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5.新たな仲間


『エルフ』という亜人種は非常に珍しい。


 本来、エルフは人間の街に住んでいない。

 森の奥深くで暮らし、他種族との関わりを一切遮断している種族。俺も過去に一度だけ見たことはあるが、それ以降、一切エルフの姿を見たことはなかった。まさかここで見られるとは。

 エルフの特徴として挙げられるのは尖った耳と、産まれてくる誰もが美男美女であること。……それを抜きにしてもフィレーネは特に美しいが。


 だが、これで今回の件について全てが合致した。

 フィレーネが男達に追われていた理由は、彼女が『エルフ』という種族だからだ。


「あの男達は、人攫いだったんだな」


 先程も言った通り、エルフは非常に珍しい。

 そのため違法奴隷の中でも特に高価で取引されている。エルフ一人につき一生遊んで暮らせる大金を得られるため、ドワーフや獣人と言ったどの亜人種よりも奴隷商や人攫いに狙われやすいのだ。


「どうしてエルフの君が王都に?」

「私は、っ! わたし……!」


「──落ち着け」


 気付けば俺は、フィレーネの体を抱きしめていた。


「レイジ、さ……っ」

「大丈夫だ。言いたくないなら言わなくていい。……でも、ここまで関わったんだ。俺はフィレーネの力になりたい。何があっても最後まで君を守るから。信じてくれ」


 ──って、まだ出会って僅かなのに何を言っているんだろうな。


 それでも彼女が涙を流す姿を見たくなかった。

 力になれるのであれば、出来る限りのことをしてあげたい。助けを求める彼女の手を取ってあげたい。他でもない、この俺がだ。


 これは紛れもない俺の本心だ。


「……聞いても、幻滅しませんか?」

「ああ、しない」

「本当に、守ってくれますか?」

「約束する。男に二言はないからな」


 俺の胸の中で、フィレーネは深呼吸を数回。

 ようやく落ち着いたのを見計らって体を離し、彼女の口から紡がれる言葉を待つ。


「私、パーティに入っていたんです。集落で一緒に行かないかって誘われて、最初はみんな優しかったんですけど、昨日……リーダーの人から体の関係を迫られて」


 あ゛ぁん?


「も、もちろん断りましたよっ! その人は、最初は私に優しくしてくれたんですけど、みんなは絶対に信じちゃダメって言っていたし、たまに変な目で私のことを見ていて……正直怖くて」


 断ったと分かって、ホッと胸をなで下ろす。

 それにしても強引に体の関係を、ねぇ……。どこの誰だが知らないが、男の風上にも置けない奴だな。誰かに殺意が湧いたのは久しぶりだ。


「それで断ったら、すごく怒られて……言う通りにならない奴は出ていけと言われて、お金も装備も全部奪われて……わたし……」

「それで彷徨っていたところを、人攫いに狙われたのか」

「……はい。だから、レイジさんが来てくれて、本当に……嬉しかった。あのままだと私、一生……」


 となると、人攫いはフィレーネがエルフだと知らなかった説も考えられる。

 夜に一人で路地裏を彷徨い歩いていた綺麗な女がいたから、高く売れると思って追いかけた。そこで俺が助けに入ったと。


 考えれば考えるほど、胸糞悪い話だ。


 この件でフィレーネが男性不信になっていてもおかしくない。

 いや、もうすでになっているだろうな。彼女のことを助けた俺にさえ、まだ少し怯えたような眼差しで見つめてくる。

 体の傷は魔法で簡単に治るが、心の傷はどうしようもない。

 フィレーネのような心優しい子に、この先ずっと癒えない傷を作った奴らを、俺は心底許せそうになかった。


「パーティってことは冒険者なんだよな? そのリーダーの男の名前を教えてくれるか?」

「アレックス、です」

「……ん? その名前は」


 アレックスという名前に聞き覚えはある。

 俺の記憶が間違っていなければ、それはクレステッド王国の『勇者』だ。


「エルフを連れている勇者がいる。と風の噂で聞いたことはあったが……まさか、フィレーネのことだったのか」

「………………はい」


 きっと辛かっただろう。

 誰かに助けを求めたくても、その相手が善人だと思えないなんて……狂ってもおかしくはない。


「フィレーネ。お前はこれから、どうしたい?」

「…………わかりません。集落を出た私は『はぐれ者』になりました。唯一の居場所だったパーティからも、追放されました。……もう、私の居場所は……ありません」


 俯き、悲しむように彼女はそう言った。

 それは今にも消えそうな雰囲気があって、見ているこちらも泣きたくなる哀愁すら感じられた。


「だったら──」


 迷ったのは、ほんの一瞬。

 俺は、フィレーネに手を差し伸べる。


「だったら、俺と一緒に来ないか?」

「…………え?」

「恥ずかしい話、俺も帰る場所がないんだ。実は、俺も昨日まで別の勇者パーティに所属していたんだが、フィレーネと同じく追放されてな。これからどうしようかと思っていたんだ」

「レイジさんも、私と、同じ……?」

「ああ、境遇だけを見たら同じだな。せっかく勇者パーティという責任を捨てられたんだ。同じ追放者同士、これからは自由に各地を歩き回るのも悪くないと思うが……どうだろう?」


 ここでフィレーネを置いていけない。

 彼女はこれからも『エルフ』という理由だけで苦労するだろう。

 それを分かっていながら、「そうか。これからも大変だと思うが頑張ってくれ」と突き放すのは、彼女を追い詰めた最低野郎どもと同じだ。


「……………………」


 返事は、ない。


 ……はっ、そうだよな。

 急にそんなことを言われても、困らせるだけだよな。


「悪い。今のは……おい、大丈夫か!」


 フィレーネは泣いていた。

 泣き喚くのではなく、言葉を発さずにただ静かに涙を流している。


 当然、俺は慌てた。

 まさか勧誘で泣かれるとは思わなかったんだ。

 思い返せばそうだ。フィレーネは勇者から同じような誘いを受けて、集落を出たと言っていた。トラウマになっている可能性だってある。……どうしてそれに気が付かなかったんだ!


「ちが、違います……。私、変なんです。悲しくないのに、嫌じゃないのに……涙が出て、止まらないんです……」


 フィレーネは泣き止まない。

 美しい顔がぐしゃぐしゃになるほど泣いているのに、彼女は安心したように笑っていた。


「レイジさん。私、一緒に行ってもいいのでしょうか。……こんな私が貴方の仲間になっても、許してくれますか?」

「…………そんなの、当たり前だろ」


 彼女の気持ちを嬉しく思いながら、俺は改めて──。


「フィレーネ。一緒に行こう」

「っ、はい! レイジさん……!」


 こうして俺達は、仲間になった。

 勇者パーティから追放され、帰る場所を失った俺達はこれから新たな人生を歩む。


「これからよろしく、フィレーネ」

「私こそ、よろしくお願いします。レイジさん」


次回の更新は19時です。


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