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Own Magic Night  作者: fayth
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【二話】目覚め、安らぎ、名を知る

 ―そこは、まさに大炎熱地獄であった。

呼吸のための酸素すら確保できない。

全身の水分が一気に失われていく。

ありとあらゆるものを火種として燃え盛る。

やがて己の体も地獄の業火の薪となり、炎は果てしなく広がっていくのであった―


 「よう、目ぇ覚めたか」

何者かの声を受け、恐る恐る瞼を開く。

眩い光が一気に網膜を刺激する。

その刺激に思わず情けない声を出す。


「ここは…」


豹は混乱する頭を無理やり働かせる。


「おおっと、じっとしてろよ。まだ完全に治ったわけじゃねぇからな」


そうだ、あの時化け物に襲われて、女の子に助けてもらったと思ったら謎の光がこっちに飛んできて…。


思想に耽り、無意識的に体を起こす。

その刹那、身体の内側を高熱が押し寄せる。


「があっ!!!」


あまりにも唐突な痛み。

豹は再びベットに倒れざるを得なかった。


「だから無理すんなって言ったのによ」


息を整え、痛みを和らげることに必死な豹の前に声の主は腰を下ろした。


「あの嬢ちゃんが暴走する魔力をどうにか中和してくれたとはいえ、お前さんの体の中は相当めちゃくちゃになってる。回復魔法の効き目が出るまで大人しくしとけ」


自分の体の状態を身をもって理解した豹は、大人しく横たわり、辺りを見回した。

明らかにあの森ではない。

しっかりとした床や天井。整えられた家具。どこからか聞こえてくる賑やかな笑い声。

陽気な雰囲気を醸し出すこの空間に、ようやっと心の平穏を得た。

辺りを観察し、目の前に座る男の方を向く。

鍛えられ、見事に引き締まった体に金色の長髪。

背中に背負っている巨大な斧。

どうにもあの大男を連想させる。


「もしかして、森の前で会った…」


「おお。お前さん、やっぱりあの時逃げてったあんちゃんだったか」


どうやら記憶違いではなかったようだ。


「あなたが、僕を助けてくれたのですか」


喉にまでこみ上げてくる熱気をどうにか我慢しながら言葉を繫げる。

怪物から出てきた謎の物体が体に入ってから今まで一切の記憶が存在しない。

誰かが自分を保護し、この場所まで送り届けてくれたことはまず間違いない。

なら、探して感謝の言葉を伝えなければ。


「俺らは倒れたお前さんをここまで運んだだけさ。礼ならあんたの命を救ったウラリスの嬢ちゃんに言ってやってくれ。まぁ。もうどこか別の街に行っちまったようだが」


目の前にいる男と「ウラリス」という少女が恩人らしい。


「本当に、ありがとうございました!」

「それと、あの時は咄嗟に逃げてしまい、すみませんでした!」


全身全霊の感謝と謝罪を伝える。

男は一瞬面喰った顔を見せたが、すぐに豪快な笑い顔へと変じる。


「いいってことよ!確かに、こんないかにもな人相のやつがでけぇ斧ちらつかしていりゃあ、そら誰だって逃げるわな!」


男の笑顔につられ、自然と自分の顔からも笑みが零れた。

こんなにも安心した気持ちになれたのは、この世界に来てからは初めてだった。


「俺はレアヌスっていうんだ。お前は?ここいらじゃ見ない顔だな」


「僕は豹、あられといいます」


「アラレか。いい名前じゃねぇか!よろしくな、アラレ!」


そう言って差し伸べられた傷跡だらけの大きな手を、色白い手が握った。


「お前さん、そういやなんであの森にいたんだ?あの蛇が現れてから高ランクの冒険者じゃねぇと近寄るのはあぶねぇってギルドの連中が散々言ってたが」


「いやっ、それは…その……」

どうする!?なんて説明するべきだ?

そもそも自分自身、何でこんなとこにいるのかわからないし、ここがどこかもわからない。

ただ一つ言えることは、今自分がいるこの場所は自分の知らない、全く未知の世界であるということだ。

しかし馬鹿正直に「何も知りません」なんて言える訳もない。明らかに怪しまれる。

しばしの長考の末、豹は重い口を開ける。


「実は、どうして自分があそこにいたのかわからないんです」


「何?」


「それに、その前も自分がどこで何をしていたのか、どこに住んでいたのかも思い出せなくて…」


豹がとった選択は「記憶がない」と説明することだった。

この場所まで来た記憶は確かに豹の脳内に存在しない。

だが、すべての記憶が無くなっているという訳でもない。

ある意味正しく、ある意味間違いであることは発言した本人も理解していた。

そして、この答えは目の前の恩人を騙してしまうことも。

だが、豹にはこれが最善の答えであった。


「記憶がねぇ…。つまりこの街のことも、自分の生まれも、魔法の適正なんかも全く覚えてねぇのか?」


レアヌスは眉間の皺を更に深く刻ませながら訊ねる。


「…はい」


豹はレアヌスの視線を真っ向から受け止める。


「そうか・・・」


レアヌスは先程までと打って変わり、神妙な面持ちで考え込む。


「よしっ、アラレ。当分は俺が面倒を見てやる」


「えっ」


唐突なレアヌスの提案に豹は動揺を隠せない。


「それは、どういう…?」


「だってお前さん、頼りに出来そうな伝手もなけりゃあ、自分を守る力もねぇわけだろ?」

「そんな奴放っておけば路頭に迷うのは目に見えてる」

「だから、記憶が戻るまで生きていられるように少しばかり協力してやろうってことさ」


「でも、僕を助けたってレアヌスさんに利益なんて」


「いいってことよそんなもん!ここで知り合ったのも何かの縁だ!気にすんな!」


そう言ってレアヌスはその大きな手で豹の背中を叩く。

叩かれた背中がまるで燃えているかのように熱を持つ。


「いったあぁぁぁぁぁい!!!」


この怪我が治るのはもうしばらくかかりそうだ。

今回は主人公を助けてくれた存在である「ウラリス」と「レアヌス」という二人の人物の名前が明かされました。

今後二人は主人公にとってどのような存在となっていくのでしょうか…。

次回は主人公のいる街と話の中で少しだけ出てきた「魔法」について書いていこうと思います。

興味があればぜひ次の投稿をお待ちください。

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