8.テイマーの本領発揮
問題がある場所は、俺達の居た森から東へ進んだ別の森林だった。
当初の目標だったアルバート王国から離れたらどうしようかと思っていたが、目標の方角が同じで助かった。
「みんなの話によれば、この森の奥深くに件の魔物は住み着いているようです」
言われてみれば確かに、深部から強大な力を感じる。
だが、これは魔物というより、もっと違う別の…………。
「レイジさん?」
「……あ、いや……なんでもない」
ここであれこれ考えて立ち止まっていても、先に進まないことには何も始まらない。
「どんな影響が出ているか分からない。慎重に行こう」
こうして俺達は森を進んだ。
このような時も、フィレーネのテイマーとしての活躍は凄まじかった。
「レイジさん。この先、20歩進んだところに魔物の群れです」
「了解した」
フィレーネは森で出会った動物をすぐに手懐け、片っ端から協力してくれるよう頼んでいた。
おかげで地上や空中全ての範囲から敵の位置を把握出来て、安全に遠回りしたり、こちらの気配に気づかれる前に奇襲を仕掛けることに成功している。
普通、魔物が多く蔓延っている森では、こんな簡単に進むことは出来ない。
生い茂る木々のせいで視界は悪く、どこから魔物と出会うか分からない状況。どのような手練れ冒険者でも信用に進むべきで、同時に常に周囲を警戒しているせいで精神面での疲労も半端ではない。
もし俺一人だったら、奥に到達するまで丸一日は掛かっていた。
それが一時間も経たないうちに、もう森の深部まで半分のところまで来ているのだから、案外テイマーという職業は馬鹿にならない。『1パーティに1人』とはよく言ったものだ。
「レイジさん。このまま真っ直ぐ進めば深部に行けるそうです」
「分かった。……だがフィレーネ。一度ここら辺で休憩しよう」
「え? 私の心配でしたら、まだ……」
「勿論それもあるが、これより先は魔物がより多く出現するようになる。なるべく万全な状態で進みたいんだ」
急なことで出発になったから、最低限の準備しかしていない。
今日はまだ様子見で済ませようと思っているが、もし多くの魔物に見つかって乱戦にでもなったら面倒だ。開けている場所ならまだしも、視界が悪い森の中では流石に分が悪い。
「レイジさんがそう言うのであれば、分かりました。……みんな、少し待っていてくれる?」
獣達もそれに了承してくれたのか、ひと鳴きして場を離れて行った。
どうやら、魔物が近づいて来ないか警戒してくれるらしい。これで俺は準備の方に専念出来る。
「本当に、ありがたいな」
「レイジさんのお役に立てたなら嬉しいです。でも、まだ序の口ですよ。もっと色々言ってくれたら、私も……」
「その気持ちは嬉しいが、無理だけはしないでくれよ? これで倒れられたら申し訳なくなる」
フィレーネの心の傷はまだ癒えていない。
今は一つの目標のために頑張っているため、あの件のことを一時的に忘れられているだけ。表面では大丈夫だと思っていても、深い部分では無理をしている可能性だってある。
そういう奴は今まで何人も見てきた。
そして、そんな奴に限っていつも無理をして、最後は…………やめよう。これはあまり思い出したくない記憶だ。
「ぐるるる」
と、場を離れたはずの獣が一匹だけ戻ってきた。
その口には二匹の兎が加えられていて、ぽとりとフィレーネの前に落とした。
「え、くれるの?」
「ぐる」
「ありがとう、狼さん」
「ぐるぅ」
そして獣は再び警戒のために戻って行った。
「あいつらも腹が減っているだろうに……申し訳なくなるな」
「殺さずに見逃してくれたのと、魔物から助けてくれるお礼らしいですよ?」
「……そうか。それは責任重大だな」
もし失敗したら、恨みを大きく買いそうだ。
「そろそろ昼も近い。この準備が終わったら兎肉を使って昼食を作ろうか」
「あ、それなら……次は私が作ります。これでも料理には自信があるんですよ」
「本当か? それは楽しみだな。それじゃあ、お言葉に甘えて昼食はフィレーネに任せていいか?」
「はいっ、お任せください……!」
そう言うなり、フィレーネは兎の解体作業に取り掛かった。その手際は随分慣れているように見える。流石は森の狩人と言ったところか? きっと故郷でも何度か獲物を解体することはあったんだろうな。
「ふふっ、レイジさんに手料理……」
何かブツブツと言っているが、楽しんでいるようで何よりだ。
もしかしたら料理好きなのかもしれない。彼女さえ良ければ、日替わりで料理担当をするのも悪くないな。