青空お茶会へようこそ(中)
今日は3話更新予定です(2/3)
「貶める?ははっ笑えるな!お前を貶めたところで褒められこそすれ叱られることなんてないんだよ!」
「……まあ、口が悪い。丞相閣下は何をお考えでこんな魔力無しをお育てになったのかしら」
「?は?くら??」
「フィクスバール公爵令息。丞相の息子であるあなたはここで何をなさっているの?あなたはディルク王子殿下の側近でもあるはず。
未来の王を守らず、殿下の目を掻い潜りここでのんびりお茶をすることが公爵家の跡取りのすることなのかしら」
「うっ…それはその…」
「リュシエル・セボンヤード公爵令息。あなたもディルク王子殿下の側近のはずではなかったかしら?そのあなたは公爵家の養子でしたわよね?
跡取りとしての勉強が他の方々よりもかなり遅れてスタートしていることをまだ自覚していないのかしら?」
「えっと、それは…その…」
「お、お前には関係の無いことだ!僕達の憩いの時間を邪魔するなら出ていってくれ!」
「そうよそうよ!アタシ達は楽しくしてるんだから邪魔しないでよね!」
よくままあ、ぬけぬけと言えたものね。王子だけでも不敬だというのに他にも粉をかけてるなんて。
「ほらおじ様も言ってやって!邪魔なアニーさんをつまみ出しちゃってよ!」
令息が言い返したことで調子に乗った男爵令嬢は嬉々として伯爵にも声をかけましたが、彼は沈黙を貫きました。お茶の効果が出てきたようね。
「あの、ミクロフォーヌ様…」
「ジルドレド伯爵。ところであなたはなぜここにいらっしゃるのかしら」
「え?」
「ここはソリッド商会が借りた場のはず。それを通行止めにしてまで貴族が貸しきるとはどういう了見ですか?」
「お、お言葉ですがソリッド商会は寄親のいない平民の商会。そんな商会よりも我々貴族が優先されるのは当然でしょう?あなただってそれでここに来たのでは?」
「嫌がらせするためだけにやってきたあなた方と一緒にしないでいただきたいわ。わたくしはソリッド商会に正式に招待されてますの」
スッと招待状を見せれば伯爵は息が詰まった音を出した。
「ソリッド商会は国に申請しこの広場を借りる許可証を得ています。それを非常事態に匹敵する理由もなく勝手に場所を奪うことは貴族であっても許されることではありません」
「うぅ、それは、その」
「え、うっそ!庶民の招待で来る貴族なんているの?ダッサ!あなた友達居なすぎじゃない?」
男爵令嬢は黙っていてくれないかしら?
「ここは王都。そしてあそこに見えるのは王宮ですわ。ということはソリッド商会が得た許可証は王家が承諾したものになります。
それを伯爵のあなたや準貴族でしかない公爵令息が邪魔をしていいはずがありません。
しかもここは市民が多く行き交う広場。そこを閉鎖するということは王家に対しての冒涜とお考えにならなかったの?」
「そんな、そんなつもりでは」
「なら広場を閉鎖してから何時間経ちましたか?その間に何人の人が満足に仕事ができず生活に負担がかかるとお思いですか?
助けるべき人の命がここを通れなかったことで失われていたら?ここで待ち合わせしていた者達が会えずにそれが永久の別れになったら?
ひとつひとつは小さなものでも数が多ければ膨れ上がり、その不満は王家に向けられるのですよ?その責任をあなた方はとれるのですか?」
「そ、そんなの、でたらめだ!たかだか数時間閉鎖したくらいでなんだっていうんだ!そのくらいすぐに稼げるだろ……いでっ」
「ふざけるなーっ!」
「お前達のせいでこっちは迷惑被ってんでよ!今日の飯が食えなかったらどうしてくれんだ!」
「ここはアタシらの憩いの場だよ!あんたら貴族のものじゃない!さっさと出ていきな!」
随分と距離があったはずですが公爵令息の背中に石が当たり振り返ると憤慨した市民達が罵声をぶつけてきました。
その形相に男爵令嬢はさっと公爵令息の後ろに隠れましたが彼らが言い返したところで火に油を注ぐだけでした。このままだと警備兵は押し潰されてしまうわね。
「ジルドレド伯爵。そろそろ撤収させた方がよろしいんではなくて?」
「そ、そうですね!では私は退出を」
「そうではないわ、伯爵。出店しているものを引き上げさせなさいと言いましたの」
青白い顔で引きつらせる伯爵にニッコリ微笑み座れと扇子で指示した。
「だから言いましたでしょう?わたくしはソリッド商会の〝招待状〟を持っていると。なぜ邸を出たがらないと噂されているわたくしが馳せ参じたと思ってますの?」
「それは、」
渋々座った伯爵はしどろもどろとしていてさっきまでの大人の余裕は皆無。それに気づいた男爵令嬢達が此方に注目したのを確認してわたくしは再度扇子を見せつけるように開きました。
「わたくし、誕生日のお祝いにとデヴァイス帝国のキャンダス皇后様から扇子をいただきましたの」
「「え?!」」
とても優美で精巧な独特なデザインは見ればすぐにわかると思いましたが令息達は名前を出してやっと気づかれました。まあ男爵令嬢だけは、
「へえーっプレゼント貰えて良かったですねーでもわざわざ自慢するのってどうかと思いません?」
と棒読みで笑っているけれど。それに他が同調しないだけまだマシでしょうか。
「皇后様のためにわざわざ作られた一点ものなのですが、お揃いのものを持ってほしいと仰られて。
なのでわたくしも何かお礼をと思い、オパルールで有名なソリッド商会なら皇后様がお喜びになるようなものがあるのではないかと約束を取りつけましたのよ」
ですのに、とついっと広場にある店を見回してから伯爵を見つめた。
「ですのにソリッド商会のものは何処にもなくて驚きましたわ」
「そ、そんなはずは」
「あらおとぼけになるの?あそこにある布はルダンブル王国の模造商品、あそこにある食器セットは名工ポラリエですが本物は半分だけ。他は贋作でしょう?
それにそこにあるあなたが自信を持って今売り出している茶葉はケースはそこそこですが中身はかなりの粗悪品。お腹を壊すと巷で有名なのにまだお聞きになっていないの?」
「そんな…そんなまさか、」
まさか、自分達が飲んだものは。
そんな顔で絶望する伯爵に返さず微笑みだけ返した。すると伯爵はいきなり立ち上がり帰ろうとしたのでわたくしの従者が無理矢理座らせました。
「わ、私は帰る!帰らせてくれ!!」
「お、おい。伯爵?!」
「顔色が悪いぞ。帰らせてやれ」
「あらお庇いになるの?ならこのことを皇妃様にもお伝えしなくてはなりませんね」
伯爵と仲のいい公爵家令息達がわたくしの買い物を妨害して皇妃様への返礼品を買わせないようにしていたと。冷めた目で微笑めば二人は黙り込みました。
「えっちょっと!何で黙っちゃうの?おじ様を助けてよ!……もう!ちょっとアニーさん?!
アタシが愛されてて可愛いからって嫉妬するのもいい加減にしてくれない?あんまり酷いことするとディルクに言いつけるからね!!」
「どうぞご勝手に」
勘違いにも程がある男爵令嬢を流して伯爵に再度撤収するよう指示すれば、彼は従順に従い粗悪品達がなくなってさっぱりした。
「ジルドレド伯爵。あなたの所業はそこのフィクスバール公爵令息に報告していただきますがわたくしも貴国のご主人にお伝えいたしますね」
「そ、それだけは何卒!何卒!」
「ルダンブル王国の前王妃様も名工ポラリエも縁が深い方々。ソリッド商会をなぜ貶めたいのかは存じませんが手を出してはいけないものに手を出してしまったのです。その責任は問われて当然ですわよ」
頬に手をあて悩ましげに溜め息をついたアルモニカに伯爵は涙と一緒に我慢していたものを垂れ流した。顔は脱け殻になり呆然自失になっている。
いきなりの変わりように男爵令嬢は驚き駆け寄ったが漂う匂いと足下を見て悲鳴を上げて飛び退いた。
「え、ちょっとどういうことよアニーさん!おじ様に何したのよ!おじ様しっかりして!」
そう言いながら引け腰になってますわよ。
アルモニカも被害に遭わないうちに立ち上がるとゼブラ様の方に向き直りひとつ頷いた。
それを確認したゼブラ様はトラッド様達と慌ただしく引っ込めていた品をどんどん出していき広場は先程よりも華やかに彩られた。
「市民の皆様!一部の貴族が傲慢にもあなた方の生活を脅かしてしまい申し訳ありませんでした。
この広場はお返しいたしますがもし今日のことで生活に困難が生じた場合はここにいるフィクスバール公爵家、またはセボンヤード公爵家にお話ください。きっとあなた方の救いになってくれるでしょう!」
「おいっ!ふざけるな!何を勝手なことを言ってる!」
「ぼ、僕らにはなんの権限もないんだ!だから何かあるならランドルの父上に言ってくれ!あっちは宰相だぞ!」
「ふざけるな!自分だけ逃げようったってそうはいかないぞ!リュシエルの親は大金持ちのセボンヤードだ!言えば金をくれるぞ!」
「や、やめろ!義父上はそんな優しい方じゃない!」
ついでに逃げようとしていた公爵令息達も巻き込めば、市民達が押し寄せるようにやってきて揉みくちゃにされた。これで自分達がどんな酷いことをしたか理解するでしょう。
下手をすればジルドレド伯爵に全部擦り付けて立ち去ろうとしてましたものね。
読んでいただきありがとうございます。