3話 蒼色に染まる羽根
その羽根はただそこに落ちていた。
風に吹かれも、飛ぶことはなくそれはあった。
それは俺の手のひらに収まる約10㎝ぐらいの大きさだった。
「……すごい初めて見た」
驚いているニーナさんの発した言葉と同様に俺も驚いている。
「これ、拾ってみて」
そう言われ、しゃがんで優しく手に取った。予想していたよりも軽く、蒼色の羽根に目を輝かせた。
「これも供物の1つなの、ベルトポーチにある瓶にやさしく入れてみて」
供物という単語を聞き、さらにテンションが上がる。
ベルトポーチにある瓶の1つを手に取り、蓋を開け羽根をそっと入れ、蓋をする。
日光に当てられ、瓶の中の羽根はさらに蒼色に光って見えた。
「これはゼニスレイブンっていう鳥の羽根で、めったに見ることのできない鳥で有名なの」
この供物の事について教わる。
「ゼニスレイブン」
ふとその名を呟く。
「私も見たことはないんだけどね、一度は見てみたいな~」
ニーナさんが見たことのない綺麗な羽根を持つこの鳥を見ることができるのだろうか?一度でもいいからゼニスレイブンを見てみたい。そんな期待に胸を膨らませる。
「それじゃあ、今ここで精霊魔法について教えてあげる」
「やった!」
ついに精霊魔法について教わることのできる喜びが隠せない。
近くの木陰に入り、精霊魔法についての話が始まる。
「まず、精霊魔法っていうのは前に話した通り、供物と呼ばれるものを精霊に捧げることで発動する魔法の事なの。供物に捧げる物は何でもいいってわけではなく、ちゃんと選ばれた物を捧げないといけないの。少し周りの物を目を凝らして見てみて」
そう言われると俺は辺りを見渡す。暖かい日差しが道を照らし、木々の葉が心地よい風によって爽やかな音を奏で、鳥は空を飛び、今自然の中にいることを改めて実感させられる。しかし…
「……わかんないです」
「全体を見ながらもう少し目を凝らしてみて」
見えないことを伝えるとさらに目を凝らすように言われる。
もう一度、周囲を見渡す。今度はさっきり見てみる。すると道を挟んだ向かいの木の下に落ちている木の枝の周りが一瞬、薄緑色に見えた気がした。その枝に指を差し
「もしかして、あの木の下に落ちている枝って供物ですか?」
「おー、正解。供物だよ。取っておいで」
ニーナさんは拍手しながら指示をする。自分は小走りで枝を拾い再びニーナさんの元に駆け寄る。
「その枝は供物で、精霊魔法を使うためにはとある言葉を詠唱をする必要があるの。その言葉は精霊に捧げるという意味を込めて、サクリファイスっていうの。供物を直接触る、もしくは供物の入った瓶に手をかざして唱えることで魔法が発動するの」
なるほどと思いながら唱えようとすると、続けて言われる。
「この時に大切なのは、感謝をすること。魔法を使わせてもらうという気持ちをもって唱えないと精霊に応えてもらえず、魔法が発動しないの、やってみて」
その話を聞き、俺は枝を持ったまま目を閉じ
(精霊さん、魔法を使わせてください)
と念じながら唱えた。
「サクリファイス」
次の瞬間、持っていた枝は探した時に見えた薄黄緑色の光が強まり形が変化した。
その枝は形状を変え、子供が持つには丁度良い大きさの木製の剣になっていた。
「「おーー」」
俺は枝が変化した事に驚き、ニーナさんは一回目の詠唱で魔法が発動したことに驚き手を叩いて拍手している。
「供物によって使える魔法は変わるの。今回、グレンが拾ってきた枝は剣の形に変化したけど、他の供物ではまた違ったものに変化するの」
剣を見終わった俺は、真面目に話を聞く。
「石や水、木といった自然の供物には剣や盾といった武器系に変化する物が多く、生命に関わる供物には移動などが楽になる回避系、変化系といった物になる事が多いの。そして、全ての供物には使用回数ていうものが存在するの。自然の物より生き物に関わる供物の方が効果が大きく使用回数が多いの。」
その説明が終わった少し後に木製の剣が元の木の枝の形に戻った。
「あっ!」
「自然の供物は一定時間を過ぎると元の形に戻るの。その木の枝はもう二回が限度かな?使用回数を超えると供物は朽ちて消えてしまうの。ただし、覚えておいて。今までの説明が基本だけど、全ての事には例外が存在するってことを」
その言葉を聞き、疑問を覚えた。
「例外ってなんですか?それに使用回数ってどうやったら分かるんですか?」
少し間を置いて
「ん~。例外はその時になったら教えてあげる。使用する供物も特別な物になるから。供物の使用回数については供物の色の強さを見て判断する方法とあとは……慣れていくしかないのかな」
ニーナさんはそう言って魔獣の討伐に行こうと合図をする。
自分はまだあと二回使うことのできる木の枝を持ったまま歩き出した。
(……そういえば、ゼニスレイブンの羽根にはどんな効果があるんだろう?鳥の波根だから空を飛べるのかな?また今度試そう)
使う機会を楽しみにしていたが、その時は唐突に訪れる。