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7.仲間の意思


 魔物がやって来て住処を奪われたため、この地まで逃げてきた。

 きっと、こいつらは生きることに無我夢中だったのだろう。そう考えたら、火を怖がらなかったことの異常性にも納得だ。


 実際、こういったことは珍しくない。


 野生の環境は弱肉強食。力無いものは力あるものに支配されるのが当たり前の世界だ。

 最悪な場合が、住処を奪われた獣が餌を求めて人の街に近づき、危害を加えてしまうことだ。その場合は害獣として駆除するしかないのだが、今回はそうなる前に発見出来て良かった。


「その、こいつらの縄張りを奪った魔物は?」

「分からないみたいです。凄く怖かったとだけ……ごめんなさい」

「いや、それが分かっただけでも十分だ」


 フィレーネが居なければ、問答無用で獣達を殺していただろう。

 魔物に住処を奪われて逃げてきたなんて、俺には絶対に分からないことだからな。


「……あ、あの……!」

「ん、どうした? フィレーネ」

「これから、どうするんですか……?」


 どうするかと問われ、俺は「ふむ」と考える。


「フィレーネはどうしたい?」

「えっ?」


 フィレーネは分かりやすい戸惑いを見せた。

 その様子がおかしくて、俺は笑いを我慢することが出来なかった。


「すまんすまん。今のは意地悪だったな」


 彼女からは「助けたい」という強い気持ちが窺えた。

 だが、まだ俺に遠慮しているのか、その思いを我慢しているようにも見える。


「フィレーネ。俺達は仲間だ。言いたいことがあるなら言ってくれ。……仲間に遠慮され続けるのは、寂しいだろう?」


 ハッと我に返ったように、フィレーネは体を大きく震わせた。


「ごめんなさい、私……そんなつもりじゃ……」

「分かっているよ。自己主張しづらいのも理解出来る。俺達はまだ出会ったばかりだから余計にな。でも、焦らずゆっくりでいいから、少しづつ自分の意見を言ってくれると嬉しい」


 ここまで言えば、大丈夫か?


「…………レイジさん、お願いがあります」

「ああ、なんだ?」

「この子達を、助けたいです……お願いします。私も頑張って役に立ちます。足手纏いにならないので、この子達を」

「それじゃあ凶暴な魔物とやらのところに行くか。方角はどっちだ?」

「え? ……え、あの」

「どうした? 助けるんじゃないのか?」

「いや、そうなんですけれど……助けて、くれるんですか?」


 当たり前の問いかけに、俺は大きく頷いた。


「危険とまではまだ分からないが、環境を変えるほどに強力な魔物を放っておくことは出来ないからな。そのついでに助けるつもりだった」


 魔物は放っておくと後々脅威になる。

 普通ならギルドに報告し、正式な依頼として調査をするのだが、そのために王都に戻るのは嫌だ。


 ならば自分達で問題を解決するしかない。

 だが、危険な場所に行くことになるのだから、俺の独断で決めるわけにはいかない。フィレーネの意見が欲しかったのは本当だ。


「……レイジさんは意地悪です」


 これにはフィレーネも頬を膨らませ、抗議の目を向けてくる。

 そんな顔も可愛いと思いながら、俺は素直に謝罪した。


「すまん。誰かのために行動しようと悩むフィレーネが可愛くてな。つい試すようなことを言ってしまった」

「か、かわっ!? うぅ……!」


 と、フィレーネは立ち上がってスタスタと歩き始めた。


「おい、どこに行くんだ?」

「この子達の住処です! 早く来ないと、置いて行っちゃいますからね……! ほら、みんなも行きますよ!」

『ぐるぅ』


 号令により、獣達は彼女に追従した。この短期間で随分と手懐けたらしい。もう獣達からは危険な雰囲気を一切感じなかった。

 冒険者として稼いでいた時、テイマーとは何度かパーティを共にしたことがあるが、彼女はその中でも随一だな。まず複数の動物を同時に使役出来るだけで、テイマーとしては最上位だ。


「もしかしたら、俺は凄い仲間を見つけたのかもしれないな……」


 ──俺も、負けていられない。

 補助はほとんど出来ない分、戦力の方で頑張ろう。そう思い、俺はフィレーネの後を追いかけた。


次回から1日1話、12時の更新になります。


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