表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

オタサー課外活動2

 


 サークルメンバーと一旦解散した俺と桜井さんは2人でアニメジャポンを回っていた。

 先輩達の姿が見えなくなった瞬間、桜井さんの上がった口角は一瞬で下がり不機嫌モードに突入した。

 俺の方を睨みつつクソデカ溜息をついている。女子を1人にしないように気を使ったつもりなのに余計なお世話だったのだろうか…。


「桜井さんの行きたい企業ブースってどこ?俺も一緒に見ようと思うんだけど…」

 先程、行きたいところがあるからと先輩の誘いを断っていたし俺は特に行きたいところがある訳では無いためついて行こうと思った。

 しかし桜井さんから帰ってきた返事は意外なものだった

「…ないわよ」

 ん?聞き間違いだろうか?

「ナイワヨ?どこのブース…」

「だから!行きたい所なんて特にないって言ってんの!」

「でもさっき行きたいブースがあるから誘われたトークショー断ってたんじゃ?」

「…ムカつくのよ」

 俺の事だろうか?何もそこまで嫌わなくてもいいじゃないか。

「ムカつくのはあんたのことじゃないわよ!あんたはまぁ、ムカつくっちゃムカつくけど」

 なんだかよく分からないが俺に対してキレているのではないらしい。

「私みたいな美少女がいるっていうのに!なぁ~~~にが女性声優見に行こうよ!デリカシーの欠片もないわね!あいにゃんだっけ?私の方が可愛いんだからっ!!!マジでありえないし!」

 すれ違う人が振り返る様な声量で…若干俺も引いている…が、あいにゃんなる声優は確か俺達と同年代の若手女性声優だったと思う。

 アイドル声優として売り出されているため深夜アニメのCMでシングル曲のMVが流れているのを見たことがある。

「あぁ~確かに桜井さんの方が可愛いね」

 あいにゃんを思い出して特に他意はなく出た言葉だったのだが、桜井さんは目を見開いて若干顔を赤くさせている。


「は、は、はああああああ!?!?!?えっ…私の方が…可愛い?ほん…ほんとにぃっ???」

 めちゃくちゃ動揺して噛み噛みだ。

「え?うん。桜井さんの方が可愛いと思うよ。俺の主観だから当てにならないと思うけど…」

 桜井さんがさらに赤くなる。

「ま、まぁ!そうよね!私の方が可愛いわよね!声優だからってチヤホヤされてるだけよ!私の方が可愛いし!」

 私の方が可愛いって2回言った…

 しかし先程まで今にも噴火しそうな火山のようだった桜井さんが心無しか和やかな表情になった気がする。


「まぁ、そんなこと言って機嫌取ったって…今更付き合ってなんてあげないけど!」

「そんなこと考えてな…」

「でも…見る目はあるじゃない。」

 口調は上からというか怒っているようにも聞こえるがなんだか嬉しそうでテンションも高い。

 機嫌を直してくれて良かった。

「じゃあ…とりあえずどこか回ろうか?」

「そうね。でも私はチヤホヤされる声優と私以外の女を持て囃すオタクを見たくないだけだったから特に考えてなかったんだけど。」

 ううむ。言葉の端々に声優への悪意を感じる。桜井さんは声優に親でも殺されたのだろうか?


 目的もなく会場の壁際に立ち尽くしていると去年の覇権アニメ『魔法少女☆りりぽん』の主人公リリー…のコスプレをした女性が歩いていた。

 片手に紙袋を持って歩いているところから多分、一般参加者だろう。周りを見渡すとコスプレをしている人がちらほらいる。


 しかしリリーのコスプレイヤーはウィッグや小道具、男の俺はよく分からないが目の色や眉毛の形など全てがアニメのリリーそのものだった。

 俺が見とれていると隣の桜井さんがボソッと

「リリー…本物みたい…」

 と呟いていた。



 俺はふと思い出しパンフレットを取り出して、今一度読み返してみた。

 …これだ!

「ここからすぐ近くにコスプレ衣装のメーカーが出店してるらしいから行ってみない?」

「は?あんたがコスプレするの!?」

 桜井さんが汚いものを見るような目を向けてきた。

「違くてっ!桜井さん興味あるかなって!…俺も見てみたい…かも…」

「はぁ?あたしのコスプレが見たいってこと?キモっ!!!変態じゃない!!!」

「そうじゃなくて!コスプレ衣装を実際に見てみたいなって!」

 たしかに桜井さんのコスプレも見てみたい…と思うがここは黙っておく。

「まぁ、どうせ暇だし行ってもいいけど?」

 渋々ながら了承してくれたみたいだ。俺達はパンフレットを片手に歩き出した。




 目的のコスプレの企業ブースは3分も掛からずすぐ近くにあった。

 ブースいっぱいにコスプレ衣装やカラフルなウィッグが展示されていてコスプレイヤーのお客さんも多く賑わっていた。

 少し気になるのは…女性客が大半であることだ。

 衣装もレディースのものが多く何となく近寄り難いオーラを感じてしまう。


「なにしてんのよ?見に行くわよ!」

 ブースを前に怖気付いていた俺の腕は桜井さんに引っ張られている。

 …女子に触られたの初めてだ。

 赤くなる俺をよそに桜井さんはブースの中へどんどん入っていく。

「このコスプレすごい!可愛い!」

 展示されていたのは去年人気だった学園系アイドルアニメの衣装だ。

「これ音ゲーでも人気だったよなー。」

 俺も受験期の息抜きにちょろっとプレイしていたりしたし、なんならクラスのリア充グループも大音量でプレイしていたりと一般層にも割と認知度が高いアニメだと思う。



「すごく良い生地ね…作りも本格的だし…って高っ!!!」

 値札を見た桜井さんは驚きの声を上げて生地を撫で回していた手をパッと離した。

 つられて俺も値札を見てみたらなんと3万7000円と書いてあり2度見してしまった。


 思いの外大きな声を上げてしまった俺たちの元に、ここのブースの店員らしき人が近寄ってきた。

「お客様。こちらの商品は高価ではありますが原作にとても忠実に作ってるんですよ!ご試着もできますのでよかったら…」

 店員は桜井さんに試着を勧めた。

「いや~流石に3万は厳しいので…素敵な衣装ですけど遠慮しておきます…」

 確かに購入する気がないのに試着するのはアレだから賢い判断だと思う。

 しかし店員は引かない。

「こちらの作品、アイドル衣装とは別に学校制服の衣装もあるんですよ~!お値段は7000円とお手頃ですが生地や作りはとてもいいですよ!」

 そういうと別の衣装を見せてきた。



 その制服らしき衣装はブレザーとスカートのみのシンプルなもので生地が本格的なため普通の学校制服だと言ってもギリギリ通用しそうだ。

 …等と考えていたら桜井さんはブースの隅にある簡素な試着ルームに連れ去られてしまっていた。

 これは桜井さんが出てくるのを待つしかないだろう。



 やることが無い俺がソシャゲを始めて3分程経った時、試着筆のカーテンがゆっくりと開いた。

 出てきた桜井さんは…コスプレだということを忘れてしまうくらい制服が似合っていた。

「お客様!とても素敵です!ももたんそっくりでお似合いです!」

 店員が物凄い勢いで褒める。ちなみに『ももたん』とは主人公と同じ学園に通う黒髪ツインテールのライバルキャラのことで、今は長い黒髪を下ろしているがツインテールにしたらウィッグをつけなくてもそっくりになると思う。


「…似合ってなくてもお世辞で褒めなさいよ…」

 言葉を失ってガン見する俺に、桜井さんがぼそっと文句を言った。

「…あ!敵キャラのももたんみたいでいいと思う!制服似合ってるよ!」

「わざとらしいわね!着替える!」

 機嫌を悪くした桜井さんはもう一度カーテンの中に引きこもってしまった。



  元の私服に着替えて出てきた桜井さんは店員にめちゃくちゃ褒められつつガッツリ営業を掛けられていた。

 桜井さんは割とまんざらでもなさそうに話を聞いている。

「先程もご説明しました、こちら上質な生地を使用した本格的なブレザーとスカートのセットで7000円とお得なので…コスプレデビューにもかなりオススメでして…いかがでしょう?」

 桜井さんはかなり迷いながら財布を取り出し中身とにらめっこを始めた。


 ちらっと見えたが樋口さん1枚しかいなそうだったぞ。

 予算が足りないのを察したのか店員は俺にターゲットを変更してきた。

「彼氏さんも先程の衣装すごくお似合いだと思いますよね?」

 …へ?俺は彼氏どころか友達としても扱ってもらっていないんだが…

 というかそんなことを冗談でも言ったら桜井さんが不機嫌になってしまうのではと恐る恐る目線を向けると、なぜか桜井さんは笑顔で俺の方を見ていた。

 なんだか嫌な予感がするゾ?


「あんた…2000円ある?」

「あるけど…」

 俺の答えを聞いた桜井さんはにっこりして、

「じゃあ2000円ちょうだい!」

 聞き間違いだろうか?貸してではなくちょうだい?あげるの?俺が?

「え~~~貸す…のではなく?」

「ちょ~だい!」

 攻防を繰り広げる俺たちに店員がトドメの一言。

「こちらの商品、お客様がご試着されたSサイズは最後の1品です!まだ再販の予定もないので…」

「もう買うしかないでしょ!くださ~い!」



 ということで桜井さん5000円、俺が2000を払いコスプレ衣装をGETした。財布が薄くなってしまった…

 桜井さん曰く、

「まぁ、そのうちなんかお礼するわ」

 との事だが、まぁ期待しないでおこう。

「それ…今着るの?」

 ルンルンでコスプレ衣装の入った紙袋を振り回す桜井さんに聞いてみた。

「はあ?女の子はいろいろ準備があるんだからいきなりなんてムリよ!ていうか買い物の荷物くらい持ってよ気が利かないわね!」

 そういうものなのか。少し残念だ。

 押し付けられた紙袋はしっかりした生地と言っていた通り見た目より重く感じる。



 集合まで適当にブースを回って時間を潰したが桜井さんは終始機嫌がよく鼻歌まで歌っていた。

「ねえ…えっと…高木!」

「えっ?はい!」

 いきなり名前を呼ばれた俺は驚いて変な声を出してしまった。桜井さんに名前を呼ばれるのは初めてだ。

「私が今日買った衣装でコスプレイベントに参加しても浮かないかしら?」

 よく分からないがコスプレイベントとはコスプレイヤーが集まるイベントだろうか?

「あー…そういう系のは詳しくないけど…さっきのは似合ってたし…大丈夫だと思う…よ?」

「じゃあコスプレイベントに参加するからあんたも来て!」

 コスプレイベントに俺が?何をするんだろう?というか俺もコスプレをするのか?

「いやいやいや!俺は…よく分からないし…」

「はぁ?あんたがさっきのコスプレブース行こうって言ったんでしょ?この衣装がタンスの肥やしじゃ可哀想だし、近いうちに調べとくから日程空けといてよね。」

「はい…」

 確かにコスプレブースに誘ったのは俺だったことを思い出し断る言葉が見つからない。

 俺はこの瞬間オタサーの姫のお付きの者としてコスプレイベントデビューが決まったのだった。



 そんなことを話しているうちに集合時間になりサークル員が帰ってきた。

 興奮気味に各々が観覧してきたトークショーやミニライブの感想を語り合うサークル員の口から女性声優の名前が出ても、桜井さんは先程より機嫌が悪くなることもなく安心した。



 全員揃い色々な話をしながら駅に向かって帰る途中、先輩に

「その紙袋…何か買ったのかな?企業グッズ?」

 と聞かれた桜井さんは

「ふふっ…そんな感じです♪」

 と適当に濁していたから、コスプレ衣装を購入したことは他のサークル員には黙っていた方がいいのだろう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ