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01:たった二人きりで

「――俺たち、これからどうなるんだよ」

「さあ。僕にもわからない」

 広い広い砂漠の中、そう言って俺は蹲っていた。

 隣では小太りの男――佐藤が、困ったように首を振っている。

 周りには誰もいない。たった二人だけである。傍に、片翼が折れ壊れた飛行機だけが転がっていた。


 俺たちは友達同士で久しぶりに会い、旅行を楽しむはずだった。

 飛行機に乗り、空旅へ。

 が、その道中突然、機体から煙が噴き出したのだ。

 明らかに故障だった。

 機内は大騒動となって乗員はあたふたと動き回り、乗客は悲鳴をあげたり暴れまくったりする始末。

 俺たちも戸惑い、どうすることもできなかった。

 パラシュートが用意され、皆で飛び降りることになった。俺と佐藤は運よく早々と脱出することができたが、さらに不具合が生じたらしくその他の乗客・乗員が取り残されたままで飛行機は墜落し、今の半壊状態というわけだ。

 二人だけパラシュートで降りた俺たちは助かったものの、そこは一面の砂漠だった。

 助けを呼ぼうにも、電話を置いてきてしまった。それに電波がないからとてもとても電話ができる状態ではないだろう。そうして俺たち二人は膝を抱えていたのである。


「いつまでもこうしてても仕方ねえだろ。佐藤、何かいい案考えろよ」

 俺の無理難題に、佐藤は「うーん」と首を捻る。

「僕に言われてもねえ。僕としては、飛行機の中を一度漁ってみるくらいしか思いつかないかな」

「あんなバラバラの飛行機の中に入るのか? 何のためにだよ」

「当然。食料がないか調べるのさ。残っていたら儲け物だよ、鈴木くん」

 鈴木とは俺のことである。

 俺は、彼の意見にあまり賛成ではなかった。

 が、他の案が思いつくわけでもない。今は佐藤に従うしかなかった。

 壊れた飛行機の中へ足を踏み入れた。

 汚臭が漂い、思わず顔を背けたくなるような光景を目の当たりにした。

 ぐちゃぐちゃになった死体、血まみれで助けを求めるように身を乗り出す死体、座席の下に隠れようとしたのか潰された死体、死体、死体、死体、死体、死体。

「ぐぇっ、ぐぇっ、ぐぇっ」

 俺は呻き、えずいた。

 気持ち悪い。反吐が漏れそうなのを必死に我慢した。

「当然か。乗客乗員三百人、そのうち二人しか生き残っていないんだ。地獄絵図は想像していたけど、ここまでとはね」

 意外と平気な顔で、佐藤はそう言いながら飛行機の中を物色し始めた。

 一方の俺はとてもとてもそんな気分になれず、顔を覆って外へ飛び出した。


 待っていると、佐藤がようよう帰ってきた。

 その手にはお菓子やら少量の水やらが抱えられている。

「あったよ」

「そうか」

「死体の中に埋もれてるようにね。これなんか、ちぎれた女の子の手が握っていたんだよ」

 嬉しそうな顔をされても、俺は怖気がするだけだった。

 あんな中を、よくもまあ生還できたものだ。佐藤はかなり肝が据わっている……というより異常なのだということがわかった。

「食べようぜ」

「うん。でもあまり食料は多くないから、控えないといけないよ?」

「わかってら」

 簡易の食事は、うまくもまずくもなかった。

 もしかすると実際は美味しかったのかも知れない。が、そんな感覚は麻痺してしまうくらいに心のショックが大きかった。

 腹が膨れると、俺たちはまた砂の地面に座り込んだ。

「もうここにきてから、何時間ぐらい経ってるんだろ。……助けは来ねえのかな」

「さあ。でも恐らくはすぐに見つかると思う。だって運行ルートの真下なんだ。誰も通らないはずがないよ。僕らが助け出されるのも、時間の問題だ」

「……本当に助けがくれば、いいんだけどな」


 風に乗って、血生臭い匂いが鼻をくすぐる。

 それと共に巻き上げられた砂が、沈みかけの太陽に照らされながら宙を舞い踊っていた。

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