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姫はあの日の.......

 

「俺の勘違いだったら本当に申し訳ないんだけど…桜井さん、中学生の時俺に手紙くれた…?」

  意を決して桜井さんに質問を投げると桜井さんは数秒考えるような仕草をした後、眉間にシワを寄せて答えた。


「…思い出したんだ。」


  手紙をくれたということは…俺に告白をしてくれたあの大人しそうな子が桜井さんということになる。

  しかし、ひとつ疑問が残る。


  「あの後…もう一度ちゃんと話そうと思って探したんだけど…転校しちゃったよね?それに名前も椎名さんって聞いたんだけど…」

  突然の転校と…改名?

  当時転校したのは俺が振った(と勘違いした)ショックで…?と考えたりもしたが流石に改名まではしないだろう。


  「うちの親が再婚したから。それで引っ越したの。」

  最低限の情報のみ心底面倒臭そうに吐き捨てる桜井さんによると親の再婚に伴って苗字が変わり、引越しの為に転校をしたのだろう。

 そして転校前、最後の登校をした日に俺に告白をしたということだと理解した。


 

  あれから半年、俺は時々椎名さ…いや、桜井さんのことを思い出し「もしあの時勘違いさせるような言い回しをしなければ…」「逃げ出した桜井さんに俺が追いついてたら…」と、たらればの想像を何回もしていた。

 


  今更だが、本当に今更だが

 …誤解を解くことができるのではないか?



  「桜井さん。俺は桜井さんに誤解させてることがあったんだけど聞いてくれる?」

「…何よ?」

  突っぱねられるかと思ったら意外にも聞いてくれるらしい。

 

「俺にその…告白してくれた日にさ」

  なんだか自分でいうのは気が引ける。

  「…ふん」

 桜井さんは相づちというよりは鼻を鳴らすような音で返事をした。反応を返してくれるだけいいとしよう。


「あの時さ…断る気はなかったんだ。嬉しかったんだけどいきなりで驚いて…まずは友達として仲良くなりたいって言おうとしたら桜井さんが走り出して追いつけなくて…」

  上手く言葉を選べた自信はないが、これは俺の本音だ。

 言い終わり桜井さんの顔を見ると口角が下がり、より一層眉間のシワが深くなったように感じた。

 …怒っている。それもかなり。



「…あたしが高校生の時よりまともな容姿になったから今なら付き合いたいってこと?ふざけないでよ…」

 俺を睨み静かに言った。唇がわなわなと震えている。

 

 確かに桜井さんがあの時の、言うならば地味で大人しそうな椎名さんと同一人物だとは全く気づかなかった。

  今の桜井さんは服装こそ少女趣味全開の個性的なものだが、誰が見ても可愛いと判断するであろうナチュラルメイクが映える容姿や小柄ながらスタイルの良さがわかる体型。

  半年間で全くの別人に大変身していたのだ。


「違う!誤解だよ!転校したことも知らなくて他のクラスをまわって探したりもしたんだ!本当に!」

 俺が必死に弁解しようとすればするほど言い訳っぽくなってしまう。



 桜井さんは俺の顔を真っ直ぐ睨み付けると、ホームにいる人がこっちを振り向くような大声で言った。

「あたしはアンタみたいなオタクに振られるのかって悔しくて…半年間でかなり努力したのよ…っ!見た目が良くなったから今更手の平返したって遅いのよバカ!」

 周囲の人がヒソヒソしながら俺たちの様子を見ている

「そんなこと…」


 

 俺はその迫力に臆してしまい何も言い返せず口をぱくぱくさせていた。

 ホームには俺と桜井さんが乗るべき電車が到着したが、踵を返して乗り込んだ桜井さんを追い掛けるのは気が引けてそのまま電車を見送った。




 確かに桜井さんは確かに半年前とは比べものにならないくらい魅力的な女性になった。

 たまたま入会届けに書いた文字を見る機会がなければ俺に告白してくれた地味で大人しそうな子と同一人物だと気づくこともなく、ただ俺の事を嫌いなサークルの紅一点として認識していた。



 俺が今更どんなに誤解を解こうと弁明したところで桜井さんにとっては、都合のいい時だけ言い寄ってくる最低男という認識は変わらないだろう。




そもそも俺は桜井さんの誤解を解いてどうする気だったのか?

彼女への罪悪感を無くしたかったのか?

いや、違う。

彼女と友達になりたい。

誤解が原因でまともな会話をしないうちから嫌われてしまうのは悲しすぎる。




もう会うことはないだろうと諦めていたのに、同じ大学の同じ大学に入り無数にあるサークルの中で再開したのは凄い偶然だ。

電車を数本見送りながら色々と考えた結果、俺は今度こそ桜井さんと友達になりたいと思った。

…そんなギャルゲーみたいに上手くはいかないだろうけど。



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