10:砂漠に散る
目が覚めると、そこは広大な砂漠であった。
「なんだ、夢か……」
そう呟いて、俺はゆっくりと身を起こす。
立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。空腹と疲労は癒えぬままなのだ。
俺はふと夢を思い出した。
佐藤と出会い、話したことははっきりと記憶している。そして彼は言っていた。
――いつか眠るのならば、今がその時なのだと。
彼は、俺を生かそうと思っているのだと信じ込んでいた。
けれどもう今は、彼の言う道しかない気がした。俺はすっかり元気も正気も生気も失っているのだから。たとえ日本に帰れたとして、精神病院に押し込められるのが関の山だろう。
もうこんな俺に生きる価値なんてない。
今まで、死んだ佐藤のために生きようと踏ん張っていた。しかしもし、彼が俺が苦しみ続けるのを望まないのだとしたら――。
俺は、震えながら決意をした。
舌を前へ突き出す。砂に汚れてざらざらな、白い舌を。
そしてそれを思い切り――噛み切った。
言葉にできないほどの激痛。それだけで意識が引き摺られる。
ああ、これでようやく。
俺は星の王子様の話を思い出す。
確か彼は砂漠に不時着した飛行機パイロットと居合わせて、様々な星の話をする。そして「帰るけど体が重たいから」と言って、毒蛇にわざと噛まれて死んだのだったか。
俺も魂が軽くなれば、日本に戻ることができるのだろうか。それとも佐藤の言う通り全くの無に帰すのだろうか。
わからない。わからないが、もう終わりが近づいていることだけが知れる。
視界がチカチカする。頭が痛い。全身が熱く、そして急に冷たくなり――。
俺は、死んだ。
数日後、砂漠にヘリがやってきた。様々な情報を元に、やっとこさ辿り着いたのである。
捜索隊は飛行機の中から乗客ほぼ全員の亡骸を発見した。しかしたった一人の亡骸だけはどこを探しても見当たらない。捜索隊は諦めて、砂漠を去っていった。
残す一人の死体は、砂に埋もれて今日も砂漠のどこかに眠っている。
誰にも見つからないままに、体は溶けて骨になる。骨になっても尚見つけられずに、やがて砂に散るのだった。
《完》
ご読了、ありがとうございます。
見直したら本文完結の後にあらすじを乗っけてしまっていました。はずかしい。
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たとえあなたが亡き人だとしても
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