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王妃様は目の上のタンコブ

 ◇◇◇



 そして案内されたのは庭園が眺められる四阿でした。そこには四人のご令嬢が居て内心うんざりしました。


「ごきげんよう。ミクロフォーヌ様」

「体調が優れず学園をお休みになっていてわたくし達心配しておりましたの。でも王宮に来れるくらいお元気でしたのね」


 良かったですわ。と挨拶に嫌味を混ぜてくる令嬢に笑みで返しました。


「ご心配をおかけしました。ショモナイナー様。王妃様のご用命とあり馳せ参じましたわ」


 なければ来ませんでしたわ。にっこり。

 圧を込めて微笑めば二人は目を背けたので伯爵位以下のご令嬢でしょう。


 堂々としているのは学園でもよくわたくしに絡んでくる高位貴族の方達。全員呼ばれなかったということは王妃様のお眼鏡に叶わなかったということかしら。


 それにしても面倒臭い人達を呼んでくれましたわね、あの王妃様は。



「ねぇ見て?あのドレス……フフッ」

「あら本当ですわ」


 案の定ショモナイナー公爵令嬢達はわたくしのドレスを採点し始めました。


 彼女達は何でもかんでも格付けをして優劣を決めたがる習性があり、会うと大体今日のメイク、髪型、ドレス、靴、小物、持ち物チェックをして採点していくんですよね。



「ミクロフォーヌ侯爵家は物を大事にするお家柄ですのねぇ」

「けれど少々、いえ、かなり昔のドレスなんじゃなくって?」

「もしかしてお婆様のドレスを手直しなさったの?プフーっ」

「いくら昔のものがお好きだからって、ねえ?」


「お茶会もパーティーにも出てらっしゃらないから流行りのものもおわかりにならないのも仕方ないんでしょうけど、それにしたって王妃様にお会いするのにお古はダメでしょう」


「しかもそんな旧時代の、子供が描いたような刺繍のドレスなんて、フフフ、アハハ!」

「プププっ笑ったらダメよぉ!ミクロフォーヌ様にとっては一番高価なドレスなんでしょうから!」



 確かに一番高価なドレスですわね。だってこれ一着で恐らくショモナイナー公爵家の邸が買えますもの。笑えますよね。

 モンスター級のドレスなんて新興国にはまだ入ってこないでしょうしこういう反応も仕方ありませんわね。


 わたくし達を連れてきた騎士だけは顔を真っ青にさせてますけど。彼の場合ドレスの価値よりも『ベフェルデリング様からの贈り物』という方が大きいかしら。


 そんなことを考えていたらショモナイナー公爵令嬢がわたくしの後ろに控えていたヴァンを見つけて目の前まで近づきました。



「お前、名前は?」

「……ヴァンと申します」

「そ。じゃあ今からわたくしの従者になりなさい」


 あら、何を言っているのかしらこの阿婆擦……いえ、ご令嬢は。

 しかも閉じた扇子でヴァンの顎をあげるなんて……手慣れてるわね。彼は背も高いし礼を取り伏せたからむしろ顔は見やすいでしょうに。

 わざわざそれをやってニヤリと笑ってるショモナイナー公爵令嬢にぞわりと寒気がしました。この方、日頃から使用人を苛めたりしてませんよね?


「お誉めいただき光栄ですわ。ですがこの者はミクロフォーヌ侯爵家の者。お諦めください」


「は?あなたこそ何を言っているの?ショモナイナー公爵家のわたくしが欲しいと言っているのよ?

 喜んで差し出すのが当然でしょう?!これほど名誉はないじゃない!!」


 最初から言うことを聞く気などありませんでしたが彼女の態度でレンタルも無しだわ、と決めました。


「オパルールではそうかもしれませんが母国エクティドでは主従の絆を大切にしておりますの。

 彼はわたくしの執事でありエクティドの民なのです。主人であるわたくしは彼を守る義務があります。

 本人の意思確認もなく、他国の者を許可もなく勝手に手に入れようなど、ショモナイナー様はエクティドに敵意がおありなのかしら?」


 そういえばエクティドを『田舎小国』と最初に仰っていたのはこの方だったわね。話が通じるかしら?通じなかったらどうしましょうか。



「な、何を言っているのかしら?そんな大口を叩いてあなたの母国が恥をかくのではなくて?

 わたくしはヴァンがショモナイナー家の使用人に相応しいと思ったからこそ引き抜いて差し上げてるのよ?彼の未来を想うなら公爵家に差し出すのが主人として正しい行いだと思わなくて?


 ヴァンもわたくしの方が目の保養にもなるし支え甲斐があると思っているでしょう?ええそうよね。きっとそうだわ!ほら、彼もそう言ってるわ。

 そちらのアレな家よりもよりもわたくしの公爵家の方がもっといい暮らしができるですもの!当然よね!ほほほほ」


「あらあら、随分と回る舌ですこと。他国の人間を自分の言葉ひとつで思い通りになると思っている方が恥ではないのかしら。ヴァンは一言も喋ってはいませんわよ。

 ショモナイナー様は奴隷制度の廃止は世界規模だということをご存じないのかしら?」


「はぁ?誰が奴隷にすると言ったのよ!」


「あなたが彼にしようとしているその行為が奴隷扱いだと言っているのです!そこまで言わないとわからないほどショモナイナー公爵家は無知なのですか?」


「田舎小国の分際で……っ」


 さすがに国同士の争いに発展するのは困ると思っていたみたいだけどなんとなく腹が立って言い返してしまった。だって勝手にヴァンの心を語るんですもの。


 自分に都合のいい物みたいに扱う言葉にカチンときて煽ったらショモナイナー公爵令嬢の手がぶるぶる震え、上に振り上げた。公爵令嬢のくせにまったく堪え性がない方ね。




「何をしているの?」



 一触即発、というところで通る声が響きました。

 振り返った先に居たのは王妃様で、一斉に最敬礼を取りました。


 ショモナイナー公爵令嬢から挨拶が始まり王妃様は親しげにお声をかけていましたが、わたくしの番になりましたら声が冷ややかになりました。


「あらアルモニカさん。居たの?いつもと違う格好だったから気づかなかったわ。

 ルビナード伯爵令嬢、よくいらっしゃいましたね。あらわたくしが贈ったブローチをつけてくだってるの?とてもお似合いよ。

 タンジェリン伯爵令嬢も同じブローチですけれどわたくしが選んだものなのよ。名工の装飾で……」



 いつものように冷ややかな対応で声をかけたものの伯爵令嬢よりもあなたは下なのよ、という態度にショモナイナー公爵令嬢達はニヤついた顔で此方を見ていました。


 想定内ではありますがわたくしだけ礼を解く許可をもらえないのはなかなかに辛いものです。

 しかし王妃様の言葉が止まったと思ったら素早くわたくしの下へ戻ってきてじろじろとスカートの刺繍を見つめていました。ショモナイナー公爵令嬢が『子供が描いたような』刺繍です。



「あなたこれ!いえ、アルモニカさん!!これは『ルドミスィル』シリーズではなくって?!」


「王妃様のご慧眼に敬服いたします。ルドミスィルをご存知なのですね」


「当たり前よ!ルドミスィルシリーズはわたくし達の世代では誰もが欲しがる、けれどもなかなか手に入らない憧れの刺繍よ!!コピー商品がどれだけ出たことか!

 ああ!しかもこれは初期の頃の刺繍じゃない!花をリアルに表現しようとしてるもの!」


 そこまでは知りませんでしたわ。彫刻家を夫に持つルドスミィル夫人は家計を支えるために始めたのが刺繍でした。

 最初はレースも作っていたようですが刺繍の才能が買われて一躍有名人に。

 その報酬でかなり大きな豪邸を手に入れたというのだから相当な人気だったのでしょう。


 それはともかく、わたくしが着ているドレスは刺繍も相当な価値があるらしく、着ているのがちょっと怖くなりました。もしかしたら公爵邸以上の価値かもしれません。


 呆然と聞いていたショモナイナー公爵令嬢達は顔を真っ赤にして震えていました。



 その後も王妃様は少女のように頬を赤らめテンション高くルドスミィルの話をし続け、ショモナイナー公爵令嬢達を置いてきぼりにしたままわたくしを隣に据えて気が済むまでお話になりました。


 こんなことならもっと前にこのドレスを着てくれば良かったわ。と思ってしまったくらいには食い付きが良すぎましたし、今までで一番楽しいお茶会でした。



 嫁いびりがしたかったのか、それとも試していたのか王妃様と会う時は地味で目立たない、侍女頭のような格好で来るようにと言われていました。

 でももうオパルールに嫁ぐつもりはなくなったという意味も込めて初めて逆らった格好で来たのですが、おかしなことになってしまいましたね。


 恐らく今回は国王に叱られた可哀想な王子の敵討ち的な意味で、ショモナイナー公爵令嬢達と囲んでわたくしを辱しめるつもりだったのでしょう。


 テーブル席もひとつだけ遠い末席にありましたし。もしくは侍女のように働かせて笑い者にする予定だったのかもしれません。

 ご令嬢達が増えていた以外いつものことなので驚きませんが。


 どちらにしろ回避できて良かったわと胸を撫で下ろしました。






読んでいただきありがとうございます。

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