08:生きている理由
生きている理由など、今まで考えたこともなかった。
ごくごく普通に、それが当然の権利であるかのように振る舞ってきたのだから当然かも知れない。
けれど突き詰めて考えれば、生きている意味などないのだとわかった。
やりたいことがある。やらねばならないことがある。
そんなのは生きている意味にはならない。それがもしできなくなれば、その人間は何もない空っぽだ。
だったら、生きる意味などないのではないか。
獣のように地面を這いずって息を繋ぎ、子孫を作って絶える命たち。
それには意味があるのかも知れない。だって、それは『種』に貢献しているのだから。
しかしそれはあくまで個々人の話ではない。
虫ケラのようにただ命を繋ぎ、果てるだけの人間は無意味だ。無意味なのだ。
日本に残してきた彼女は今どう過ごしているのだろうか。行方不明のニュースでも見て心配しているのだろうか。はたまた他の男と連んでいるのかも。
俺はむしろ、後者であってほしいと願う。
俺みたいなクソみたいな人間を気にするより、幸せへ向かって行ってほしい。
俺はもうどうせ二度と彼女と再会できることはないまま終わるのだ。
そんな俺を気にかけて、彼女の人生が狂うことだけはありませんよう。
俺は今、何のために生きているのだろう。
佐藤を殺したのは俺と言っても過言ではない。だって彼は、俺のために命を散らしたんだから。
――俺は誰の役にも立たない。誰の役にも立てない。
ただ人に迷惑をかけるだけのゴミよりひどいクズ野郎だ。
生まれてこなきゃ良かったくらいだ。なんで両親は俺を産んだりしたのだろう。何にせよ、産まなければこんなことには。
気の迷い、なのか。
もしそうだとしたら俺の両親も俺以上のクズどもだ。いいや人間なんてみんなクズなんだ。どうしてこの世界に生きているんだ? 誰に許されて? 誰に求められて?
誰も求めていやしない。
ほれ見ろ砂漠を。枯れかけの小川に動物の死体。毒を流し込んだのは誰だ? 人間に決まっている。人間が海に毒を撒き、それが流れてこんなことになったんじゃないのか?
どうして人間は、こんなにダメなんだ。
でも、そんなのはきっと負け惜しみなんだろう。世界に裏切られ、一人倒れ伏す俺の、女々しい恨み言。
こんな俺が生きて、何の意味がある?
理由なんてない。ただ死にたくないから生きているだけで、他に何の理由もありはしない。
他の人間なら、どうするのだろうか。
俺はどうしたらいいのだろうか。どうすればどうすればどうすれば――。
「教えてくれよ。……なぁ、佐藤」