1.勇者パーティとの別れ
新作です。
よろしくお願いします!
この世界には『勇者』が複数存在する。
セントリア大陸に領土を構える国々が抱える勇者──その数7人。
基本的に行動を共にしない彼らが集まる日が、一年に一度だけ訪れる。
『勇者降臨祭』
神によって最初の勇者が選定された日を祝う祭りは、年ごとに開催される国が変わる。
今回はセントリア大陸北部に位置するアルメイア王国で行われた。国家では一番の領土を持つところだ。その分、祭りも大規模になり、今、アルメイア王国の首都には各国から勇者を一目でも見ようと訪れた旅行客で溢れかえっている。
そんな祭りに勇者のみならず、その仲間である勇者パーティのメンバーも招待される。国からの正式な招待状だ。それはそれは豪華なおもてなしを受け、式典や舞踏会などに出席する予定がいくつも出来ていた。
気が遠くなる多忙さだ。
しかし、これも勇者パーティの一員である役目だと思い、頑張ろうと思っていた矢先、それは勇者の口から告げられたんだ。
「サポートしか出来ない雑魚剣士はクビだ、グレン」
唐突に告げられた言葉。
そう言った勇者の口はニヤニヤと曲がり、その顔は「ざまぁみやがれ」と語っている。
「…………」
今しがた追放を告げられた俺は冷静に、ゆっくりと周囲を見回した。
それまで共に行動していた勇者パーティーの仲間に動揺は見られない。……すでに話は通っていたらしい。ここで誰も異議を唱えないということは、仲間たちは俺の追放を容認したのだろう。
「聞こえなかったか? ロクに攻撃も出来ない前衛は、ハッキリ言ってお荷物なんだよ。さっさと俺のパーティから出ていけ」
彼らと旅をして三年。
それなりの仲間意識は芽生えてきたと思っていたが、その結果がこれか。
「分かった。勇者の言う通り、俺はここで抜けさせてもらう」
思い返せば、どいつもこいつも馬鹿ばかりだった。
勇者に媚びへつらう仲間。神に選ばれた勇者に取り入ろうと熱を上げ、戦闘の技術を磨くより勇者のご機嫌とりに夢中だった。
特に聖女として派遣されてきた女は酷かったな。事あるごとに勇者の腕に絡まっていて、ずっと発情してんのかと思うほどに勇者を誘惑していた。女の武器を使うにしてもやり過ぎで、そのことを思い出すだけで顔にシワが寄るほどに酷かった。
正直に言ってしまえば、俺はこれを良い機会だと思った。
何度注意しても立ち振る舞いを直さない馬鹿勇者。彼に気に入られようと正しい正しくないに関わらず勇者の味方をする仲間たち。事あるごとに俺を敵視する聖女ビッチ。
彼らと、もう共に行動しなくていい。
もう二度と、馬鹿の相手に頭痛を覚える必要はない。
神に選ばれたパーティー?
──んなもん知るか。
最初に常識をぶち抜いてきたのは──あっちだ。今更こちらが遠慮する必要なんてない。
むしろ今までが優しすぎたんだ。何度も仲間の安全を優先してアドバイスをして、戦闘中も防御を無視して敵に突っ込む勇者のサポートをしたその結果が、勇者パーティーからの追放だ。
愛想をつかすのも無理はないだろう。
「じゃあな。俺が抜けた後も魔王討伐頑張ってくれ」
赤の他人に優しくする義理はない。
俺はすでに彼らを見限っていた。
追放されたのなら、ここに用はない。
折角、勇者降臨祭のために大陸一の国家へ遊びに来ているんだ。どうせ自由になったのだから、気が済むまで遊んでみるかと勇者たちに背を向け、歩き────
「おい。待てよ」
────出そうとしたが、馬鹿勇者がそれを止めた。
追放しておいて今更何の用だと苛立ちながら、どうせ最後なのだから話くらいは聞いてやってもいいかと振り向く。そして、俺はその優しさを出したことを後悔することになった。
「金と装備は置いていけ。今まで育ててやった謝礼にな」
「ざけんな今すぐぶっ◯してムカつく面を叩き斬ってやろうかこの野郎」という言葉をギリギリで我慢しつつ、俺は色々と振り切れた純真無垢な笑顔を浮かべながら、親指を下に向ける。
「すまん。寝言は寝てから言ってくれ」
我慢したつもりが、我慢できなかった。
脳内に思い浮かべた言葉が同時に口から漏れ出たんだ。無意識は怖いな。本人ではどうしようもない事が起きてしまう。だから先程の発言も俺は悪くないと主張したかったが、それは無理そうだ。
「テメェ、死ねやぁ!!!」
「……うわっ」
剣を抜かれ、そのまま振り下ろされる。
国によって招待された高級宿泊施設。そこには勿論、勇者パーティー以外の客もいる。周囲には俺たちのやり取りを観察している人もちらほらと見受けられた。
…………なのに、勇者は感情的になって剣を振り抜いた。
これほどの馬鹿だとは思わず、俺は一瞬、反応が遅れてしまった。
気が付いた時には、奴の凶刃は目と鼻の先。
避けると施設の床が傷付く。従業員に迷惑を掛けられないため、仕方なくその剣先を摘んで止めた。
「なっ、テメ──グボァアアア!」
そのついでに顔面を殴ってしまったのは、ただの無意識だ。
勇者はぶん殴られた衝撃で大きく吹っ飛び、何度か地面を転んだ後に壁へと激突した。そこまで強い力を入れた覚えはなかったが、勇者の滑稽な姿が見えたので良しとする。
「店で騒いだらダメだろう。それに剣を振り抜くなんて、あまりにも常識が無さすぎる。何回も注意したと思うが、本当に反省しない奴だな……」
呆れて言葉も出ないとは、まさにこのことだった。
慌てて駆けつけてきたオーナーに事情を説明。騒がせてしまったことを謝罪し、迷惑料として金を渡す。今度こそ立ち去ろうとしたところで再び目の前に立ちはだかり、邪魔をする者が現れた。────聖女だ。
「レイジさん。勇者様へ何たる無礼を……許されることではありませんよ」
「ハッ! 生憎だが、俺は悪いことをしたと思っていない。むしろ、急に追放を言い渡した挙句、金も装備も置いていけという非常識な言葉。更には店の中で剣を振り回すとか、どう見ても勇者のほうが無礼だと思うが……どうだろう?」
周りで茶番を見守っていた宿泊客も、非難する目で勇者を見ている。
勇者による報復を恐れているのか言葉にはしなかったが、どちらが悪者として見られているかは一目瞭然だった。
「この件は、国王に報告させていただきます。今更後悔しても、もうおそ──」
「今度は権力で脅すのか? 勝手にしろ。国王はお前たちと違って賢いお方だ。どちらが悪いかなんて顔を見ただけで察してくれるだろう」
俺は国王と何度か顔を合わせ、話したことがある。
ただの冒険者にも気兼ねなく接してくれる素晴らしい人だ。
十中八九、目の前の聖女は有る事無い事を吹聴するだろう。
それを踏まえても、国王が片方の話だけを鵜呑みにすることは無いと断言できた。だから権力での脅し文句も、俺には効かない。むしろ、次々と醜い様を見せてくれる元仲間たちを滑稽に思う。
「っ、本当にいいのですか! 貴方は、勇者様と我々教会を敵に回すことに」
「──そろそろ、黙ってくれるか?」
「ヒ、ゥ……!」
いい加減うるさく感じたので、低い声で聖女を制する。
たったそれだけで、聖女は口を閉じて力なく地面に座り込んだ。
「…………はぁ……」
その様子を見て、俺は心底残念に思っていた。
勇者パーティーとは、魔王軍との戦いで最前線へ行く最強のパーティーであるはずだ。他の勇者パーティーよりも強いとは言わないが、それでも普通の人間よりは実力も度胸も上だと思っていた。
だが、これは何だ。
その勇者パーティーの一人が、威圧だけで戦意喪失。
…………笑えない冗談だな。
「今まで世話になったな。お前たちは俺が抜けても何も変わらないと思うが、まぁ頑張ってくれ」
今度こそ、俺は勇者パーティーから別れを告げた。
彼の名を叫ぶ勇者の声も、去りゆく背中を穴が空くほどに睨みつける聖女の視線も、彼の威圧に怯えて終始何も言わなかった他の仲間たちも。全てを無視して──俺は新たな人生を歩き出したんだ。
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