表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/10

05:心の叫び

 俺は南へと戻っていた。

 やはり見捨てられなかった。佐藤を残して行くなんてこと、できっこない。


 彼との出会いは、中学の時。

 太っちょでありながら成績優秀で、女子に好かれていた彼。

 逆に体型はいい方だが知能がアレな俺に彼が「痩せ方を教えてくれ」とせがんできたことから、俺たちの仲は始まる。

「食べなきゃいいんだよ」と雑に言ってやったのに、佐藤は必死に色々と聞いてくる。

 一日どれくらいのカロリーまで抑えればいいのかとか、そんな細かいことまで。

 鬱陶しいながらも付き合ってやっているうちに、気づいたらかなり親しくなっていた。

 一緒によく映画を見たり、食べに行ったりした。

 高校も一緒。しかし大学は別々で、ここ数年会っていなかった。

 そして久しぶりに電話がかかってきて、佐藤が「旅行に行かないか」と提案。

 そうして会おうと約束し、飛行機に乗り込んだら……このざまだ。

「なんで、だよ。遊びに来たんじゃねえのかよ。なんでこんなことに巻き込まれなきゃならねえんだ!」

 叫んだ。

 心の叫びを上げた。

「こんなところで仲違いして、何してんだよ! 喧嘩してる場合じゃないだろ、ああ!?」

 どうしようもなく愚かな自分へと、激しく唾を飛ばす。

「憎かったんだよぉ! いつでも上から目線のあいつがさ。頭がいいって自慢して、いいやあいつは自慢のつもりじゃなかったんだろう。でも俺にはそう見えたんだ。恨めしかった。嫌いだったよ。でも、でも……」

 ――それでも、友達だと思っていたのだ。

 なのに俺はそれを見捨てようとした。その事実に、本当に嫌になる。

 食料が機内にあるなんて、真っ赤な嘘だろう。

 佐藤は俺を生かそうとして、自分を捨てたのだ。だが、そうはさせるものか。

「生き残らなきゃ、何にもならねえだろうがっ……」

 佐藤は確か、教師になりたいとか言っていた。そんな未来ある青年を見捨てて、一人だけ助かるなんてできなかった。

 走り、走り、全速力で駆ける。

 息が切れる。胸が痛い。もうダメだと挫けそうになったが、必死に必死に進み続けた。


 そして、見つけた。――砂の中に倒れる、彼の姿を。

「佐藤! おい起きろ!」

「……ぅ」

 意識を失っている。かなり危うい状態に思えた。

 俺は佐藤を揺すり、すぐ近くに見える例の飛行機の残骸まで運んだ。

 死体の腐敗臭が激しい機内に連れ込む。匂いはこの際仕方ない。日陰であることの方が優先だ。

 なんとか潰れないで残っていた部屋の床に彼を寝かせる。

 すると、佐藤が薄く目を開けた。

「……鈴木くん」

「喋るな佐藤。今なんとかしてやるから」

 持っていた水を口へ流し込んだ。残りの水はもうほとんどないが、それでもたくさん飲ませた。

 荷物袋の中から食べ物を漁り、取り出す。もう駄菓子しかなかった。

「これ食べろ」

「……うん」

 そして食べながら、佐藤は小さく笑った。

「ありがとう。僕を助けてくれて。……君だけ行っても、僕は良かったのに」

「ほっとけるかよ馬鹿」

「そう、だね……。ごめん」

「いいんだよ」と言いながら、俺も笑みを見せる。そんな状況じゃないとわかっていても、俺はなんだか嬉しかったのだ。

 しかし、そんな時間は十秒も続かなかった。

 佐藤に突然、異変が訪れたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ