04:激情の爆発
気が狂いそうだ。
どこまで行っても砂漠だけ。以前の探索の時の、三倍、いや五倍は歩いたかも知れない。のに、相変わらず何もなかった。
途中で川を見つけた。干上がりかけの川だ。が、その周りには動物の死骸が山のように積み上がっていた。佐藤の考えでは毒水だろうということらしい。
「何故毒入り水になったのかはわからないね。けど、これが僕らの命を繋ぐ可能性はないと知れた。残念なことだ」
「……」
水が日に日に減っていく。人は水や食べ物なしで、何日生きられるのだろうか。
俺の中で何かが膨れ上がっていった。何か、とてつもなく大きなものが。そして――、佐藤の一言により、爆発する。
「もう僕らはダメかも知れないね」
諦めの言葉だった。
俺も同じことを考えていたし、佐藤が間違っているとも思わない。
……が、俺は叫んでしまっていた。
「他人事みたいに言うなよ! そもそもお前が旅行なんざに誘わなけりゃこんなことにはならなかったんだよ!」
少し驚いたように俺を見た後、佐藤はゆるゆると首を振って反論する。
「それは屁理屈だよ」
「んなことねえ! 全部お前が悪いんだ。そうなんだよ。お前が飛行機ん中で昼寝してやがったから対処が遅れたのかも知れねえんだぞ!」
今まで堪えてきた怒りが、どうしようもない憤怒が、一気に噴出する。
「お前が全部悪い! お前がいなけりゃ、俺は、俺は……。こんな死体ばっかの砂丘の中で、野垂れ死ぬことなんて……なかった。日本で彼女と一緒にいられたんだ! お前さえ、いなけりゃ、何も起こらなかったんだよぉっ!」
佐藤の目が泳いだ。彼が戸惑うのを見たのは初めてだった気がする。
その後、ボソリと呟いた。
「……わかった。僕が悪かったよ。僕がいたら、ダメなんだね。僕が全部悪いんだ。じゃあ、こうしよう」
「…………」
「僕は、元の場所へ戻ってヘリを待つ。君はこのまま行ってくれ。それが一番の方策で、おそらく君の最善の方策だろうね」
俺は、何も言えなかった。
このまま戻ると言って、何になるのだろうか。馬鹿じゃないのか、そう思った。
「幸運を祈るよ、鈴木くん。ああそうだ、僕の水と食料は置いていこう」
「なんでだよ?」
「実は、機内に少し食料を残していたんだ。持ちきれなくてね。僕はあれを飲み食いするとする。だからこれは君にあげるよ」
隠していたのか。
俺は本気で、佐藤が許せなくなった。
「ああ、遠慮なくもらってくよ。せいぜい達者で死ね、佐藤。俺は、生き残ってやるからな」
「そうするといい。……頑張って」
佐藤はそう言い残し、来た方向へと向かって去っていった。
俺は彼など見向きもせず、逆方向へ歩き出す。
「あああ、別れられてせいせいした。もうあの太っちょと話さなくていい。水も食料も増えた。最高だ、最高じゃねえか」
しかし俺は気づいていた。
それが、本心じゃないことくらい。