05:心の叫び
俺は南へと戻っていた。
やはり見捨てられなかった。佐藤を残して行くなんてこと、できっこない。
彼との出会いは、中学の時。
太っちょでありながら成績優秀で、女子に好かれていた彼。
逆に体型はいい方だが知能がアレな俺に彼が「痩せ方を教えてくれ」とせがんできたことから、俺たちの仲は始まる。
「食べなきゃいいんだよ」と雑に言ってやったのに、佐藤は必死に色々と聞いてくる。
一日どれくらいのカロリーまで抑えればいいのかとか、そんな細かいことまで。
鬱陶しいながらも付き合ってやっているうちに、気づいたらかなり親しくなっていた。
一緒によく映画を見たり、食べに行ったりした。
高校も一緒。しかし大学は別々で、ここ数年会っていなかった。
そして久しぶりに電話がかかってきて、佐藤が「旅行に行かないか」と提案。
そうして会おうと約束し、飛行機に乗り込んだら……このざまだ。
「なんで、だよ。遊びに来たんじゃねえのかよ。なんでこんなことに巻き込まれなきゃならねえんだ!」
叫んだ。
心の叫びを上げた。
「こんなところで仲違いして、何してんだよ! 喧嘩してる場合じゃないだろ、ああ!?」
どうしようもなく愚かな自分へと、激しく唾を飛ばす。
「憎かったんだよぉ! いつでも上から目線のあいつがさ。頭がいいって自慢して、いいやあいつは自慢のつもりじゃなかったんだろう。でも俺にはそう見えたんだ。恨めしかった。嫌いだったよ。でも、でも……」
――それでも、友達だと思っていたのだ。
なのに俺はそれを見捨てようとした。その事実に、本当に嫌になる。
食料が機内にあるなんて、真っ赤な嘘だろう。
佐藤は俺を生かそうとして、自分を捨てたのだ。だが、そうはさせるものか。
「生き残らなきゃ、何にもならねえだろうがっ……」
佐藤は確か、教師になりたいとか言っていた。そんな未来ある青年を見捨てて、一人だけ助かるなんてできなかった。
走り、走り、全速力で駆ける。
息が切れる。胸が痛い。もうダメだと挫けそうになったが、必死に必死に進み続けた。
そして、見つけた。――砂の中に倒れる、彼の姿を。
「佐藤! おい起きろ!」
「……ぅ」
意識を失っている。かなり危うい状態に思えた。
俺は佐藤を揺すり、すぐ近くに見える例の飛行機の残骸まで運んだ。
死体の腐敗臭が激しい機内に連れ込む。匂いはこの際仕方ない。日陰であることの方が優先だ。
なんとか潰れないで残っていた部屋の床に彼を寝かせる。
すると、佐藤が薄く目を開けた。
「……鈴木くん」
「喋るな佐藤。今なんとかしてやるから」
持っていた水を口へ流し込んだ。残りの水はもうほとんどないが、それでもたくさん飲ませた。
荷物袋の中から食べ物を漁り、取り出す。もう駄菓子しかなかった。
「これ食べろ」
「……うん」
そして食べながら、佐藤は小さく笑った。
「ありがとう。僕を助けてくれて。……君だけ行っても、僕は良かったのに」
「ほっとけるかよ馬鹿」
「そう、だね……。ごめん」
「いいんだよ」と言いながら、俺も笑みを見せる。そんな状況じゃないとわかっていても、俺はなんだか嬉しかったのだ。
しかし、そんな時間は十秒も続かなかった。
佐藤に突然、異変が訪れたのである。