金のバール
昔々、郊外の閑静なベッドタウンに、40歳くらいのおっさんがいました。
おっさんの両親はそれぞれ大企業の役員をしている上に、不動産も多数保有していて結構なお金持ちだったので、おっさんは別に働いていませんでした。
両親は結婚する気も無さそうなおっさんに文句を言いましたが、おっさんはその度にうまい事話をはぐらかしていました。
それどころか、おっさんは新しい事業を始めるなどと嘯いては両親からお金をたかり、自分用の巨大ロボットを作ってブンドドしたり、地下室を作って暗闇に一人佇んだり、マイナーVtuberのスーパーチャットにウン10万つぎ込んで驚く様を見て楽しんだり、アニメ会社に大金を払って自作小説をアニメ化して貰ったり、ボランティア感覚でエッチじゃないパパ活をしたりしていました。
そんなおっさんが高級フレンチに貧乏な女子大生を誘い、パパ活をしていた時の事です。おっさんは困っていました。お相手の女子大生はアニメも映画もあまり見ないとの事で、共通の話題が全くなかったのです。
仕方ないので、おっさんは昨日あった不思議な出来事を話すことにしました。
「昨日さー。俺ため池の近くで金のバールで素振りしてたんだけどさぁ……」
「はい」
「その時手が滑っちゃって、バールが池に落ちちゃった訳よ」
「はい」
「そしたら池から女神が出てきて、『あなたが落としたのはダイヤのバールですか? それともプラチナのバールですか?』つったのね」
「はい」
「俺は正直に純金のバール落としたっつったら、スゲー褒められてダイヤのバールとプラチナのバール貰えたんよ」
「そうなんですか」
「うん」
女子大生は帰り際におっさんから例の池の場所を聞き出すと、百均でミニバールを買いました。
彼女は奨学金が返済できるか不安な上に、バイトの収入も心もとないので、お金が欲しくてたまらなかったのです。
そして女子大生が溜め池にミニバールを投げ捨てると、池の底から女神が出てきました。
「あなたの落としたのは、この木のバールですか? それとも鉄のバールですか?」
「えっ……」
「あなたの落としたのは、この木のバールですか? それとも鉄のバールですか?」
「えっと……普通にちっちゃい百均のミニバールです」
女子大生は、何か話が違う気がしましたが、一応正直に答えました。
すると女神は微笑みました。
「素晴らしい! あなたは正直者ですね。褒美としてこの木のバールと鉄のバールをプレゼントしましょう」
「えっ……いや、ちょっと、話が違うんですけど……」
「話が違うとは?」
「いや、この前バールを落としたおっさんはプラチナとかダイヤのバール貰ってたのに……」
「はぁ」
「どう考えてもおかしいですよ……親の金で何不自由なく生活してるキモいおっさんがプラチナとかダイヤで、頑張って勉強してそこそこの大学入った貧乏学生の私が木と鉄ってのは……理不尽です」
「おかしいも何も、私は平等に褒美を与えるだけです。あのおっさんにとってのプラチナとかダイヤは、あなたにとっての1000円くらいの価値しかありませんので」
「……そんなに」
「そんなものです。まあ木のバールは正直ゴミですが、鉄のバールはメルカリとかで売ったら1000円くらいにはなると思いますよ。良かったですね」
「はぁ……」
「何ですかその顔は」
「理不尽ですよ……世の中おかしいですよ……まともな彼氏はできないし……エリも酷いし……奨学金も大変だし……教授もウザいし……あなた女神なんだから何とかしてくださいよ!」
「……私はただ暇つぶしでボランティアやってるだけです。別にあなたの事には何も責任持てません」
「そこを何とか……女神様……」
「しつこいですね。あのおっさんが落とした金のバールやるからとっとと帰ってください」
それから女子大生は金のバールをメルカリで売りましたが、実は金メッキしてあるだけだったので規約違反で垢バンされました。