パルティー・コラール男爵令嬢 (後)
閑話続きです。
お花畑が咲き誇ってて具合が悪くなるかもしれません。
今日は前後まとめてあげてます。
そんな姉の気持ちなどこれっぽっちも理解していないパルティーは数週間の自宅謹慎の後、復学した。
家族には『男爵令嬢らしく、大人しく、勉強に励むように。くれぐれも高位貴族の方々と不敬な会話をしないよう、特にミクロフォーヌ様の不興を買わないように』と散々言い含められて見送られていたのだが……。
「パルティー!!心配したんだぞ!」
「ディルクー!!会いたかったー!!」
淑女マナー、紳士・貴族マナー、学園の規則として、
・大声をあげてはいけない。
・大股で走ってはいけない。
・下位貴族が高位貴族に不敬な態度(言葉遣い、敬称)を取ってはならない。
・ダンス以外でスカートを二十センチ以上たなびかせてはいけない。
・婚約者同士でも公の場で男女が抱き合ってはいけない。※学友、友人の場合はもっての他。
・未婚者は貴族の自覚を持ち不適切な交流をしてはならない。
・廊下の真ん中で立ち止まり人の通行を妨げてはならない。
・淑女は歯を見せて笑ってはならない。
・淑女は異性と適切な距離感を保たなくてはならない……。
「ごめんねディルク。お父様にしばらく休みなさいって言われて仕方なく休んでいたの。ディルクに会えなくて寂しかったわ」
「僕もだパルティー。キミのいない学園は霊園のように静かだったよ」
・下位貴族は許可もなく高位貴族に触れてはならない。
・婚約者がいる身で他の異性に愛の言葉を囁いてはならない。
違反と減点を増やしながら二人はお花畑の中で会話を続けた。廊下を封鎖しようが密着しようがお構いなしである。
「そうそう!アタシの婚約がなくなったの!アタシ晴れてディルクのお嫁さんになれるのよ!」
本当は粗相をしてお父様に叱られていじけて部屋に閉じ籠っていただけで、その後は危険人物と見なされて謹慎されただけなのだけど。
娘に甘い父親と妹に甘い長兄のお陰で解放されたパルティーは、口酸っぱく言われたことなど適当解釈し自分に都合のよい模造をして、ディルクに自分が思い込んでいることを吹き込んだ。
「お父様もやっと理解してくれたの!アタシはしがない平民の商会の息子には収まらないビッグでキュートな可愛さがあるんだって!
ディルクを射止められるんだから一生懸命王太子妃になれるように頑張りなさいって!」
「そうだろうそうだろう!パルティーは可愛くも美しいからな!僕の目に間違いはない」
「でしょー!………あーでもね。その商会から慰謝料を払えって来ててね。お父様には払えないんですって」
「なんだと?なら僕が支払おうか?いやだが男爵家がなぜ平民に慰謝料を?」
「それがアタシにもわかんないの。ジルドレドおじ様とアニーさんがアタシが不貞を働いたんだから慰謝料払えっていうのよ。
トラッドが言うならわかるけどなんでアニーさんに言われなきゃなんないのかな…?」
「ああっ泣くなパルティー!!くそっアルモニカの奴め!パルティーを泣かせた罪は重いぞ!」
「アタシアニーさんに嫌われることしたのかな?」
「していないさ。あいつはパルティーの可愛さと僕がパルティーばかりに構うから嫉妬してるんだ。慰謝料だって本当は支払う必要ないのかもしれないな!」
「ええっそんな酷いわ!アニーさんがそんなことをするなんて!」
「だったらあいつにパルティーの慰謝料を支払わせればいい。パルティーの心を傷つけた慰謝料だ!これなら絶対に逃げられないぞ!」
さすがディルクだわ!全部解決しちゃった!!これならお父様もアタシを褒めてくれるはず!
早速アニーさんに支払ってもらおうとアニーさんを探したんだけど学園には居なかった。呼び出しても全然来てくれない。
「チッあの女、ズル休みしてるな!?」
折角いい案だったのにアニーさんがいなくてディルクは不機嫌そうにしてた。ランドルがいうにはちょっと前から休学してるみたい。
「あいつは学園の大切さをわかってないだ!勉強を疎かにしてるとはたるんでいる!そんなんだから王妃教育も進まないんだ!!」
「アニーさんまだ王妃教育受けてたの?」
「ああ。他国の田舎女にもわかるように噛み砕いて教育していたらしい。そのせいであと数年かかるそうだ。これが国内の令嬢なら学園に通いながらでもすぐに終わらせられるだろうに」
「それってアタシのこと?」
「決まってるだろう?僕の唯一」
うっとり見つめあってから抱き締めてくれるディルクの腕の中は温かくて幸せ絶頂!て気がした。
本当はランドルの前ではしないようにしてるんだけどあの日からランドルってばよそよそしくなってるしリュシエルなんかまだ休学してるからつまんないのよね。
騎士見習いのエドガードはこの一年でゴツくなり過ぎて好みじゃなくなったし。やっぱりアタシにはディルクしかいないよね、と思って未来の旦那様を抱き締めてあげたの。
顔を真っ赤にしてるディルク可愛かった~!嫉妬するエドガードとランドルも可愛くて後からぎゅってしてあげたからアタシのこともっと好きになっちゃったかも!
でもぉ、アタシは王太子妃になっちゃうから~恋人で我慢してね!
「アルモニカに慰謝料を払えと直接言ってきてやる!」
って宣言したディルクにアタシはいい仕事をしたわ~って満足していた。
ディルクはアタシのものだけど好きな気持ちはしょうがないじゃない?婚約したいくらいアニーさんはディルクのことが好きなのになんにも行動を起こさないんだもの。
だから色々手を打ってあげてるんだけどちゃんと慰謝料払ってくれるかな?慰謝料払ったらきっとディルクも見直すと思うんだよね。
だけどアタシの期待を裏切るようにアニーさんはディルクと会ってくれなかったんだって。
まったく、素直じゃないなぁ。それに見極めるタイミングも最悪じゃない?ディルクがアニーさんに会ってあげるなんて今まで見たことなかったもん。折角のチャンス棒に振っちゃうなんて勿体ないの。
絶対に支払わせる!と意気込むディルクにアニーさんを任せて家に帰るといつも優しいお兄様が真っ青な顔で「お前は何をしたんだ!!」と怒った。
なんかアニーさんが『そっちで慰謝料を払うように』って言ってきたみたい。えーズルくない?何でアニーさんの慰謝料をうちが払わなきゃなんないの?
「何を言っているんだ。そもそもお前がしでかした上に認めてしまったから慰謝料が発生したんだぞ。
しかも迷惑をかけたうちがトラッド君に支払うものを何でミクロフォーヌ様が払わなきゃならないんだ?」
「だって慰謝料の話をしてきたのはアニーさんだよ?!アニーさんが責任を持って支払うべきだわ!そのせいでアタシは心に傷を負ったの!」
「はぁ??……お前はまだそんなことを。ミクロフォーヌ様となぜ呼ばないんだ?お前は不敬罪で捕まりたいのか?」
何を言ってるの?アニーさんはアニーさんじゃない。アタシが可愛い名前をつけてあげたんだから感謝してるわ!アニーさんだって嫌だと言わなかったもん!気に入ってるのよ!
「兄貴どう思う?俺は諦めてるか相手にしてないと思うんだけど」
「私もそう思うよ……」
溜め息と一緒に肩を落とすお兄様達に言い返したかったが信じてくれなそうなのでやめた。アタシの言ってることは本当なのに。
「でもどうする?バカ妹が吹っ掛けた追加の慰謝料はミクロフォーヌ様の温情でなかったことにしてくれるみたいだけどソリッド商会に支払う慰謝料は半端じゃないぜ?」
「うちの財産と母さんが代々大切にしてる宝石類、それからヒンディーがいらないと残した物を売ってギリギリか少し足りないか……」
「最悪爵位だけど男爵位じゃなぁ」
「母さんが寝込んでるというのに爵位までなくなったら妻も寝込んでしまいそうだな……」
折角嫁いでくれたのに。と泣きそうな顔をするお兄様にそんな顔をさせる義姉に憤慨した。アタシの大切なお兄様を困らせるなんて!こういう時こそ笑顔で支えるのが妻の役目じゃないの?!
もっといい奥さんが見つかるからそんな役立たずは離縁しちゃいなよ!と訴えれば次兄にドン、と押され尻餅をついた。
「お前がバカなことをしなけりゃヒンディー姉さんが出ていくことも母さんが寝込むことも爵位がなくなるかもしれないなんてこともなかったんだよ!全部お前のせいだろうが!!」
「あ、アタシは、ただ、お兄様を心配しただけなのにぃ!何でそんな酷いこと言うのぉ!!にぃにのバカぁ!!」
うわぁあん!!と大声で泣いたけど誰も慰めてくれない。何で?何で?と泣いているとドアがゆっくり開き青白い、魂が抜けたような顔をしたお父様が帰ってきた。
アタシはお父様に慰めてもらおうと駆け寄るとその前に次兄に押し退けられまた尻餅をつかされた。
「にぃにひーどーいーっお尻打ったぁ!!」
「それで父さん、どうだった?ジルドレド伯爵はなんて?!」
「慰謝料の金額は下げられなくてもパルティーを可愛がってる伯爵ならいくらか都合つけてくれますよね?!」
メソメソと泣いてるのに兄達はおじ様の名前を出してお父様に詰め寄った。ジルドレドおじ様といえばいい大人なのにアニーさんにヘコヘコして粗相をしちゃった情けないおじ様よね。
そんな格好悪い汚いおじさんとは会いたくないと思って知らぬフリをしていたけどもしかしたら慰謝料を肩代わりしてくれるかもしれないと聞こえて指の隙間から伺った。
お金出してくれるならもう少し仲良くしてあげてもいいかな。
けど、お父様の口から出た言葉は誰も想像していないものだった。
「ジルドレド伯爵が、夜逃げをした……」
読んでいただきありがとうございます。お疲れ様でした。
スポットあててませんがパルティーのせいでヒンディー以外も前々から被害にあってます。でも男爵だからかなぁという考えの家族。