無能な自分
「貴方には失望しました。」
母親のこの一言で自分の人生は大きく変化した。
貴族の身に生まれ、今まで裕福な家庭で育ってきた。
魔法が存在する世界で魔力適性を行う10歳となった日にその言葉は告げられた。
国では、10歳になると古代遺物【アーティファクト】である水晶にふれ魔法適正を行うようになっている。
水晶に写った色によってその人の魔法属性が判別できるのだ。
赤色なら火属性。水色なら水属性。緑色なら風属性。黄色だったら雷属性といったように、4つの属性に分類される。
しかし、自分がその魔法適正を行った結果、水晶には何の変化もなく無色透明なままだった。
変化をしない水晶に焦り、自分は目一杯魔力を込めようとしたが結果は変わらなかった。
それを見ていた監督者が静かに母親に対して語りかける。
「……残念ながら、結果から申しますと、お子さんはどの属性にも属さない無能力者ということになります」
不幸なことに、その気を張った静かな声は俺の耳へと届いてしまった。
貴族で魔法が使えない人間は今までに聞いたことがなかった。
しかし、今まで通りの生き方をしていこうと思っていたが、取り乱した母親のその後の対応は今までの愛情とは真逆のものとなっていった。
必要以上に自分を避けるようになり、従者や周りの者からも陰口を言われるようになった。
そんな日々が長く続くわけもなく、そんな無能である自分にとうとう終わりの時が訪れた。
両親が自分の存在を亡き者にしようと殺害する計画を企てていたのであった。
殺害を命じられた従者達によって追われ、自分は急いで屋敷を飛び出した。
戸惑いもあったがいずれこんな日が来てしまうのではないか、そんな思いは抱いていた。
幼いころから屋敷周辺で遊んでいたこともあり、屋敷周辺には土地勘があった。
追っ手を撒くのは容易だったが、もっと遠くに逃げなければ危ないという感覚が脳裏をよぎりひたすら森の中を走った。
……もう何時間走ったかわからない。
暗かった森の中に朝日が差し込み始める。
無我夢中で走り続けていた。荒くなった息を整えるために途中、歩くことをしていたがその時に体の至る所に痛みがあった。
朝日によって照らされた自分の体には、木々の枝で手や足に引っ搔いた跡があり、場所によっては血がとまらないところがあった。
しかしそれでも歩くことを辞めず、前に進み続ける。
(もっと遠くに逃げないと‼)
そんな思いを胸に、また走り始めた。
(俺は、何のために走っているんだ?もうあきらめてしまうか?なんで、あの時に魔法適正で変化しなかったんだ?)
走りながらも、いろんな思いが脳内で交差する。何回、日が昇り沈んだのかも分からなくなってきた。
勢いよく駆けていた足も、寝食も行っていなかったこともあり今はもう無言で歩き続けている。
辺りは暗くなり、歩幅は小さくなっているがそれでも歩みはやめない。
そんな俺の体は限界を迎え、視界が霞み始め意識も薄れ始めた。
倒れないように木に手をつき、1歩1歩進んでいく。
その時、視界にふわふわと漂う淡い蒼色の光が見えた。
無数の光は幻想的でつい足を止めて眺めていた。
その色に心地よさを感じ、彷徨うその光が向かう方向へもう一度歩み始めたが、次第に意識が遠くなり、俺は地面に倒れ込んだ。
この作品を読んでくださりありがとうございます。
こまめな投稿を心がけていくつもりですが、気長に楽しみにして待ってもらえれば幸いです。