2.少女との出会い
晴れて(?)、俺は勇者パーティから追放された。
冒険者から『黒の魔剣士』という異名で呼ばれ、ホームにしていたアルバート王国の王族からも期待されていた俺は、勇者選定の場に招待され、勇者パーティの一員になって世界を救ってくれとの指名依頼を受けた。
だが、もう関係のない話だ。
国王からの依頼は、勇者が追放を言い渡した時に無効となった。
世界を救うという大きな使命も、同時に消え失せた。
勇者パーティの重荷も無くなった。
「俺はぁ、自由だぁああああああ!!!!」
勇者パーティから追放された、その夜。
俺はその街で一番大きな酒場まで足を運び、ヤケ酒を楽しんでいた。
周りの雰囲気に影響されているのもあって、すでにジョッキ十杯は飲み干している。最高記録だ。
ここはセントリア大陸の北部に領土を構えるアルメイア王国。
今は最初の勇者がこの世界に誕生した日を祝う『勇者降臨祭』が行われ、各国が抱える勇者パーティが招待されていた。俺もその一人だったが、もうどうでもいいことだ。使命や責務なんて関係ない。これからは自由にやらせてもらう。
そして────
「遊ぶだけ遊んだら、この後はどうするかな」
俺は冒険者だ。漆黒の全身鎧と、黒曜石の剣を身に付けていたせいで『黒の魔剣士』という異名を付けられ、冒険者階級の中で最も高い地位に居た。
冒険者に戻ろうと思えば、すぐに戻れる。
むしろ、勇者パーティにいた時より稼げるだろう。
「勇者、か……」
恩がある国王の頼みだからと、仕方なく勇者の面倒を見てあげていたが……まさかそれを仇で返されるとは。
思い返せば本当に救いようのない奴だった。
勇者に選ばれたからと調子に乗り、自分こそが一番偉いのだと誰の言葉も聞き入れない。
与えられた聖具の力だけに頼り、鍛錬もロクにしなかった。
それを注意したら逆上。
守るべき民に平気で危害を加える。
何事も自分が最優先で、戦闘中であろうと少しでも危険だと感じたら仲間を置いて逃げる。
…………うん。最低にもほどがあるな。
どうして神は、あんな奴を勇者に選んだのか?
本気で理解できない。……ま、それを口にしたら教会から睨まれるが、思うだけならタダだろう。
「チッ、嫌な顔を思い出すと酒が不味い……」
今までは我慢しなければと考えないようにしていたが、こうして勇者パーティから離れてみれば……あいつらに対する不満は無限に湧いてくる。
思い出したせいで酔いが覚めてしまった。
このまま飲み続けても酒が不味いだけだし、時間と金の無駄だ。
会計を済ませて酒場を後にし、少し肌寒くなった夜道を歩きながら今後の予定を考える。
────、──!
「ん?」
その時、遠くの方から何者かの声が聞こえた気がした。
周囲で騒いでいる酔っ払いの声でも、まだ微かに残る街の喧騒でもない。耳を研ぎ澄ませて集中する。……これは女性の悲鳴か?
「何か、厄介事の臭いがするな」
大方、酔っ払いが通行人の女性に手を出したのだろう。
こういった問題は見回り騎士の仕事だが、何か起こっていると分かっていながら「俺には関係ない」と無視することは出来ない。
「【光の加護よ。癒しの力を我に】」
聖属性魔法で体内の毒素を抜き、声のした方向へ走る。
方角からして場所は路地裏だ。そこは迷路のように道が入り組んでいて、土地勘に詳しくない者が足を踏み入れれば迷子になる可能性だって十分にある。夜になれば街灯も少なくなり、悪い連中がたむろする危険な場所に変化してしまう。
そのような場所にか弱い女性が迷い込んだら……。
「なるべく、急いだ方がいいだろうな」
建物を駆け上がり、屋根を伝って最短距離を走る。
おかげですぐ辿り着いたのは良いが、流石に暗いな。気配を辿ってそれらしき人物を──見つけた。
追われている女性に魔の手が届く直前、俺は彼女らの真上から登場した。
「だ、誰だテメェは!?」
男達は乱入してきた部外者に酷く狼狽している。
その隙に女性の体を近くに抱き寄せ、様子を観察する。
幸いなことに怪我は無さそうだ。
だが、息が荒いな。
相当慌てて逃げていたんだろう。
「大丈夫か?」
「……、…………」
女性はこちらに目を合わせようとしない。
無理もない。大人数の男どもに追われ、そこに見知らぬ俺が出てきたんだ。警戒するのは当然だろう。
「俺は君の味方だ。何があった?」
「…………たす、け……助けて、ください」
「ん、了解した」
ここで騒ぎを起こすのは得策ではない。
今は彼女を匿うことが先だ。
「まだ走れそうか?」
「…………(ふるふる)」
「なら、ちょっとだけ我慢してくれ」
「え? ──きゃっ!」
女性の体を両手に抱きかかえ、走り出す。
……軽いな。
これなら男を巻くのに苦労はしなさそうだ。
「どこか行くあてはあるか?」
「っ、ない……です……」
「そうか。俺もだ」
「…………?」
「すまん、今のは忘れてくれ」
ちょっとした軽口で気を楽にさせてやろうと思ったんだが、余計に心配させてしまったようだ。
やっぱり、こう言った気遣いは苦手だな。
「このまま王都を出る。身を隠すなら森の方がいいからな」
王都の外には危険な魔物がうろついている。
先程の輩は武器を所持していなかったから、わざわざ危険を冒してまで外まで追いかけては来ないだろう。
逃げ先としては最適だ。
そう思い、俺は謎の女性を抱えたまま夜道を駆け抜けた。
次回の更新は土曜の10時です。
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