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09:いつか必ず眠るのならば

「答えを教えてあげようか、鈴木くん」

 目の前に、小太りの青年が立っていた。

 死んだはずだ。この世にいないはずだ。おかしい、おかしいおかしいおかしい。

「なんで……、なんでお前がここに」

「そんなこと今はどうでもいいじゃないか。それより鈴木くん、さっきのことだけどね」

「待て! 待てって! おかしいだろ、あり得ないだろ。俺の頭が変なのか? お前は蜃気楼か何かで、俺はもう狂ったっていうのかよ? お前は今朝死んだ。そうだろ!?」

「どうしてそんなにこだわるのか、僕には理解できないな」

 困ったように笑う佐藤。

 でもこれは絶対変なのだ。だって佐藤は逝った。確かに息絶えたのを、俺は目にしたではないか。

「僕はねぇ、鈴木くん。君に伝えなくちゃならないことがあってきたんだよ。……人間の生きる理由についてね」

 俺はごくりと唾を飲んだ。彼の姿から、目が離せない。

「人間、結局ね考えたらダメなんだよ。人は生きて、飲み食いして、体を重ね、子を育て、老いて死ぬ。これが道理というものなんだ」

 身動きができない。佐藤の笑顔が、妙に眩しく感じられた。

「でも道理から外れてしまった人間は多くいる。僕や君のようにね。人間、いつか必ず眠るのならば、『その時』は今ではならないのかい?」

 眠る? 眠るというのはつまり。

「勘違いしないでほしいんだけどね鈴木くん。眠るのは『解放』ではないんだ。『虚無』なんだよ。白でも黒でもないそれが広がって、思考なんてものはなくて、体ももう失われて、何もなくなる。何もないということすら認識できない無になるんだ」

 佐藤はまるで見てきたことのように話す。いや、もしかすると実際見たのかも知れない。

「だけどそれに救いを求めた人間が、この世界に何人いたんだろうね? 十億じゃ足りないだろう。五十、いや百億かも知れない。君もその道を選ぶしか、残されていないんだよ」

「おい佐藤。でも俺は――」

「僕は、待っているよ。鈴木くん」

 佐藤の姿が周りに溶けていき、消える。

 後に残された俺の意識も徐々に薄らいで行き――。


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