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オタクが新歓コンパに参加してみた結果

 

 4月、俺はラッキーなことに浪人することなく無事に大学生になることができた。

 総合大学で学生数もかなり多い、所謂マンモス大学に入学した。


 結局あの後椎名さんに会うことはなく、夏休みも文化祭も冬休みも何事もなく過ぎそこそこ受験勉強を頑張ってるうちに恋愛イベント0の高校生活を終えてしまった。



 非常に残念なことに椎名さんとの青春は始まらずに終わってしまった訳だが、大学生活こそは授業にサークルに…彼女なんてできたりして…


  夢のキャンパスライフを充実させたい。




 ♦︎




  「入学おめっとーす!今日は楽しんで良かったらサークル入ってなー!」

  金髪ツーブロオシャレな男の先輩が店中に響くようなボリュームで乾杯の音頭を取る。



  入学式から一週間後、俺はサークルの新歓コンパなるものに参加していた。

  入学式の帰りにチャラそうな先輩に渡されたインカレイベント系サークルの新歓である。

  …新入生は飲食無料の文字に釣られた訳では…なくはない。

 

 しかし『充実した大学生活with彼女』のクエストを達成するために俺はサークルに入るのが近道だと考えた訳だ。

  インカレ可能なら他大の女子と知り合うこともできるだろうという計算だ。


  そういえば入学式の帰り、前を歩く新入生に渡した流れで俺にチラシを渡したチャラそうな先輩が『うゎ…コイツに渡すのはしくった…』みたいな表情をしていたような気もするが…まぁ、俺の被害妄想だろう。


  俺が入学した大学は都心で他にも色々な大学が集まる地域のため、駅周辺には安い定食屋から居酒屋、ゲーセンなど割となんでもありちょっとした繁華街になっている。


  今日の新歓コンパは駅から3分の雑居ビルに入っているチェーンの居酒屋で開催され、人数も多いことから宴会ルームを貸切っている。周りの客層をチラッと見た感じだと他のサークルもいくつか新歓をしているようだ。


  ちなみに俺は居酒屋に入ったのは人生で初めてである。

  とはいえ未成年なのでウーロン茶を飲んでいる。

  隣に座った新入生らしき男子は「カシオレのカシス抜きで!」なんて注文をして先輩を爆笑させ飲み会開始3分で話題の中心メンバーに混ざっていた。

  こういうクソみたいなギャグを堂々と言えるのはスクールカースト上位の陽キャ様にのみ許された特権である。

  俺には何がそんなに面白いのか理解できんが…

 

 彼はサークルに入って先輩に可愛がられて、同級生皆と仲良く後輩には慕われて、就活は先輩の口利きですんなりと決まり、ゆくゆくは敏腕営業マンになるだろう。そして別の部署の可愛い女子社員と結婚して幸せな結婚生活を送るんだ。

  …こんなことを考えているから俺は陰キャなんだ。やめろやめろ。


 


  さて、新歓に来て25分経ったがまだ誰とも話していない。隣のヤツなんか俺に背を向けて反対側に座ってる女子大インカレっ子を口説いている。

  正直イベント系サークルが何をするサークルか分からないが、チラシに書いてあったSNSのアカウントを覗いたたところ、いろんな大学のいろんな学年のいろんな人が集まってバーベキューしたり飲み会したりする楽しいサークル…らしい。



  俺、ここに居るの違くない?

  俺以外の新入生らしき人達は皆テンションもコミュ力も高くオシャレだ。

  女子大から参加したらしい数人のインカレ女子も綺麗に巻いた髪や濃いめのメイクが華やかで地味なオタクの俺と話す姿なんて想像出来ない。


  やはり場違いな気がする。


  そんなことを考えてたら比較的大人しめの見た目な先輩が俺の隣に座った。

 

「よ!僕はここの副代表なんだけど君、新入生だよね?名前教えてよ。」

  爽やかで陰キャに優しい。あなたが神か。

  「ぁ…た、高木ぃ…じゅんです。」

  久しぶりの発声、失敗に終わる。

  「高木くんね!皆テンション高いけど良い奴ばっかだからさ。もう友達できた?」

  「ぁ…えぇー…まだ…」

  「そっかそっか!入学してまだ一週間だしこれからだねー!」

  俺はニヤニヤしながら頷く。こんな時、どんな顔すればいいかわからないの…なんてね。

  「…」

  「…」


  ヤバい、変な空気になってしまった。『無言で頷く』はBAD コミュニケーションだったのか。

  選択肢を間違えてしまった。

  「あー…じゃあ僕他の人にも挨拶してくるから!今日は楽しんでって!じゃ!」

  これ以上会話の継続が困難と判断した先輩は、ごく自然な流れで俺との会話から戦線離脱していった。

  ごめん先輩…あなたの優しさは前期セメスターが終わるまで忘れません。



 少し離れた席で先輩と俺の会話を聞いていた人達が数人寄ってきた。

  顔がほんのり赤くて呂律が回ってる感じがする。

  早くも酔った先輩達だろうか。


「高木っち~だっけ?全然飲んでなくなーい?」

  「ぁ…えぇ…と」

  2回目の発声も失敗に終わる。

「先輩~!1年生に飲ませちゃやべーっしょwギャハハハ!!!」

  「てか高木くん見た目オタクすぎっしょw大学生になったんだしもっとハジけた方がいいんじゃない?」

  「ギャハハハwww」

 


  「あ…はい…そ、そッスね…」

  スクールカースト底辺、弱点陽キャの俺のメンタルはボコボコである。


  …なんて治安の悪いサークルだ。

  今日が特別そういう日なのか、いつもこんな感じかそれ以上なのか…


  というか他の新入生に比べて俺の扱い酷くないか?

  残念ながら歓迎されていないのだろう…



  副代表のように優しい先輩が居ることは分かったが、とにかく俺はこのサークルには全く持って向いておらず入るべきではないとよく理解した。

 


  (よし、ここは上手いこと言い訳して撤退しよう。)


 そうと決めた俺は数人に囲まれて一際大きな声と高いテンションで盛り上がっているこのサークルの代表らしき人に声をかけた


「あ、あの~」


 …話が盛り上がっていて俺の声が聞こえてないようだ。

 

「すみませんっ!!先輩!」

  「おお!…あー君は新入生かー」

  少し大きめの声の呼び掛けでこっちを向いた代表は俺の顔と服装を舐めるように見て、一瞬だけ汚いものを見るような表情を浮かべると笑顔に戻ってにこやかに言った。


  あれ絶対俺の顔やら服装やらをチェックし不合格って思っただろ。

  確かに他の新入生達と比べるとオシャレ偏差値30くらい低い自覚はあるが、あまりに露骨に拒絶されると実はかなり傷ついている。


  「あー…すみません、ちょっとお腹の調子が良くないので…お先に失礼し…」

  「おっけー!おっけー!気をつけてねー!ばいばーい!」


  おいおい。被せ気味で返事してきた上に俺が帰るのが嬉しいみたいなテンションじゃないか。まぁ、嬉しいんだろう。

  上着と荷物を持って帰ろうとすると幹事らしきせんぱいから追い打ちのように一言。


  「あ!ちょっと待って!ゴメンだけど2500円置いてってくれるかなー?」



  えぇー…俺、ウーロン茶とポテト3本しか食べてない…

  というか新入生は無料って聞いてたのに…もしかしてスクールカースト低そうな奴だけ徴収される感じですか?

  現代日本社会でこんな人種差別が堂々と行われるなんて、こんな理不尽が許されてはならない!

  …と思いながら月の小遣い5000円の半分の2500円を泣く泣く支払った。財布はスカスカだ。

  バイト探そう…





  そして俺は誰にも声を掛けられることもなく新歓を行っている宴会ルームを出た。

 

  若干目頭が熱いのは気のせいだろう…




  店の出入口に向かってとぼとぼ歩いていると10人弱が集まって盛り上がっている席からこんな会話が聞こえてきた。


  「いやー!仲間内の集まりから同好会作って最近できたばっかのサークルだけど新入生が来てくれてよかったよ!俺は一応代表。ハンネはミッチだから好きに呼んでよ!端っこの1年生から順番に自己紹介お願いね。」



  同じ大学のサークルだろうか?

  言い方は悪いがオタク寄りの見た目の大学生が集まっていた。

  会話の端々にアニメネタやゲーム内で使われる専門用語が飛び交っているためサブカルチャー系のサークルだと思う。

  高校生の頃一緒に過ごしたオタクグループのことを思い出し、なんとなく懐かしい気持ちになって聞き耳を立ててしまった。


 

  「僕は商学部1年の…」


  ボーッと眺めてたら目が合ってしまった。

  …オタク(らしき新入生)と。


 

  「あ、あの…どうしました…?」

  新入生らしき人は怪訝な顔で俺を見ている。



  何も考えず立ち聞きしていただけの俺は即座に返答することができず、

「ぁ…えと…あ…」

 とコミュ障全開のBADコミュニケーションを展開してしまった。


 

 その場の空気が気まずくなりかけた時、固まる俺に気づいたサークルの代表と自己紹介していた人が数秒俺の顔を見つめ、何か気付いたようにパッと明るい表情になり言った。


  「君!サークルSNSに新歓参加希望のDMくれた子だよね!今始まったばかりだからこっち座ってよ!」

  「え?いや俺は…違…」

  「いいからいいから!この居酒屋分かりずらくて迷ったのかな?ごめんね!」


  代表らしき人に半ば強引に座らせられてしまった。


  しかしいくら記憶を遡っても俺はオタクサークルの新歓に参加希望のDMなど送った記憶はないため別の誰かと勘違いしているのだろう。


  「俺、DMとか送ってなくて…」

  「もしかして想像よりオタク集団すぎて引いちゃったかな?新入生は無料だからご飯だけでも食べてってよ!」



  新歓で女子と話すことを期待し、大学生っぽい服装にしたつもりだったがオタクサークルの一員に見えてしまうのか…と多少心にダメージを受けたが新入生無料飯に惹かれて参加してもいいかなと思ってしまった。

  まさかここでも後になってから2500円取られたりしないよね?

  そんなことになったら俺の財布はぺったんこに…

 

  なんてことを考えていると代表が一言。


  「じゃあさ!遅れてきた君も自己紹介してよ!学部と名前と…趣味とか適当にさ。」

  他のサークル員が俺の方を見る。

  さっきのイベント系サークルとは違ってウェルカムな雰囲気でその場の全員、俺が話すのを待ってくれている。

  居心地のいいサークルだな、と感じた。


  「あ…俺は理工学部1年の高木順です。趣味は…受験でしばらく離れてたけどアニメとかはよく観ます…」


  可もなく不可もなく深く話さず当たり障りのない自己紹介をするとサークル員が矢継ぎ早に話し掛けてきた。


  「僕も1年!教養科目のクラス一緒になるかもだねー。よろしく!」

  「アニオタなら今期の魔女っ子マリリンはマストやぞ!女児向けアニメに見えるけどSFっぽい要素もかなり…」

  「我のプレイしてるネトゲがアニメ化される故、高木氏にも是非原作をプレイして頂きたいぞぉ~」


  俺は聖徳太子じゃないぞ。

  半分くらい聞き取れなかったが皆が好意的に受け入れてくれようとしてくれるのは理解できた。


  この人達とオタク活動を楽しむのも楽しそうだと思い、気になったことを聞いてみた。


  「あの…ここのサークルはどんな活動をしているんですか?」


  オタク系の趣味の学生が集まるサークルが無数に存在することは知っていたが、漫画研究部からアイドルのコピーダンスを練習するものまで色々あるからこのサークルの活動内容を知りたいと思った。



  「よくぞ聞いてくれた!」


  サークルの代表が立ち上がり熱く語り始めた。


  「我らサブカルチャー研究会!略してサブ研は……サブ研は…」


  代表は言葉に詰まってしまった。


  「その…どんなジャンルのオタクでも大歓迎で…活動…んん~~…」


  代表は眉間に皺を寄せて考える人になってしまった。


  「オタクが楽しく遊ぶサークルだ!!!」


  代表は雑にまとめた。

  これといって特定の活動は未定で、同じ趣向のものが集まって盛り上がる。それってさっき俺が参加して(逃げ出し)たイベント系サークルと似たような趣旨のような…


  「あの、間違ってたら申し訳ないんですけどイベントサークルみたいな感じですか?」


  代表ははっとしたような顔で、


「そう!そうだ!オタクが集まってオタク活動を楽しむサークルだ!ま、まぁ、たまにはオタク集団でイベントなんかをするのもいいよね!あえてね!」


  なんとサブカルチャー研究会の活動内容は代表の思いつきで今決まったらしい。

  その直後隣に座っている俺は聞こえてしまったのだが、代表は物凄い低く小さな声で呟いた。


「新入生の頃イベサーの新歓に行ったらかなり辛い目にあってさ、オタク仲間となら楽しい大学生ライフ送れるかなって…」




  あぁ、先輩。

  あなたも今日の俺と同じ経験をしていたのですね…

 


  サークルの趣旨に則り、再びオタクトークを始めようと皆が話し始めようとしたその時ー




  「遅れてすみませんっ!サブカルチャー研究会の新歓ってここですよね?一昨日DMした1年の桜井です!」


  走ってきたのだろうか。

  息を切らせて入ってきた声は女性のもので、思わず顔を見て見ると…



  清楚で可愛らしい顔立ちの女の人が立っていた。

  容姿の話をすると俺の理想の女子の要素を詰め込んだようなどストライクだ

  しかし服装はフリルが多くアイドルのような少し奇抜なもので、ツインテールに結った髪も大学ではなかなかお見掛けしない。

  極めつけはニーハイソックス。 絶対領域に猫までいる。



  可愛いけど変わった子だな。

  これが俺の第一印象だった。



  そしてこれが俺とオタサーの姫との出会いであった。

 

 


 

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