミクロフォーヌ様!」
ニヤついた顔で同情されましても困ります。
「でもご安心なさって!ミクロフォーヌ様がいなくなってもオパルールはわたくし達が盛り立てていきますから」
「やはり王妃は自国の民でなくてはなりませんわ!」
そう言って彼女達はが歩き出したのでわたくしも続くように歩き出した。
「あらやだ。お帰りはあちらよミクロフォーヌ様」
「わたくし達はこれからディルク殿下とお茶会がありますの!」
そうですか。でも指した方は出口ではありませんわ。わたくしを迷子にさせたいんですか?
嬉しそうに勝利宣言をしている令嬢には申し訳ありませんがまったく、興味、ありませんので!
「皆様でどうぞ楽しんでいらしてください」
にっこり微笑み、まだ言い足りなそうな顔をするご令嬢達を見送り外へと向かいました。
帰りも同じ騎士の方に案内されつつ出口に向かっていましたが、来た時の会話で心が解れたのか帰りは彼の方から質問をしてきました。
「よろしいのですか?」
心配そうに聞いてくる彼に少し驚きながらも背筋を伸ばしこう答えました。
「わたくしは招待されていませんから。もし行けばディルク殿下のご不興を買うことになるでしょう」
恐らくあなたにもご迷惑がかかるでしょうと伝えると彼は悲しそうにして前を向いた。
「それにしてもずっと黙っているけど体調でも悪いの?ヴァン」
令嬢達や王妃様がいる前では執事らしくしていたけど今は喋っても怒らないわよ、と斜め後ろで黙々とついてくるヴァンを見れば彼は不意に此方を見返しました。
「いえ、私の主人は格好いいなと思いまして」
「…………は?」
いきなり何を言ってるのこの男は。
「あ、それ俺も思いました!!あのご令嬢の前で啖呵を切ったミクロフォーヌ様めちゃくちゃ格好良かったです!!」
「ですよね?!〝彼はわたくしの執事でありエクティドの民なのです。主人であるわたくしは彼を守る義務があります。〟って!!!
なんですか、その台詞!!更に惚れました!」
「え、いえ、は?」
意気投合して話し合う二人にわたくしはついていけなくて王宮内だというのに近くの柱に隠れました。顔が熱いのは気のせいでしょうか。
「女の人ってどんなに家格が上でもお澄まししてても口で勝てないとわかるとすぐ手が出るんですよね!
でもミクロフォーヌ様は嫌味に負けずに堂々としてたし、あのご令嬢の鼻っ柱折ったしで、俺感動して『おおおっ』って心の中で拍手してました!!」
「そうなんですよ!アルモニカ様は忍耐強く、正義感にあふれ、使用人に心を砕くお優しい方なんです!
公爵家に逆らったところでなんの利益もないのに私を守ってくださいました。
それだけでも光栄なことだというのに〝わたくしの執事〟だなんて…!今日ほど最高の日はないでしょう!!」
「そうでしょうそうでしょう!俺も団長にそんなことを言われたら怖いものなんてなくなりますよ!!」
「ええ。私もアルモニカ様にお仕えできて本当に幸せ者だと思いました!」
このまま二人を置いて去ってしまおうかと思いましたが見つかってしまい(柱の影に隠れてただけなので)、馬車に乗るまで二人から褒め殺しに遭いました。
「もう、声が大き過ぎます!!もっと抑えて話せなかったの?!」
「申し訳ありません。つい熱が入ってしまい語り合ってしまいました」
そうはいいますけどさっきの騎士の方は初対面でしたよね?あそこまで意気投合できるものなの?!
「私も彼も勇ましく美しいアルモニカ様に心を打たれ敬服していたのです。助けていただいたこの嬉しい気持ちを言葉で表現するのは当たり前のことかと」
「で、でも、わざわざ王宮であんな大声で話さなくてもいいじゃない!!」
「他の方々はアルモニカ様の素晴らしさを知らなすぎます!!今更知ったところで許したりはしませんが、奴等を後悔させるべきです!」
「その前にわたくしの心臓が壊れてしまうわ!!」
あなた達の大声で近衛兵がやって来て怒られないかずっとビクビクしてたのよ?!あの人達融通がきかなくて本当に怖いんだから!
顔を真っ赤にさせ両頬を手で冷やしながら嘆いていると視線を感じそろりと前を見上げた。
視線の先には目を嬉しそうに細め微笑むヴァンが見ていてそれだけで頭まで熱くなった。
「そういう、感情を素直に出せるアルモニカ様が……とても素敵ですよ」
「なっ…なっ…」
「とても素敵で、愛しいです」
片方の手を取ったヴァンは固まるアルモニカを余所に流れるような仕草で指先にキスをし、とても妖艶に微笑んだ。
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