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ウサギとカメとチーター

「ウサギさんは、足が速くてすごいッスよね」


「そうかな? でもカメさんも、甲羅が固くてすごいよねぇ」


「まあ、普通ッスけどね」


「ふーん。……まあねぇ。そういやさあ、ずっと気になってた事があったんだけど……」


「何スか? 何でも聞いてくださいッス」


「いや、カメさんって、脚の速さはどんくらいなのかなーって」


「…………」


「あ、ごめん。気にしてた? だって、何でも聞いていいって言うから、つい聞いちゃった! ごめんね!」


「いや、別に……」


「あ、別に気にしてないんだ! じゃあ聞いていい? ちょっと僕興味あってさあ! カメさん足の速さどのくらい? 流石に秒速5センチメートルくらいはあるよね? ……あっ無かったらごめんね! ほんと、ずっと気になっててさあ!」


「…………」


「何その顔? ……あっ……やっぱり気にしてた? ごめんねー!」


「別に……」


「ふーん! 別に気にしてないんだー! へー!」


「…………」


「へーー! ウププププ……!」


「……てめぇこの野郎」


「なになに? もしかして、冗談で言ってるのにガチギレしちゃった? 別に全然怖くないけど?」


「1年後だ」


「なに?」


「一年後、俺とかけっこで勝負しろ」


「別に全然いいよ! カメ君がいくら努力しようが、億が一も僕が負ける訳が無いし!」


「憶えてろよ……耳長野郎……絶対に後悔させてやる……!」


「いいねぇ! その意気で精々頑張って無駄な努力をするといいんじゃないかな!」


 それからというもの、1年後のかけっこ勝負に向けて、カメは必死で猛特訓しました。


「ひっひっ……フーフー」


 地獄の3メートルシャトルラン、100メートルジョギング。

 これらを雨の日も日照りの日も、毎日3セットこなしました。

 その上、カルシウムの摂取を最低限にする事により甲羅の軽量化を図ったり、おやつの川エビを控えたりと、食事内容も見直しました。

 その甲斐あって、カメは半年掛けて、秒速15センチメートルくらいで歩けるようになりました。


「すごいッスよ! カメ先輩!」


「マジモンの天才や……正に爬虫類界の稲妻やでぇ!」


 友達のナメクジやカタツムリは褒めてくれましたが、カメは全く満足しませんでした。


「まるで足りねぇ……あの丸尻尾野郎の耳を明かすには……全く……」


 カメはさらにセット数を増やし、必死にトレーニングを続けました。

 ……しかし、時の流れは残酷です。

 カメの速さがウサギの速さに到底及ばない現状のままに、運命のかけっこ勝負の日がやってきてしまいました。


 スタート地点に憮然とした面もちで佇むカメへと、ウサギがピョンピョンと跳び寄ってきます。


「チーッス! カメ君久々だねぇ!」


「……ッス」


「僕最近全然トレーニングしてないから不安だなぁ! ま、お互い全力を出して頑張ろうよ! あっ、もし負けちゃっても、あんまり気にしなくていいからね! ……こういうのは結果じゃなくて、努力する過程が大切っていうし! ほんと、全く気にする必要ないんだよ! 例えどんなにボロ負けしてもね……!」


「…………」


「あっ、ごめん! 怒っちゃった? ごめんごめん! そんなつもりじゃなかったんだけど!」


「殺す……!」


「ウププ……ウプププププ! ごめんってもう!」


「お前だけは……許さない……絶対に……!」


「まあ精々頑張ってねー! ウプププ!」


 そして、スターターピストルの紙火薬が破裂音と共に弾けました。


 スタートダッシュを決めたのはやはり、ウサギでした。


「ヒーッヒー……フーフゥ……」


「カメ君! お先に失礼するねー! ゴールでまた会おうね!」


 必死で足を動かすカメを尻目に、ウサギは凄まじい速さでゴール目掛けて飛ぶように草原を跳ねていきました。


 それから、10分ほど経った頃です。


「ウーン……ムニャムニャ……ニンジン美味しいなあ……」


 カメにとって、千載一遇の好機がやってきました。

 調子に乗ったウサギは、木陰に寝そべって昼寝をしていたのです。


 ――しめた! この勝負勝てる!


 カメは全力でペースを上げて、必死の思いで短い足をばたつかせます。

 そしてゴールテープの10メートル手前まで差し掛かった時……


「あのさあ……もしかして、勝てると思った?」


「――ぐっ!?」


 カメの傍を、ウサギが駆け抜けていきました。

 ウサギは余裕をぶっこいて後ろ跳びしながら、ニタニタ顔でカメに語り掛けます。


「ほんと、馬鹿だよねぇ。カメの分際で、ウサギに勝てる訳がないのに、必死で無駄な努力しちゃってさぁ! 寝てるから追い越せるとでも思っちゃったのかなあ……タヌキ寝入りに決まってるでしょ! そんな都合よく天才は怠けてくれないんだよ? 馬鹿だねぇカメ君は! ……ウププププ!」


「ヒイイイイフウウウウゥ……ヒイイイイィ……フウウウウウゥ……」


「ウププププ! じゃあ、もうそろそろゴールだし、特別に僕の本気の走りを魅せてやるとするか! 感謝してくれたまえよ! 圧倒的才能の違いって奴を、君の小さな脳みそにしっかり焼き付けさせて、二度と無駄な努力しなくて済むようにしてあげるから!」


 そしてウサギが全速力で草原を跳び跳ね、ゴールテープを切ろうとするその瞬間、


「――なっ!?」


 ウサギの傍を一陣の風が通り抜けました。


 ゴールテープを切ったその斑点模様の陰は、チーターでした。

 チーターは遅れてゴールしたウサギとカメを見下しながら、白々しく嗤って見せました。


「あれ、何その顔。俺なんかやっちゃった?」


「…………」


「あ、ごめん! もしかして競争か何かしてた? いや、何か運動会みたいなパーンって音がしたなーって思ったから、何となく見に行ってみようかなと思って軽く走ってたんだけど、迷惑だったらごめんね!」


「……別に」


「あれ、なんか不機嫌そうだけど、……ウサギ君、どうしたのかなぁ? もしかしたらだけど……格下相手にイキってたら井の中の蛙っちゃたのかな?」


「違うし……」


「ああ、違うんだ! 違うなら別にいいけど! ただね……もしウサギ君が自分の才能の無さ棚に上げて、人の努力を馬鹿にするような最低の事をしていたとしたら、ちょっと現実見せてあげようかなって、そう思ってね! ほんとそれだけの話だから!」


「……うるせぇ! ちょっと足が速いから何だってんだよ……! てめぇ……! 調子に乗りやがって!」


「あれ? 怒っちゃったかな? ま、別にいいけど」


「るせーし! 長距離なら負けねーし! 持久力皆無の癖によぉ! 耐久力とかカメ以下だろ! 雑魚が……!」


「えっと……それ気にしてるんだけど……」


「うるせーんだよ糞が! ちょっと足が速いからってイキってんじゃねーぞ! このガリガリモヤシ野郎が!」


「えっと……もしかして、今僕の事……ガリガリモヤシ野郎って言った?」


「そうだよ! お前にお似合いのニックネームだろ? 雑魚ガリモヤシさんよぉ!」


 一線を越えてしまったウサギは、怒ったチーターに食べられましたとさ。

 めでたしめでたし。


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